39章〜独りの少年〜
施設の正面の門は、内側に忍び返しが傾いていている。
内部からの脱走を防いでいるということは容易に想像できた。
施設の正面に立つと、遠くから分からなかった門の大きさがはっきりと分かる。
今までのどの施設よりも大きい。
警戒心を高めながら、各々の武器を構えた。
大きな地響きが鳴り、門の扉がゆっくりと開いていった。
「入ってこいってことか…?」
「逆。何か来るんじゃない?」
銃を門に向けたまま時間が過ぎていく。
高い咆哮が上がった直後、一斉に吸血鬼が飛び出してきた。
一斉に発砲した弾が的中すると一瞬フラめくが、何しろ数が多すぎる。
右側からの爪を交わしながら、鉄の棒で叩いてその吸血鬼の心臓を破壊する。
しかし、全員が動きは単純で、考えながら攻撃しているわけではなさそうだ。
次の吸血鬼を蹴り飛ばして、1歩後ろに引く。
「Another world!」
周りに複数の雷が落ちて、吸血鬼たちが一斉に痙攣して固まる。
雷も簡単に効く。固まっている吸血鬼の心臓と首を次々と攻撃して倒した。
少し遠くの吸血鬼は玲人の炎で一掃されて、1ベルも立たずにそこには大量の死体が転がっているだけとなった。
「流羽人!裏手から逃げてる奴がいる!」
移設の裏手から山の中に逃げていく複数の影があった。
電気の速度で追いかけて、ついに一人の遅れた女の肩を掴んだ。
「お前ら…!」
捕まえた女が薄汚い笑みを浮かべて、体が爆散した。
爆風で火傷を負い倒れ込む。
再び立ち上がった時には、もう彼らの影はなかった。
「流羽人!捕まえたか!」
「いや、逃げられた!」
施設の裏側の小さな扉が開いている。
あの大量の吸血鬼は…囮だった。
裏口から施設に入ると、暗い地下室だった。
複数の部屋と透明な大きな窓があり、中には固定具付きのベッドがあり、壁には鋭い爪で引っ掻いた跡や血飛沫が残っている。
突き当たりに螺旋階段があり、警戒しながら上まで登っていく。
全ての階に同じような部屋や牢屋のような部屋があるが、人は誰もいない。
特に攻撃などを受けることもなく最上階にたどり着いた。
最上階は、突き当たりに一つの大きな部屋があるだけだった。
「開けるよ」
大きな扉の取っ手をリエルが引いて扉が開いた瞬間、中からナイフが飛んできた。
扉の正面にいた玲人が屈んで避けると、そのナイフは勢いを落とさずに螺旋階段の壁に深く突き刺さった。
「よく避けれたね」
中には一人の少年しかいなかった。
中央に立つ少年がナイフを再び構える。
そして、刃渡の長いナイフを構えて玲人に正面から攻撃しにきた。
玲人の銃弾はかわすわけでもなく、ナイフで軽く弾いた。
「そんなものが通用すると思う?」
「Nightmare flame!」
炎の壁が展開されて、これには少年も立ち止まった。
炎の壁が消えると同時に、リエルはいつものナイフを持ってその少年を横から奇襲する。
が、ナイフで受け止められ、力で押し返されそうになる。
少年からもリエルからも角と牙が生える。
二人は最後にお互いのナイフを押して距離を取り、再び間合いを少しずつ小さくする。
おそらく、リエルはもう血の槍が使えるほど血が残っていない。その上リーチも不利だ。
「Another world…っ」「Nightmare flame…っ…?」
心臓に焼けるような痛みを覚え、胃がひっくり返りそうになる。
魔力の…枯渇っ…!
同じように、玲人も胸を押さえてかがみ込む。
二人の戦闘が始まった。
初動で一気にリエルは切り込んだあと、少年のナイフを流れるような動きで避けてカウンターを試みるが、少年もそれを超人的な速度でかわす。
「Wind blade…全てを切り裂く…!」
「Storm edge...吹き飛ばす...!」
二人の声が重なった。
…お互いが風能力!?
目に見えない速度でお互いがナイフの攻防を始め、金属音が響いた。
ナイフを先に落としたのはリエルだった。
ナイフの先端は強く弾かれ、ナイフが石の地面を滑っていく。
その隙を見逃すはずもなく、少年は素手のリエルを刺そうとするが、体を回してリエルは避ける。
そして、すぐに肘打ちで反撃を食らわす。
体が後ろに傾いた少年の手からナイフがこぼれる。
2人が止まったその一瞬で、俺と玲人は両サイドから走り込んだ。
「来ないで!」
突然リエルが叫んだ。
驚いて足を止めたその間に、少年は再びリエルに爪で攻撃しに行く。彼は大きく跳躍し、真上からリエルを刺そうとする。
その攻撃を軽く右に避けて、着地の隙が大きい少年の完全に背後を取る。
しかし、リエルがした反撃は足を蹴るだけだった。
少年が仰向けに倒れ込むが、すぐに立ち上がろうとした少年に、リエルは馬乗りになった。
「クソ…!どけ!」
少年が暴れるが、手足を完全に固定されて動けない。
ただ、リエルは何もしなかった。
じっと少年の顔を見つめていた。
「…ノックス……?」
少年の肩がピクリと動く。
「何で…僕の名前を……」
…ノックス?…あの施設で死んだはずのリエルの弟…?
「私はあなたの姉…!…リエル!」
「……嘘だ…!僕に…僕に…姉はいないはずだ…!」
ついに少年がリエルの拘束を力で外し、彼女を突き飛ばした。
「リエル!そいつもお前の弟の形をした何かだ!」
玲人が拳銃を少年に撃つ。
「違う!」
弾丸が、リエルのナイフに弾かれた。
「思い出して!ここで焼かれた私たちの住んでた村を…助けてくれたララスさん……お父さんとお母さんを……!」
その言葉に、少年……ノックスの動きが止まった。
「嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…!」
ノックスは力任せにリエルを殴ろうとするが、当たる前にリエルに腕を掴まれる。
「嘘じゃない!思い出して…私のこと…!」
「………」
少年の右手から力が抜けた。
「ノックス!」
「…リエル姉ちゃん……だったっけ…?…呼び方」
ゆっくりと涙で濡れた顔を上げて、ノックスが軽く笑った。
「ノックス……!」
思いっきりリエルに抱きつかれて、ノックスが後ろに転がった。
「…よかったな…リエルも家族が生きてて」
俺も玲人と出会っていなかったら、今頃どうなってたか分からない。
「…うん…そうだね」
再会に抱き合う二人を優しく眺めていた。
「残りの組織員は下にいたはずですけど、多分もう逃げてますね…まぁ僕が気付かれずに死ぬ前提だったんでしょう」
ノックスは囮としてここで戦うことを命じられてらしい。
一階の部屋の一つに地下室への道があり、そこにあった資料は抹消された後で、さらにそこからつながる地下道から下町に逃げたようだった。
「俺が最初に追った奴らも囮だったのか…」
「えぇ…下級の組織員ですね」
念の為、一通り部屋を探してみるが収穫は何もなかった。
結局、地下道に罠などがある可能性を考慮して、裏口から出ることにした。
裏口を出て、元きた山の火がほとんど消えていることに気づく。
「Red bloodこれはどういうことだ!」
「…あそこに人がいないか…?」
訳がわかっていないノックスの手をリエルが引き、俺たちは一斉に山の反対側の斜面を下っていった。
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