幕間〜誰かのAnother route Ⅳ 中編〜
「あそこ……誰か倒れてない?」
「あの子、手から血が……」
人々の視線を浴びながら、駅へと走っていく。
「ラウーに通報した方がいいのかしら?」
「ちょっと君!」
一瞬、腕を体格のいい男に掴まれそうになるが、振り払って再び走り出す。
暗い路地に入って、追いかけてくる男たちを撒くことに成功した。
……駅に向かえ……駅に……
脳もまともに考えられなくなり、何度か道を間違いながら駅へと駆け込んだ。
が、もう遅かった。
「……髪の色、体格、……一致してるな」
その場にはもうすでに、国外逃亡を防ぐためにラウーが集まっていた。
「君がロイとアルべを殺したのか?」
体を後ろから取り押さえられそうになって、僕は後ろも向かずにその男の首を刺した。
「「「吸血鬼……!」」」
その場の全員が固まった。
僕は、駅に繋がるガラス窓の前に立つ男を切り裂き、ガラスを破って駅の中へと突入した。
……ここで捕まったら、僕だけじゃない……リエル姉ちゃんも死ぬんだ……!
駅のホームには、運よく出発寸前の列車があった。
テセラを見せるように求める車掌を無視して、急いで駆け込んだ。
列車が動き出す。
しかし、出発寸前に数人のラウーが列車に飛び乗ってきた。
列車内を奥の列車へと逃げていき、ラウーが後ろを追いかける。
乗客達は僕が走ってきているのを見て、壁に避け、何が起こっているんだ?、という視線を向けてくる。
ただ、一人の親子連れの少女が壁に避けおくれた。
僕はスピードを落とすこともできず、その子を抱き抱えたまま逃げていく。
……次の車両で終わりだ……
後ろからラウーは迫ってくる……詰みか……
「その子を解放しろ!」
ラウーが怒鳴った言葉が最後のヒントになった。
僕は最後の車両の奥で立ち止まり、ラウー達の方を振り返った。
ラウーは僕を見て顔を引き攣らせる。
僕は左手で少女の首を固定して拘束しながら、右手の爪を少女の喉元にちらつかせた。
「……貴様……人質のつもりかっ!」
「あぁそうさ。僕は捕まったら処刑される。だったら殺人罪が一つ増えたところで変わりない」
……できるだけ冷たい口調で……自分の心が本当は怖がっていることを悟られないように……
「撃つぞっ」
ラウーが痺れを切らして銃口を俺に向ける。
「撃ってみろよ。同時にこの子も死ぬぞ。あと……」
僕は右手の爪で、左肩を切った。
「「!?」」
犯人が自らの腕を切り裂く。という特異な事態にラウー達は戸惑う。
しかし、数ピル後にその意味を思い知った。
僕の肩はゆっくりと傷が塞がっていく。
「乗客全員をこの車両に入らせるな。ロビンズギルドに着くまで駅に停まるな。この2点を守って、俺がロビンズギルドの駅を無事にでられたら、この子は解放する」
ラウー達は、その条件を飲むしかなかった。
ラウー達が出ていき、少女と二人きりになった。
「……お兄さんは私をころすきなの?」
「いや、そんなつもりは断じて無い。ごめんな怖がらせてしまって」
少女は僕よりも歳下で、今にも泣き出しそうだった。
ただ僕が殺すかもしれないと思って、一生懸命泣くのを抑えていたらしい。
「……本当に?」
「本当だ。誓うよ」
「……お兄さんはなんでこんなことしたの?」
少女が不思議そうに首を傾げる。
「…………詳しくは言えないけど、生きるためなんだ」
「そうなんだ」
彼女はこれ以上聞いてはいけない、と察してくれたらしく、それ以上は聞いてこなかった。
「じゃあ、お兄ちゃんって本当に吸血鬼なの?」
「まぁ……違うと言ったら嘘になるけど」
「何か魔法みたいなもの使えないの?」
……血の槍はあるけど……あまり血を消費したくは無いな……
ただ、少女の輝く視線に耐えられず、血の槍を使って虚空を攻撃してみせた。
「まぁこれぐらいだよ。できることは。質問は終わりかい?」
「……そういえば、私は何をすればいいの?」
「特に無いかな……」
「えー暇だよ……」
彼女が不服そうに口を尖らせた。
……僕にできることなぁ……
お姉ちゃんと遊んでたこと…………戦いごっこしかしてなかった気がする……
お父さんが、若い頃は人間として兵士だった時期があるから、対人の戦いの基本は教わった。その時にお姉ちゃんと戦って実践してた……
「えーっと……ナイフでの戦い方とか知りたい?」
「……戦い!面白そう!」
少女にしばらくの間、ナイフの戦い方の基本的な立ち回りや、持ち方などを教え込んだ。
彼女は覚えがよく、それらをロビンズギルドに着くまでにたくさん吸収した。
最終日、列車を降りる時間となった。
「ごめんな……絶対に刺さないから」
「うん。大丈夫」
彼女の喉元に爪を近づけたまま車両を出た。
「貴様……駅を出たらすぐに解放しろよ」
「もちろん。あ、当然ラウーが近くにいたら話は別だよ。両親に迎えに来させろ」
その言葉にラウーの肩が少し震えた。
そうする気だったんだな。
「何があっても吸血鬼の能力で気づけるからな」
架空の能力を挙げて釘を刺し、ゆっくりと列車をおりて駅の裏側へと回った。
彼女の喉元から爪を離す。
「本当にありがとな」
「お兄ちゃんはこれからどうするの?」
「悪い。それは言えないな」
彼女がラウーに漏らした場合、僕と孤児院の関係がばれてしまう。
「……あの、娘を返していただけますか?」
振り向くと、彼女の両親が恐る恐るやってきていた。
「本当にすみませんでした」
彼女の両親に頭を下げた。
二人とも、突然の出来事に混乱している。
「本当に心配されたと思います。こんなことで償いになるとは思いませんが、せめてこれを」
自分の娘が、いつ殺されるか分からないという状況にしたのは僕だ。仕方なかったとは言え、しっかりと罪は償いたい。そんな思いで、残ったお金の入った封筒を手渡した。
「ど……どうしてこんなことをしたか……聞いてもよろしいですか?」
「……言い訳がましくなるのですが、生きる為……という表現が一番正しいと思います」
「そうなんですか……娘は……」
路地にいる彼女を呼ぶ。
「あ、お母さん、お父さん!」
少女が無事である姿を見て、両親の表情が少し柔らかくなり、安堵のため息をついた。
「よかった……よかったな……」
「えぇ……」
「このお兄ちゃんに、ナイフの使い方教えてもらったの!」
「「ナイフ?」」
「えぇ、少しでも自分の身を守れたらいいと思います……ただ、絶対に相手が武器を持ってたら戦っちゃダメだよ」
「うん!」
「それでは。本当に迷惑をおかけして申し訳ございません」
最後に一礼してその場を去った。
最後の脅しが効いたらしく、追ってくるラウーはいなかった。
「B-3213。ただいま帰還しました……」
帰った孤児院は、塀の多くの場所に穴が開き、孤児棟が無惨に爆発していた。
「あぁ……B-3213か、実は緊急事態が起こってな……お前が出た夜に一人の孤児が逃走してな、その時にそいつが仕掛けた爆弾で、多くの孤児が逃亡した」
後ろには多くの孤児が縛り上げられていた。
「そしてな、非常に残念なことに……お前の姉……被験体003は爆発に巻き込まれて死んだよ」
その言葉の意味が一瞬理解できずに、頭がスリープする。
「お姉ちゃんが死んだ……?」
「あぁ……見にいくか?」
「……はい」
お姉ちゃんが閉じ込められていた場所は、数リム前と変わっていて、タンクのようなものの中だったらしい。
タンクが中央から割れて、地面に血の跡が大量に残っている。
「落ちてきた巨大な照明での圧死だ」
その部屋には照明が無くなっていた。
「死体は?」
「昨日焼却処分した」
その残った血痕の近くに膝をついた。
「……お姉ちゃん……リエルお姉ちゃん……」
気持ちが収まらず涙が溢れてくる。僕はその場に泣き崩れた。
その後、しばらくの記憶が僕にはない。
次に意識が戻ったのは、孤児院のいつもの寝床だった。




