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少年は、全てを捨て復讐者となる。~Another World~   作者: 利糸
第一部〜逃亡編〜
5/59

4章〜逃走:エヴァネシェント〜

用語集

ブルースター

・・・月に近しい物。1リム(400日)周期で、形を変える。

 ブルースターが空に光る。


 2ナルほどすると、ラウーの声は聞こえなくなり、都心部からも人が、引いていった。

 先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かになる。


 体の流血はもう止まっていたが、弾丸は、肩に突き刺さっており、動くたびに、ナイフで刺されているのとは、なにか違い、体の内部から破壊されるような痛みが襲った。


「っ痛って!」

 自分で、弾丸を抜くことを試みたが、少し抜くたびに肉が削れ、何度も意識を失いそうになる。ビルに落ちていた、壁の破片を使って何度も位置を少しずつ動かす。


「ぐはぁっ!」

 ただ、その破片も尖っているので、誤って、肉の内側を刺してしまうことも多くあった。その度に、血が溢れ出てきて、弾丸の位置がわからなくなる。


 誰もいないビルの中で、何度も叫び、弾丸を取り除いた頃には、自分の足元は、血まみれになっていた。

「ハァ…もうやだ…死にたい…」

 先ほどは流れなかった涙が溢れてくる。もう、立ち上がる気力もなかった。

 …目を閉じ、座ったまま眠りに落ちた。





 朝起きると、元の家だった。

 ベッドを起き、リビングに向かうと瑠璃がいた。

「瑠璃!」

 瑠璃が、微笑んで立っている…!

 瑠璃へと駆け寄る。

「瑠璃!」


 ただ、抱きついた次の瞬間、瑠璃の体は、ふっと力が抜け冷たくなった。

 顔が青白くなり、頭から血が溢れだす。

「瑠璃っ!」


 最後、瑠璃は、俺の方をむいて口を動かした。

 声にはならないが、偶然か長年一緒にいたからか、完全でなくとも、何となく言っていることは分かった。


 "大好きだよ。お兄ちゃんーー"




「瑠璃っ!」

 起きると、当然あの廃ビルだった。日は高く昇っており、朝の7ナル(9時前)は、過ぎていた。

「夢…か………そうだよな」

 手の中には、なぜか冷たい感覚が残っており、先ほどまでの瑠璃の感触が、恐ろしいくらい手に感じられる。

 夢なのに夢じゃないそんな感覚だった。


 今日も朝から、都会は、賑わっていた。

 ビルの屋上から見た感じ、ラウーの捜査も続いているらしい。

 このまま出歩くと顔も見えるし、血だらけの服装の少年がいたら、当然目立つ。


「せめて、Another Worldが使えたらいいんだけどな…」

 素早く動けるし、ラウーにも太刀打ちできる。


「Another World」

 廃ビルの壁に向かって、能力を撃ったが、昨日と同じように何も起こらなかった。


 何が原因なんだ?

 自分の能力は、二度は打てたが……

 …………………あのナイフをくらって以降使えなくなった?


 自分の左の腿を見てみる。

 昨日ナイフが深々と突き刺さった位置に大きな刺し傷があり、今も痛みがある。


 毒の類の何かでも使ったのか…?


 …?

 その傷口が、少し光に反射したように見えた。


「気のせいか?」

 また反射した。

 !

「痛っ!」

 傷口を押すと確かに中に何か入っていた。

 痛みに耐えながら、少し傷口を開けてみると、鏡のようなものが刺さっていた。

 …ゴクリ。


 唾を飲み込み、覚悟を決める。



「痛ぇ…」

 再び、傷口を抉る作業を行った。先ほどと違って角が鋭く、今も血が多く流れていた。


 そして、出てきた血だらけの鏡は、しばらくの間黄色く輝いていたが、程なくして光が消え、やがて粉のようにサラサラと崩れていった。


 これが…原因?


「Another World!」

 …先ほどのことが、嘘だったように光が放たれた。

「いけた!」

 ここ最近にしては、珍しく笑みが溢れる。なんとかいけそうだ。





「さてと」壁を使って立ち上がる。

 傷も治りかけて、能力も戻ったなら、ずっとここにいても埒があかない。そろそろ、行動を再開したい。

 当然、突然逃げ出したので、お金の類は、ポケットにある1Ar50A程しか持っておらず、所持物といえば、ローグウェイとピストルそして、ポケットにあったあの赤いまち針、抜いた弾丸だけだった。


 この装備では、どう考えても戦えない。あの家は、おそらくラウーがいるだろう。


「ん?」

 加えて、ローグウェイの通知が、すごいことになっていた。


 京太や教授を初めとする、多くの知人から本当に人を襲ったのかとメールが来ている。

 多くが、心配してくれる声や話を聞くとしてくれる声だった。

 …ただ、姫咲教授の物は、違った。…

「僕は、教授だ。人を正しい道に導く義務がある。もし、君から無実という説明がなければ、僕は、すべての情報を公開する。君の端末位置情報も含め。僕のアドレスを消そうとも君の持つ全ての知り合いに提供させる。期限は、明日の13ナル(終礼)だ」


 …教授らしかった。間違いを間違いという、それが仲のいい人物でも。


 ただ…

 これからするべき事を分からされ、絶望する。現時刻は、おそらく12ナル過ぎ。ためらう時間はなかった。

 端末位置情報。ローグウェイのアドレスを知った者同士が、緊急時に互いの位置を把握できる機能。


 教授が、簡単に判断を覆すとは、思えなかった。

 端末位置情報を断つ方法は、一つしかない。



 俺は、自分の最後のつながりであった、全てのアドレスの消去を始める。



 同じ講座をとっていた後輩。いつもお世話になっていた先輩。

 それらの一つ一つを消すたびに、彼ら彼女らとの思い出を捨てているかのようだった。


 ▶︎「姫咲教授」のアドレスを消去しますか?


 はい

 化学実験、大陸史、生物学、社会学。多くの講義の思い出が、思い浮かんでは消えていた。


 ▶︎「京太」のアドレスを消去しますか?


 は……い

 これには、かなりの時間を要した…

 シュラールに入る前から、仲が良くいつも遊んでいた。彼との一個一個の思い出は、簡単に忘れる物ではないが、アドレスを消すだけで、全てが、消えていく気がした。


 残っているアドレスは、瑠璃と死んだ両親。そして、5ナルの間、自分のアドレスに保存されている謎の番号。

 ただ、自分は、プロテクトをかけていた。今まで、何度か消そうとしたが、なぜか大切なものに思えて、消せず、今回もそうだった。


 涙が、頬を伝っていく。

 それを隠すように、また自分の顔を見られないよう少し俯き加減で、流羽人は、廃ビルを出て行った。




 向かう先は、一つしかなかった。

 ラウーの存在が薄く、買い物ができる場所。


 ラブラだ。


「兄ちゃん、テツいらねぇかい?」

 いかつい男に話しかけられる。

 でも、なぜか前ほどみんんが怖くない。

「って兄ちゃん大丈夫か?これはひどい」

「あぁそうなんだ。いろいろと訳あって…服屋はない?」

 ここでは、タメ口が、親しみを込めた礼儀だということを前来て学んだ。なんとかタメ口で、シュラールにいるときのような感覚で話す。

「おぅ。訳ありってやつか。ラウーか?」

「…実は」

「そうかそうか。ん?その銃弾は何だ?」

「?」

 その男は、俺が左手に持っていた銃弾を見ていた。

「冷銀製だ。この辺じゃぁ東の国(ラモング)でしか作ってねぇもんだぞ。ラウーに加えて、ラモングの奴らにも追われたわけか。災難だな」

「…これ、ラモング製なのか!」

「ん…あ、あぁ恐らくな…あんたを襲った連中は、ラモングにルーツがあるんだろ。じゃなきゃこんな暴発しやすい冷銀製の弾丸なんか使わねぇよ」

「あぁ。情報をありがとう。それとて、服屋はあるか?」

「この先をちょいと行ってもがったらあるぞ。じゃぁな兄弟。うまくやれよ」

「あぁ。ありがとな」

 ラモングにルーツがある。


 恐らく指名手配されているシュープリー連合国内にいるのは、危険だ。

 なら、ラモングへと行けば、一石二鳥だ。

 問題は、どうやって行くかという点だが。


 服屋は、すぐに見つかった。

「客か?」

 目つきの悪い、やや金髪の男が店番をしていた。

「あぁ」そう答えた途端相手の頬が緩む。

「おぅ。どんな服がお望みだ?…っつうかひでぇ格好だな」

「あぁ。訳あってな。ラモングに行きたいんだが、指名手配されててな…バレない服はないか?」

「変装…か」

 男は、少し考えていった。

「できなくはない。ただ金はあるのか?」

「これくらいだ」

 全ての金銭を出す。

「ほぅ…まず、旅費で最安850A、食費で50A、その他諸々150Aぐらいか?…なら450Aか…チッ」

「…厳しいか?」

「…まあ…ちょうど良いと思ってもらうしかないな」

「?」

「女装なら足りるぜ」

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