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少年は、全てを捨て復讐者となる。~Another World~   作者: 高瀬利糸
第四部〜テサー王国下町編〜

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幕間〜誰かのAnother route Ⅳ 前編〜

 貨物列車が出発してしばらくして、ノックスが突然頭を抑えてうめき出した。

「ノックス!?」

 リエルが真っ先に駆け寄って心配する。


 しかしノックスは、かなりの頭痛だったのにも関わらず、数ピルで頭を抑えながら起き上がった。

「ノックス、どうともないの?」

「…大丈夫」

「もしかして記憶が戻ってきた?」

「…一気に全部の記憶が傾れ込んできた…」


「…話せるか?」

「…多分かなり長くなるけど…」

 頷くと、ゆっくりとノックスは語り出した。







 僕はラモングの孤児院に収容された。

 ノックスという名を消されて、B-3213という孤児としての生活が始まった。

 吸血鬼だったことはバレていないらしく、僕は他の孤児と同じように様々な仕事をさせられた。


 色々な薬品の管理。拳銃などの武器の点検。時には、よく分からない部屋一面に広がった血を掃除することもあった。


 ただ、姉ちゃんは違った。

 僕は一度だけ対面することを許されて、暗い牢屋のある部屋に、職員に手を引かれて入った。

 そこにいたのは、手枷と足枷をつけられて、焦点の合わない目で前を見つめる姉ちゃんがいた。


 姉ちゃんは、被験体として何度も薬を投与されて、人体実験を続けさせられていた。


「リエル姉ちゃん……!」

 姉ちゃんに何度も鉄格子の外から呼びかけたが、返事が返ってくることは無かった。


 結局、何も話せないまま僕はその部屋を出た。





 そのまま月日が過ぎていき、あれ以降姉ちゃんのことを見ることは無くなっていた。

 ある日、作業中一人の職員に呼び出されて、手枷と足枷をつけられた。


「…僕も被験体ですか?」

「さぁな。院長様の判断だ」

 収容棟を離れて、職員の建物内の院長室に連れて行かれた。


「B-3213。貴様…吸血鬼か?」

「…っ」

 バレたら何をされるか分からない…!

 僕は、角と牙を出して手枷と足枷を破壊しようとした。


 しかし、暴れようとした瞬間に身体中に電気が流れた。

「うがっ…!」

「基本的な戦闘能力はあるみたいだな」

 電気が止まって、僕は地面に倒れ込んだ。


「お前にいい取引がある」

「…何…ですか…?」

 院長のテーブルに手をつけながら、ゆっくりと立ち上がる。


「これをラモングとのある施設に運べ」

 男が黒いキャリーケースを机の下から取り出した。

「…なんで…僕に……?」

「この中身は絶対にバレてはならない内容だからだ。そして、シュープリー連合国も勘付き始めてる」

「中身は?」

「それはお前に言える話じゃない。ラウーに追われる可能性もあるが…躊躇いなく殺せ」

 両手を組んで、こちらをじっと見つめる。

「僕が断ると言ったら…?」

「分かるだろう?お前も被験体だ」


 ………途中でなんとか逃げられないか…?

「逃げようなんて馬鹿なこと考えてないだろうな?」

 心を見透かしたような言葉に、僕はなんとか動揺を抑えた。


 後ろから近づいた職員に、首に何かを巻かれた。

「…チョーカー?」

「お前が逃げようとした場合、失敗した場合、組織の情報を話そうとした場合、このチョーカーを壊そうとした場合………このチョーカーを爆発させる」

 チョーカーを外そうとした手を慌てて引っ込める。


「お前の姉の被験体003にも同じものをつけてある。同じタイミングで爆発するからな」

 自分の体が冷えていくのを感じた。

 …僕が失敗したら……姉ちゃんも死ぬ……?


「まぁせめてもの温情だ。お前が行くなら、お前の姉への人体実験をやめてやる」


 手枷と足枷を外されて、通行費や行き方の地図などを渡された。

 僕と姉ちゃんの二人分の命を背負って、僕はラモングへ向かう夜の列車の駅に行った。


 初めて見る鉄道に驚くような心の余裕などなかった。

 心臓がバクバクと音を立て、ロビンズギルドを出国した。


 ロビンズギルドの出入国に手荷物検査はない。

 しかし、シュープリー連合国系の国家への入国にはかなり厳しい手荷物検査があるらしい。そこで黒いケースがバレれば一貫の終わりだ。


 列車の風景を見て、なんとか気を紛らわそうとしたが、すぐに現実に引き戻される。

 その夜は一睡もできなかった。






 到着の日。

 僕は早々に下車の準備を終えて、ラモングの中央駅で降りた。

 多くの人が一斉に列車から出て、出口である入国検査に向かった。


 その列に重たいリュックサックを背負って並んだ。




「シュープリーからですか?」

「はい」

「証明書はありますか?」

「えっと…これです」

「…はい…オッケーです。どうぞ」


 前の人の手続きが終わって、僕の番になった。

「シュープリーからですか?」

「いえ、ロビンズギルドからです」

「手荷物の確認を致しますね。持ち物はそのリュックサックだけですか?」

「はい」

 リュックサックは、そのお兄さんが後ろのお姉さんに渡した。


「じゃあいくつか質問しますね。まず名前と年齢は?」

「パランド・マルクといいます。年齢は11歳です」

 あらかじめ暗記するように言われていた紙の内容を、焦らず、ゆっくりと話す。

「未成年か…保護者の同意書はあるかい?」

「これです」

 偽造された同意書を渡した。

「えっと…署名もあるし……祖父母に会いに行く目的か…特に問題はないね」


「ロイさん?これって大丈夫ですか?」

 カバンを調べていた女性が、拳銃を取り出した。

「拳銃!?…君…なんで持っているんだい?」

「父と母に危ないから持ってけと言われまして……」

「…そうなのか……?」

「あと、このリュックちょっと重くないですか?」

 ……!

 …リュックの底の部分にケースは隠してある……バレないように四角い設計のリュックにしていたが、重さでバレるのは予想外だ……


「確かに……何かまだ入ってるのかい?」

「いえ…そこにあるもので全てです……」

「…まぁ確かに重めのリュックサックもあるしな…」

「…多分少し重めなので……」


 少しお兄さんとお姉さんが話し合った後、入国許可が降りた。

「時間を取らせて悪かったね…じゃあ楽しんで」

「ありがとうございます」


 危なかった…。バッグの中のケースにはなんとか気付かれずに済んだらしい。

 そのまま僕は港町まで歩いていった。


 人通りの少ない路地の方へと何度か向かった先にその建物はあった。

「アルタミラ孤児院…ここか」

「誰だ?」

 門番らしき、柄の悪い人間が近づいてきた。

「B-3213と言います」

「そうか、入れ」


 そのままドーナツ状の孤児院等の中央に立つ、監視等の最上階……院長室へ通された。

「こちらが命じられたものです」

「そうか。ご苦労」

 アルタミラ孤児院の院長は、黒いケースの中身を確認して頷いた。

「帰っていいぞ」


 そのまま、それ以上会話することもなく俺は帰ることになった。


 夜の港町をゆっくりと駅に戻っていった。

 もう怪しいものは持っていないし、出国に検査はない。

 肩の荷が降りた気分だ。


「そこの君?」

「…はい?」

 二人のラウーに話かけられた。

「ちょっと今そこで強盗が発生してね…念の為にそのリュックの中身を確認してもいいかい?」

「いいですけど…」

 リュックを手渡すと、ラウー達が中身を一つずつ地面に丁寧に置いていった。

 そして全てを出し終えた時、顔をしかめた。


「軽いな」


 ………!

 午前中に聞いたお兄さんの声と重なった。

「君、どういうことかな?確か祖父母に会う目的だったよね?」

 帽子で隠れた顔が少しずつ見えてくる。

「あの孤児院に何か用でもあったのかい?」

「…あそこの施設出身なもんで」

「じゃあなんでこのリュックは軽いのかな?」

「…手土産ですよ」

「あの場面で『もう何もない』と君は言ったよね?」

 ラウーが少しずつ僕の前に迫ってくる。


「少しついてきてもらえるかい?」


 角と牙を出して、一瞬でそのお兄さんの首を爪で切った。

 後ろで固まったもう一人のラウーが、素晴らしい反応速度で発砲する。


 しかし、そんなものは効かない。

 俺は弾丸を軽く避けて、もう一人の首を切った。


 角と牙を慌ててしまい、血の滴る手を隠しながら、僕は急いで駅へと向かった。

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