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少年は、全てを捨て復讐者となる。~Another World~   作者: 高瀬利糸
第四部〜テサー王国下町編〜

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39章〜独りの少年〜

 施設の正面の門は、内側に忍び返しが傾いていている。

 内部からの脱走を防いでいるということは容易に想像できた。


 施設の正面に立つと、遠くから分からなかった門の大きさがはっきりと分かる。

 今までのどの施設よりも大きい。

 警戒心を高めながら、各々の武器を構えた。


 大きな地響きが鳴り、門の扉がゆっくりと開いていった。


「入ってこいってことか…?」

「逆。何か来るんじゃない?」

 銃を門に向けたまま時間が過ぎていく。


 高い咆哮が上がった直後、一斉に吸血鬼が飛び出してきた。

 一斉に発砲した弾が的中すると一瞬フラめくが、何しろ数が多すぎる。


 右側からの爪を交わしながら、鉄の棒で叩いてその吸血鬼の心臓を破壊する。

 しかし、全員が動きは単純で、考えながら攻撃しているわけではなさそうだ。


 次の吸血鬼を蹴り飛ばして、1歩後ろに引く。

「Another world!」

 周りに複数の雷が落ちて、吸血鬼たちが一斉に痙攣して固まる。

 雷も簡単に効く。固まっている吸血鬼の心臓と首を次々と攻撃して倒した。


 少し遠くの吸血鬼は玲人の炎で一掃されて、1ベルも立たずにそこには大量の死体が転がっているだけとなった。


「流羽人!裏手から逃げてる奴がいる!」

 移設の裏手から山の中に逃げていく複数の影があった。

 電気の速度で追いかけて、ついに一人の遅れた女の肩を掴んだ。


「お前ら…!」

 捕まえた女が薄汚い笑みを浮かべて、体が爆散した。

 爆風で火傷を負い倒れ込む。


 再び立ち上がった時には、もう彼らの影はなかった。


「流羽人!捕まえたか!」

「いや、逃げられた!」

 施設の裏側の小さな扉が開いている。

 あの大量の吸血鬼は…囮だった。


 裏口から施設に入ると、暗い地下室だった。

 複数の部屋と透明な大きな窓があり、中には固定具付きのベッドがあり、壁には鋭い爪で引っ掻いた跡や血飛沫が残っている。


 突き当たりに螺旋階段があり、警戒しながら上まで登っていく。

 全ての階に同じような部屋や牢屋のような部屋があるが、人は誰もいない。

 特に攻撃などを受けることもなく最上階にたどり着いた。


 最上階は、突き当たりに一つの大きな部屋があるだけだった。


「開けるよ」

 大きな扉の取っ手をリエルが引いて扉が開いた瞬間、中からナイフが飛んできた。


 扉の正面にいた玲人が屈んで避けると、そのナイフは勢いを落とさずに螺旋階段の壁に深く突き刺さった。

「よく避けれたね」

 中には一人の少年しかいなかった。

 中央に立つ少年がナイフを再び構える。


 そして、刃渡の長いナイフを構えて玲人に正面から攻撃しにきた。

 玲人の銃弾はかわすわけでもなく、ナイフで軽く弾いた。

「そんなものが通用すると思う?」

「Nightmare flame!」

 炎の壁が展開されて、これには少年も立ち止まった。


 炎の壁が消えると同時に、リエルはいつものナイフを持ってその少年を横から奇襲する。

 が、ナイフで受け止められ、力で押し返されそうになる。


 少年からもリエルからも角と牙が生える。


 二人は最後にお互いのナイフを押して距離を取り、再び間合いを少しずつ小さくする。

 おそらく、リエルはもう血の槍が使えるほど血が残っていない。その上リーチも不利だ。


「Another world…っ」「Nightmare flame…っ…?」

 心臓に焼けるような痛みを覚え、胃がひっくり返りそうになる。

 魔力の…枯渇っ…!

 同じように、玲人も胸を押さえてかがみ込む。


 二人の戦闘が始まった。


 初動で一気にリエルは切り込んだあと、少年のナイフを流れるような動きで避けてカウンターを試みるが、少年もそれを超人的な速度でかわす。


「Wind blade…全てを切り裂く…!」

「Storm edge...吹き飛ばす...!」

 二人の声が重なった。

 …お互いが風能力!?


 目に見えない速度でお互いがナイフの攻防を始め、金属音が響いた。



 ナイフを先に落としたのはリエルだった。

 ナイフの先端は強く弾かれ、ナイフが石の地面を滑っていく。


 その隙を見逃すはずもなく、少年は素手のリエルを刺そうとするが、体を回してリエルは避ける。

 そして、すぐに肘打ちで反撃を食らわす。


 体が後ろに傾いた少年の手からナイフがこぼれる。


 2人が止まったその一瞬で、俺と玲人は両サイドから走り込んだ。


「来ないで!」

 突然リエルが叫んだ。


 驚いて足を止めたその間に、少年は再びリエルに爪で攻撃しに行く。彼は大きく跳躍し、真上からリエルを刺そうとする。


 その攻撃を軽く右に避けて、着地の隙が大きい少年の完全に背後を取る。

 しかし、リエルがした反撃は足を蹴るだけだった。


 少年が仰向けに倒れ込むが、すぐに立ち上がろうとした少年に、リエルは馬乗りになった。


「クソ…!どけ!」

 少年が暴れるが、手足を完全に固定されて動けない。


 ただ、リエルは何もしなかった。

 じっと少年の顔を見つめていた。


「…ノックス……?」

 少年の肩がピクリと動く。

「何で…僕の名前を……」


 …ノックス?…あの施設で死んだはずのリエルの弟…?

「私はあなたの姉…!…リエル!」

「……嘘だ…!僕に…僕に…姉はいないはずだ…!」

 ついに少年がリエルの拘束を力で外し、彼女を突き飛ばした。


「リエル!そいつもお前の弟の形をした何かだ!」

 玲人が拳銃を少年に撃つ。


「違う!」

 弾丸が、リエルのナイフに弾かれた。


「思い出して!ここで焼かれた私たちの住んでた村を…助けてくれたララスさん……お父さんとお母さんを……!」


 その言葉に、少年……ノックスの動きが止まった。

「嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…!」

 ノックスは力任せにリエルを殴ろうとするが、当たる前にリエルに腕を掴まれる。


「嘘じゃない!思い出して…私のこと…!」

「………」

 少年の右手から力が抜けた。


「ノックス!」

「…リエル姉ちゃん……だったっけ…?…呼び方」

 ゆっくりと涙で濡れた顔を上げて、ノックスが軽く笑った。


「ノックス……!」

 思いっきりリエルに抱きつかれて、ノックスが後ろに転がった。


「…よかったな…リエルも家族が生きてて」

 俺も玲人と出会っていなかったら、今頃どうなってたか分からない。

「…うん…そうだね」

 再会に抱き合う二人を優しく眺めていた。





「残りの組織員は下にいたはずですけど、多分もう逃げてますね…まぁ僕が気付かれずに死ぬ前提だったんでしょう」

 ノックスは囮としてここで戦うことを命じられてらしい。


 一階の部屋の一つに地下室への道があり、そこにあった資料は抹消された後で、さらにそこからつながる地下道から下町に逃げたようだった。


「俺が最初に追った奴らも囮だったのか…」

「えぇ…下級の組織員ですね」


 念の為、一通り部屋を探してみるが収穫は何もなかった。


 結局、地下道に罠などがある可能性を考慮して、裏口から出ることにした。

 裏口を出て、元きた山の火がほとんど消えていることに気づく。


「Red bloodこれはどういうことだ!」

「…あそこに人がいないか…?」


 訳がわかっていないノックスの手をリエルが引き、俺たちは一斉に山の反対側の斜面を下っていった。

31日まで毎日投稿中です!

明日も19時半過ぎに投稿します。

X(@riitotakase)で、大陸地図裏設定を投稿しています。フォロー、いいねよろしくお願いします!

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