42章〜救世主の少女〜
「本当に誰も……いないな」
リエルが門を破壊して境界門の中に入ったが、国王直属兵が隠れている。というわけでもなく、簡単に下町に入ることができた。
「何か緊急の事が発生したのかも。王都に敵国が侵入しようとしてるとか」
「流石に戦争はないんじゃない?」
大陸戦争が終わったあと大陸は安定した状態になってきていて、領地の小競り合いこそ怒っているものの、戦争自体はほとんど起きることはなかった。
「あれじゃない……?」
ノックスが指差した先で、下町の人々が全員さまざまの武器を持っている。
それに対面する形で、銃を構えた国王直属兵が立ちはだかっている。
俺たちは気づかれないように、ゆっくりと近くの家の影から覗き込んだ。
「最後の警告だ。お前達には拘束命令が出ている。直ちに武器を捨てて本部について来い」
しかし、人々は聞く耳を持たずに武器を下ろさず、一触即発の状況が続く。
その状況を壊したのは一人の男性だった。
大声で叫びながら、一番手前の銃を持つ男にナイフを突き刺しに行く。
が、その兵士は一瞬で反応して男を組み伏せ、地面に倒れた男の頭に銃口をつけた。
乾いた発砲音が響き、男の四肢から力が抜ける。
兵士はその体をゴミのように道の端に捨てた。
「お前達には勝ち目がない。武器を捨てろ」
一瞬で味方の男が倒されたことで人々の顔に焦りが見え始めて、顔を互いに見合わせ始めた。
しばらくして、一人の若い男が自分の持っているマスケット銃を地面に捨て、両手をあげて投降する態度をを示した。
「よし。手を上げたままこちらに来い」
男が手を上げたまま兵士の方に近づく。
「そのまま膝をつけ」
その指示に従い膝をつく直前……男は腰元に忍ばせていたナイフで司令官らしき男を切りつけた。
男が息を呑んだ。
男が切りつけようとしたナイフの刃が掴まれていた。
「やはり隠し持っていたか」
男の手が捻られ地面に倒れ込み、後方にいた兵士に注射を打たれた。
男も同じようにぐったりとして動かなくなる。
「後の者は最後まで抵抗し続けるか……愚かだ」
兵士たちが人々を取り押さえ始める。
……全員殺される……!
俺とリエルが飛び出そうとするが、玲人に肩を抑えられた。
『リエルも流羽人も、魔力や血はちゃんと残ってるのか?』
玲人の指摘はもっともだ。でも……
人々と国王直属兵たちとの間にグレネードのようなものが飛んできた。
「「危ない!」」
ノックスが俺を、リエルが玲人を素晴らしい反応速度で引っぱり、壁の内側に入り爆風の被害を防ごうとした。
しかし、爆発は起こらなかった。
そこからは煙が立ち、何人かのうめき声と人が倒れる音だけが聞こえた。
「スモークグレネードか」
玲人が再び家の陰から覗き込む。
煙がなくなると、その場には首が落ちている国王直属兵。それからその死体を兵士と同じように道の端に蹴り飛ばす幼い少女がいた。
「フラマ!来てくれたのか!」
「うん。少し遅れてしまったけど」
少女は答えたあと警戒するように周りを見渡した。
その少女と完全に目が合う。
……反応した時には目の前に煙が上がっていた。
まずい……敵とみなされた……?
俺は煙の外に逃げ出そうとして、一度家の壁に激突した。
再び立ち上がった時、俺は足を払われて後ろ側に倒れ込み、首にナイフの刃が突きつけられているのを見た。
体を完全に押さえつけられ抵抗することもできない。
「あなた達は誰?国王の諜報部隊か何か?」
幼い声の少女が強い姿勢で問いかける。
「……ただの旅人だ」
「じゃあ証明してよ」
「証明……と言われてもな……」
自分が旅人だ。と証明するものなんてそう簡単には思いつかない。
「……境界門の通行許可証ぐらい持ってるはずでしょ?」
「悪いが不法侵入に近くてな」
煙がなくなっていき、視界が戻ってくる。
俺を押さえつけていた金髪の少女は、俺よりもずっと身長も低い。
「「「流羽人(兄さん)!」」」
「近づかない方がいいと思うよ。私かなり反射神経に自信はあるから」
……その言葉で3人の動きが一瞬で止まる。
「別にこのお兄さんの代わりにやっても構わない。あなた達が旅人である証拠を出して」
「そんなもの……」
「このお兄さんは不法侵入と言ったけど、そんなことできるわけがない。境界門の防衛は常にかなりのレベルだよ」
「そうは言ってもあそこ空いてたぞ」
「でたらめを次に言ったら本当に刺すよ」
少女は玲人の言葉を一蹴して聞き入れない。
どう説明していいか分からず玲人たちは何も話さなくなる。
「じゃあ弁明はないね。さよなら」
俺の首元でナイフがきらりと光る。
「フラマ……おそらくそいつらの言っていることは本当だぞ」
少女の動きが止まった。
「パニスさん……どうしてですか」
先ほど襲われていた一人が少女の背後に立っていた。
その男性は……
「ケル屋のおじさん!」
リエルがすぐに思い出す。
「ったく何してんだお前達は……フラマ。少し前に国王直属兵が下町に調査に来ただろ」
「……あぁ……あのせいで計画が失敗したやつね」
……何かは知らないが、彼女らの計画を邪魔してしまったらしい。心の中ですまん、と謝罪をする。
「あの時の旅人がこいつらだ」
「証拠は?」
「1個20Aでケルを6つ買った」
少女が唖然として俺たちを見つめる。
「馬鹿なの?」
「いや20Aって言われたから」
「交渉しなさいよ!下町の基本よ!」
いや、下町の基本を説かれましても……
「……まぁこの人たちは旅人ってことね……分かった」
少女が俺の首からナイフを外した。
「……おっちゃん助かったぜ」
「太客にはそれ相応の態度をとるさ」
おっちゃんは立ち去って、元の人たちのところに戻っていった。
「で、あなた達はなんでここに来たの?」
「いや……特にこれと言って理由はないけど、喧騒が聞こえたって言うのが一番かな。……今何がこの国で起こっているんだ?」
「革命。今まで水面化だったのが昨日一気に始まったのよ」
「昨日何があったの?」
「また税を増やすとか抜かしやがったからよ」
何考えてんだか、と少女が首を振る。
……あの状況の国民から税を取るのか……?
「だから始まったの。本格的な革命が」
少女がため息をつく。
「で、あなた達はどうするつもりなの?あいにく安全とは言えないけど。まぁ革命軍に加わってくれるのは大歓迎だけど」
……少女には悪いが、この革命に付き合える余裕はない。
「そうか……悪いが革命には……」
「ちょっと待ってくれるか」
俺の言葉を遮り、玲人が倒れている国王直属兵の死体に近づいた。
「な……何してるの?」
玲人は答えずに、後方の兵士のバックパックを開けた。
中には、先ほど男が打たれた注射がずらりと入っている。
「……」
無言で玲人は一本を取り、自分のリュックの中できつく蓋をしていた液体を取り出した。
「玲人……その注射がどうかしたのか?毒だろ?」
「いや、この人は生きてるよ」
それを聞いた女性が、若い男の胸に耳を当てた。
「本当だ!ゆっくるだけど心臓は動いてる」
「多分1ナルほどで目を覚ますよ。あと集中してるからみんな少し黙って欲しい」
玲人が注射の中身の液体を仰ぐように嗅いで顔をしかめる。
さらに自分の持つ液体をその注射の中の液体に注ぎ、軽く振った。
液体が赤く濁った……?
「流羽人、リエル、ノックス……革命軍に加わろう」
効率などを重視する玲人らしからぬ発言に、俺とリエルが無言で驚く。
「この国の政府は……Red bloodと繋がってる」




