幕間〜誰かのAnother route Ⅳ 完結編〜
蒸気車はロビンズギルドの国境門を出て、シュープリーの入国審査所に入った。
「入国の目的は?」
「孤児同士の交流です」
「孤児の人身売買ではないでしょうね」
「もちろん。彼らの体を見てください」
審査官が車の窓から中を覗き込み、僕たちの体に手枷などがついていないことを確認した。
「分かりました。入国を許可します」
入国許可が下りて、街の中心部へと向かって行った。
「君達10人はこの場から、組織員として動いてもらう」
自分たちの実力が認められたことに、僕を含む全員が歓喜で声を上げる。
「そこで君たちにコードネームを与える」
『ガラバ』、『ゾビカ』、『ユギ』。一人ずつにコードネームが割り当てられていく。
「そして、君は『ノックス』だ」
「はい」
なぜか、その呼ばれ方に違和感は感じなかった。
まるでいつもその名前で呼ばれていたような……
……気のせいだな。
自分は生まれてから『B-3213』だった。それ以外の名前で呼ばれたことがあるはずがない。
そのまま止まらずに蒸気車は進んで行き、一つの施設の前で止まった。
「ガラバ、ユギ、ノックス、リテネ以外の6人はここで降りろ」
扉が開き、数人の幹部と共に6人が降りていく。
「君達の活躍を祈っているよ」
扉が閉まり、再び蒸気車が走り出す。
シュープリー連合国を出て、次にビラモスへと向かった。
入国審査所で同じような会話を繰り返し、入国許可が下りる。
「ガラバとユギはここで下りろ」
銃の扱いに長けた少年ーガラバと、反射神経が良く近距離の戦闘に長けた少女ーユギが、同じようにビラモスの施設で降りた。
そのまま蒸気車は北に向かい、次はテサー王国に入った。
しかし、そこでの入国審査はないに等しかった。
「入国の目的は?」
「赤い血」
院長が何かを入国審査官に手渡した。
それを見た途端、入国審査官はすぐにゲートを開けた。
「特例ですね」
カードのようなものが院長に返される。
「何を渡したんですか?」
「君たちにはまだ話せない内容のことだ」
院長はそのカードを自分の胸ポケットに丁寧にしまった。
「ノックス。君はここで降りろ」
僕が降りるように指示されたのは施設の前でもなく、山の前だった。
「分かりました」
僕は自分の武器を持って蒸気車を降りた。
「君の活躍を祈っている」
蒸気車が次の場所へと走っていった。
「ノックス。行くぞ」
一緒に降りた一人の幹部に連れられて、僕たちは山を登って行った。
山の斜面はかなり急で、登るのにかなりの時間を要した。
「もうすぐ山頂だ」
登り始めて2ナルほどしてようやく山頂に辿り着いた。
その幹部は重そうな荷物を背負っているのにも関わらず、汗一つかかずに前を進んでいる。
ようやく山頂に辿り着き、開けた場所に出た。
その山頂の風景を見て、なぜか心臓の鼓動が早くなった。
……なんでだ……?……確かに見覚えがある……けど思い出せない……?
何か……何か大事なものを忘れている?
「どうしたノックス」
「……いえ何も。多分山登りで疲れているだけです」
「そうか。ならいいが」
周りに焦げた木の柱や石の土台が残っている。その中央に施設はあった。
近づくと大きな門がゆっくりと開かれた。
幹部に連れられて一番最上階まで登ると、一つの豪華な部屋がそこにはあった。
「君が新しい組織員のノックスか。歓迎するよ」
施設長という人物に左手を差し出される。
「よろしくお願いいたします」
その手を握り返すと施設長はにっこりと笑い、側近らしき人物に、自分たちを部屋に案内するよう命じた。
僕に割り当てられた部屋は、ロビンズギルドの施設よりも大きかった。
「ノックス。明日は早朝から作業があるから早く寝ろよ」
「わかりました」
自分をここに連れてきた幹部が部屋を出ていくと、ベッドに潜り込んだ。
……なんで僕はあの風景にあんなに反応したんだ……?
…………ここは絶対に僕がきたことのあるはずの場所じゃないのに…………
考えても答えは見つからない。
……あの壊れた家々……誰が壊したんだろう?
…………何か大規模な火事のようだったけど…………
……『誰が壊したんだろう?』……なんで僕は第三者による火事だと思ったんだ?
…………………火事なら真っ先に事故を思うはずなのに……………
自分の思考の中に様々な矛盾のようなものが生まれ始めている……
そんなことを考えていたら、寝落ちしていた。
夢を見た。
「ノックス!私についてきて!」
(……姉ちゃん……?)
死んだはずの姉に手を引かれて山を下っていく。
後ろを振り向くと、家々が火に包まれて燃えている。
「ノックス!振り返っちゃダメ!」
姉ちゃんは、必死に僕の手を引いて山を下っていく。
ただ、僕は途中から体の動きが鈍っていき、最終的に姉ちゃんの背中の上で意識が途切れた。
……!
目が覚めた。
……夢か…………
呼吸が荒く、心臓が早く鼓動を立てる。
……まるで自分が経験をしたことのあるような夢だった。
姉ちゃんと一緒に山から逃げていて……
あれ……?姉ちゃんってなんで死んだんだ……?
…………そもそも、姉ちゃんの名前ってなんだっけ?
「ノックス!朝だぞ!」
「はい!」
思考を中断して、急いで部屋の外に出た。
「どうした?やけに息が荒いが?」
「……いえお気になさらず。少しばかり悪夢を見ただけなので」
幹部は少し首を傾げながらも、こっちだ、と言い僕を一階の部屋に案内する。
一つの部屋の壁が少しずれて、地下室への階段が出てくる。
地下室には何個もの部屋があり、全ての部屋の中央に円筒状の台があり、赤く光る石が乗っている。
「君に我々の最終目標を教えることはできないが、するべきことは教える」
地下室の椅子に腰掛けて対面し、幹部が話し始める。
「我々のすることは、あのロビンズギルドの組織で受けた襲撃に備える『兵力』を集めることだ」
「僕は……その『兵力』そのもの……ってことですか?」
「緊急時はな。しかし、普段は『兵力』を作る手伝いをしてもらう」
「作る……?」
「あぁあれを見ろ」
一つの部屋の台座の上の石に緑色の光が浴びせられた。
石が段々と膨張していく。そして、段々と人型の形になっていき、一人の人間になった。
「これで、『兵力』である吸血鬼の完成だ。『再構成』と言ってな、吸血鬼は死んだ後の果ての石を回収することで、同じ形の違う人間を…………ノックスどうした?」
幹部の話など、僕の耳には入ってきていなかった。
僕はそのガラス窓から生まれてきた吸血鬼をじっと見ていた。
「母さん……」
その言葉が自然と口から溢れる。
……リエル姉ちゃんの人体実験、この組織への思い…………
全てが一気に脳に流れ込んでくる。
その情報量の多さに、僕は頭を抱えて地面にうずくまった。
「流石に母親を見せるのは無理だったか」
……許さない……!
僕の腕に注射が打たれた。
起きると地下の実験室だった。
あれ……確か、朝起きてここにきて…………
「起きたかノックス」
「あれ……僕は……?」
「悪かったな……実験の光が少し漏れてお前に当たってしまったんだ。それで少し記憶が混濁しているんだろう」
……あぁそうだった。
台座の上には実験で『再構成』された吸血鬼が立っている。
「当然、お前より戦闘力も知能も低いが十分な兵力になる」
幹部の指示を受けて、僕は十数人の吸血鬼に手枷と足枷をつけて、1階の収容室に入れた。
このまま放置すると、実験時にかけた『指令』を守るようになるらしい。
その日から実験は続き大量の吸血鬼が出来上がったが、まともな知能を持ったのは、わずか2体だった。
しかし、またしても襲撃が訪れた。
遠くに不審な人影が見つかり、2体の知能ある吸血鬼を向かわせた。
が、返り討ちにされたらしい。
門の前まできた3人の少年少女に対して、残った低知能の吸血鬼で一気に攻撃させたが、すぐに一掃された。
すぐに、戦闘力を持たない組織員たちを、自爆魔石を持たせて囮として裏から逃げさせる。
「ノックス!我々はいらない資料を処分する!最上階の施設長室で奴らの時間稼ぎ……いや、返り討ちにしろ!」
「はい!」
……どう見ても強敵だ。しかし、引くつもりはない。
死ぬとしても、なんとしても時間を稼ぐ。
僕は最上階の扉を閉じ、ナイフを構えた。




