40章〜帰還〜
「なんだこの死体は!」
国王直属兵が消火を終えて、次々と山を登ってくる。
俺が玲人を背負って能力を使い、二人は吸血鬼の能力で、かなりの速度で山を下っていく。
「…おかしいな…?」
「見間違いじゃないのか?」
素早く反応したおかげで見間違えと判断して、兵士たちが追いかけてくる事は無かった。
「おい!Red bloodどうした!」
山を降りると、そこは荒れ果てた土地だった。
遠くまで果てしなく草木の生えない地面が広がり、人の姿は当然見当たらない。
「「呪地…」」
ノックスとリエルが呆然とした表情で、その土地の名をつぶやいた。
「呪地?…大陸戦争の死体が埋められた土地…?」
シュラールではそう教えられた。
「…多分流羽人兄さんが教わったのは、表向きの理由。本当は……吸血鬼が元々生息していた場所」
「僕たちの祖先はこの地に住んでいたのですが、ある時人間に追われてこの山に逃げ込んだと教わりました…」
そのことから、吸血鬼の中では絶対に山の裏側に降りてはならないというルールがあった、と目を瞑った。
山の外周をゆっくりと回りながら、ひとまず王都側に戻っていくことにした。
「ノックス、そういえばあいつらに国との関わりはあるのか?」
「えっと…玲人さん…の方がいいですか?」
「…敬語は落ち着かないから無しで」
「流羽人さんも?」
「うん」
少し、ノックスの表情に落ち着きが見られる。
「あの人達がよく王に関わる人間と会っていたのは見たし、何か重そうな鞄の交換もしていたから、繋がりがあるのも間違いはないと思う。でも、それについては僕もよく知らない」
「ケースの受け渡し?」
「…おそらくこちらが渡していたのはお金なんだと思うけど、向こうのは本当に大きいものが多かった気がする。成人男性ぐらいの大きさのものを二人がかりで持ってきたこともあったかな」
「で、ノックスの記憶は結局どういう状態だったんだ?」
僕もまだ記憶がはっきりとしている訳じゃない、と前置きして、
「多分、こことは違う施設で受けた人体実験で、記憶が欠如させられたんだと思う」
「ロビンズギルドの?」
「…うん…リエル姉ちゃんどうなってたの?」
「私も似たような感じだけど少し違うかも」
リエルが、俺たちに話したように施設から逃げ出した話や、吸血鬼であったことを思い出した原因などをノックスに話した。
「じゃあ、ノックスは実験によって記憶を消されたってことか?」
リエルは、実験で精神が崩壊したことが原因だった。…ノックスには何か理由があったのか?
「ノックスはあの組織員だったの?」
「うん。あのロビンズギルドの施設で交渉を持ちかけられた。『お前の姉の人体実験をやめる代わりにお前が組織員になれ』って」
まぁ、全く守られなかったらしいけどね、と肩をすくめる。
実際、リエルは逃げるまでずっと身体実験を受けていた。
「あと姉ちゃんが逃げた時は、死んだと伝えられた………のか?」
「『のか』?」
「……分からない…そう言われたと俺は思ってるけど、なんとなく違和感がある…」
頬に手を当てて、ノックスが思い出そうと必死に頭を回している。
「ノックス?」
玲人が、ノックスの肩を叩いた。
「ん、何?」
「これはあくまでも俺の想像なんだけどさ………記憶をつくられた…とかない?」
「作られた?」
「俺もRed bloodの施設にいたんだけど、『その時に記憶を作り替える実験』的な実験を研究員がやってて、俺も少しそっち系のことの手伝いで見たんだよね……それを受けたやつの症状とすごい似てるんだよ」
「どんな表情なの?」
「基本的に都合の悪い記憶が消されて、本当の記憶を思い出させようとすると暴れ出す。ただ、複数回続くと記憶を取り戻すけど、その後もしばらく混濁する」
その場に沈黙が訪れた。
「完全一致と言っても過言じゃないかもな」
「うん。ちなみに記憶は3ナルぐらいで完全に復活するけど、その思い出す「何か」がなければ一生思い出さない」
その言葉を最後に、疲れなどから全員が本当に黙り込んでしまう。
少しずつ山の周りを歩いて行った。
山地らしく、夕暮れになってもまだ回ることはできなかった。
「…これ本当に回れるの?」
「山登りする?」
玲人の弱音はリエルに一蹴される。
「でも、本当に回るのは不可能じゃない?」
「そうだな…ノックスって羽無いのか?」
「僕もリエルと同じくらいの血の濃さだから無いし、あったところで全員は運べないよ?」
「そうだよな…」
「やべぇ……本当にやべぇ…」
体力が無い玲人がとうとう限界を迎える。
「玲人…年下が歩いてるのに弱音吐くの?」
玲人がノックスに冷たい視線を向けられる。
「お前ら…ヴァンパイアの身体強化持ちと、そっちは普通に体力お化けだぞ……」
「あれ…?俺ってそんな体力あったっけ?」
「自覚なしかよ!」
玲人が俺におぶられながら叫ぶ。耳が痛い。
「まぁ…正直俺もまぁまぁしんどいけどな」
「…あ………何か聞こえない」
「ん?」
遠くから何かが走ってくる音が聞こえる。
少し遠くに線路らしきものが見えた。
「…ここって…旅客車両が通る場所?」
「いや、貨物車両の路線だ!急げ!乗れると思う!」
「お前は自分で歩け!」
貨物列車が線路を通り過ぎていく。
玲人を下ろし、最後の力を振り絞って走り、最後から3つ目の荷台車両に乗り込んで、布の下に潜り込んだ。
「…玲人兄さん…完全に犯罪じゃない?」
「完全に勢いに乗ったけど…うん…」
「やったな…玲人」
「殺人罪と殺人未遂罪と放火殺人未遂と殺人多数の指名手配が言えるか!」
貨物列車は煙を上げながら、夕暮れの空の中を王都へと進んでいった。
今回で、第四部:テサー王国編が完結です。長めの短編を挟み、次回から第五部:王都革命編です。
第四部からつながる、王国の闇側に流羽人たちが挑みます!




