41章〜砂嵐〜
列車が王都に近くなった所で、俺たちは列車から飛び降りた。
地面は一面が砂で、着地の痛みを和らげてくれた。
ノックスの話が終わってから、リエルもノックスもほとんど話さずに俺たちの後をついて来るだけになった。
「玲人、どこに向かえばいい……?」
完全に、この後向かう場所を失っていた。
……テサー王国にこれ以上いる必要もないけど……肝心な移動手段がないんだよな……
「王都まで歩くか?」
やや遠くに王都が見えるので、歩けない距離ではないと思う。
しかし、玲人は無言で首を振った。
やや俯きがちの顔からの視線が、こいつ馬鹿なのか?、とでも言いたげだ。
実際玲人の顔色はかなり悪く、今にも倒れそうなほどフラフラしている。
「ねぇ、何か聞こえない?」
リエルが突然立ち止まり耳に手を当てた。
「そうか?特に何も聞こえないと思うけど」
同じように耳に手を当てていた玲人も首を振る。
「いや、僕も聞こえると思う」
「本当?」
「うん。あっちの方から」
ノックスが指差した先にあったのは、下町との境界の壁がある方向だった。
「……もしかして……吸血鬼の身体能力だから……聞こえてるってこと……じゃないか?」
途中途中息を吸いながら言い、玲人がその場に座り込む。
「それはそうかも」
リエルが角と牙をしまい、再度耳に手を当てた。
「……聞こえない」
「ちなみにどんな感じのものが聞こえているんだ?」
「うーん……なんというか、喧騒というか、人々が叫んでいる感じかな」
……喧騒?何かしらの抗争でも起きているのか?
「どうする、行ってみる?」
「俺は王都まで歩ける気がしないから賛成」
「僕はどっちでも」
……Red bloodと関係ない気もするけど……休むところも必要だしな
「うん。俺も賛成で」
「じゃあ行ってみようか」
進む方向を変えて、高くそびえ立つ壁へと向かっていった。
砂ぼこりでぼんやりとしていた壁が、少しずつはっきりと見えてくる。
……境界門か……?
境界門らしき門があるが、駐在しているはずの国王直属兵が見えない。
中の喧騒と関係があるのか?
「誰もいなくない?」
リエルも同じように思っていたようで、疑問を溢す。
「確かに……もしかして気づかれたのか……?」
突然、突風が西の方向から吹いてきて、大きく砂が舞い上がる。
砂が身体中に叩きつけ、目に入らないように左手で目を守る。
「……敵の能力……?」
3人の姿が砂ぼこりで完全に見えなくなり、強風の大きな音で耳なりがする!
……まずい……俺はかがみこみながら、ゆっくりと風上へと歩いていく。
「玲人!リエル!ノックス!聞こえるか!」
口を覆いながら3人に呼びかけるが、返事は一つも返ってこなかった。
……能力なのか?……それとも偶然に強風が吹いただけ……?
……!
誰かにぶつかって、その人物が倒れた。
……こんなところに誰か立ってたか?
「誰だ!」
風のせいなのか、かなり低い男の声が聞こえた。
……敵……!
攻撃の予感を感じ、左に体を投げ飛ばす。
体の横を赤い槍が掠めていった。
……血の槍?
「リエル?それかノックスか?」
「……なんだ流羽人さんか……」
ノックスらしき影がゆっくりと風の中近寄ってくる。
……?……わずかな引っ掛かりを感じたのはその時だった。
……何かが変な気がする……本当にノックスか?
「ノックス……なんだよな」
「……?何言ってるの?」
さらに影は近づいてくる。
…………!
その姿がしっかりと見えた。瞬間に、俺は再びその場を飛び退いた。
現れた人物はノックスと背格好こそ似ているものの、顔は似ても似つかない。
その人物は、俺の先ほどまでいた場所にナイフをつき刺している。
「……なんで気づいたんですか……?」
「ノックスは俺や玲人のことをさん付けしないよ」
つい先ほど出会ったばかりでも、ノックスはすぐに話し方を崩し、僕や玲人のことを呼び捨てで呼んでいた。
でも、さっきはなぜか「流羽人さん」と読んだ。
それに気づいて避けて正解だった。
「お前……吸血鬼か……?」
「自分の能力はあまり人に言わない主義なので。まぁノックスに聞いたらわかるでしょうけど」
人を煽るような口調で少年は告げた。
銃口を向けるが、風上にいるせい手が震えて狙いが定まらない。
「Another world!」
電気の弾を飛ばすが、これも風で減速して避けられる。
その後隙に血の槍が飛んでくる。こちらは風で少し早い……!
避けるのは無理だ……でも、
飛んできた槍を右腕ではらい、進路を自分の外側に変える!
勢いそのままに、少年の頬にフックを当てた。
少年は少し後ろに後ずさり、再び血の槍を形成するが、槍が浮かび上がったと思った瞬間に槍が崩れ去った。
舌打ちをして、少年は逃げた。
待てと叫び、追いかけようとしたが、さらに強い風を正面から喰らって動けなくなる。
追いかけるのを諦めて、俺は風の影響を受けにくいように再びかがみ込んだ。
数ベル後に風が止み始め、砂ぼこりが落ち着き始めた。
「流羽人!どこ!」
今度こそ本当のノックスの声が聞こえて、声の聞こえた方へと歩いていった。
着く前に砂ぼこりが完全になくなっていく。
日光が再び差し込み始め、視界が良くなっていった。
ただ、目の前の風景は異常だった。
砂の地面にうつ伏せで倒れ込む玲人、リエル。
それを気にせずに、こっちこっちと叫ぶノックス。
……頭がイカれたのか……?
それ以外に何が起きたらこうなるか知りたい……
「ノックス……この二人は?」
「さぁ?」
ノックスが両手のひらを上に向けて肩をすくめる。
「『さぁ?』って……」
「僕が合流しようと思ったら玲人に躓いた。で、一向に話す気配はない」
……話を聞いてもさっぱり分からない。
「一応聞いておくけど……生きてるのか?」
「生きてた。全然動かないけど」
「おい、玲人?」
うつ伏せの玲人の背中を叩く。
「よし!下町いくか!」
突然砂まみれの顔で玲人が立ち上がった。
「……驚かすなよ」
「まぁまぁ……嵐もおさまったことだし行こうか」
リエルも顔の砂を払って、今の奇行がなかったかのように振る舞う。
『ノックス……今は触れてほしくないみたいだし、一旦行くか』
『分かった』
「そういえば流羽人はどこに行ってたんだ?」
「あぁ……なんか血の槍を使う奴が、ノックスのフリをして近づいてきて戦った。強風も多分そいつの能力だと思う」
「逃げられたの?」
「追いかけようとしたけど、風で動きを止められたんだよな……。あと、そいつが自分の能力はノックスに聞いたら分かるって言ってたんだけど……」
「流羽人。もしかしてその少年、僕と身長同じくらいだった?」
「うん」
「口調が人を煽る感じ?」
「そうだった」
俺の答えを聞いてノックスが深くため息をついた。
「そいつは知ってる。あとで話すよ」
「あ……あぁ分かった」
「一緒に逃げた特待生の一人なのか?」
玲人の質問にノックスが黙って頷いた。
そんな会話をしていると境界門の正面に辿り着いた。
が、やはり国王直属兵はおらず、門が閉まっているだけの警備体制だった。




