36章〜別荘と吸血鬼の山〜
別荘に着いたのは、もうかなり暗くなってからだった。
リエルも玲人も、ここに来るまでずっと黙り込んでいた。
「リエル、ここで合ってるか?」
リエルが顔を上げて、その建物をじっと見つめた。
「…うん。あの後ろの森が見覚えあると思う」
その別荘は、建物こそ残っていたものの、建物の前に高いフェンスがあり、立ち入り禁止の札が貼られている。
「中に入れればと思っていたんだけどな…」
「行けるだろ」
玲人がフェンスを登り始めた。
「おい、バレたらどうするんだよ!」
「大丈夫だって…」
玲人がフェンスを登り切り、向こう側に降り立った。
「カメラとかもなさそうだし、人もほとんどいないから二人も早く」
玲人が別荘の中に向かって歩いていく。
「流羽人兄さんも行こう」
リエルも同じように登っていく。
「…分かったよ」
別荘の中は廃墟と化していた。
地面がなくなって植物が生え始めていて、中のテーブルなども風化してしまっている。
「何年も使われていないみたいだな」
玲人が、ティーカップに被ったほこりを払う。
「違う建物かな…?…あ………私の記憶では、こっちに冬用の暖炉があった気がする」
リエルが扉を開けた隣の部屋には、確かに立派な大きな暖炉があった。
「やっぱり……私が拾ってもらった場所だと思う」
リエルは、もう一つの扉を開けた。
「ここに…ベッドがあって…」
リエルとしてはやはり思い出深い場所らしく、懐かしそうにいろんな場所を見て回っていた。
「流羽人…こっち来て」
手招きされて、リエルのもとを離れ暖炉にいた玲人の場所に向かう。
「どうした?」
玲人が暖炉の鉄格子を持ち上げると、真っ直ぐと外れた。
断面はレールのようになっていて、簡単につけ外しできるようになっていた。
「明らかにおかしいだろ?で、調べてみたら…」
玲人が暖炉の中の炭を端に寄せると、うまく炭にカモフラージュされた取っ手があった。
「…防火素材なのか…?」
その暖炉の中の床は少し感触が独特で、無理やり焦げ跡がつけられたようだった。
「そうみたいだな…じゃあ…開けるぞ」
玲人が取っ手を掴んで中を開けると、地下室らしき場所に階段が続いていた。
「やっぱりだな…どこかにつながっていr…」
外からサイレンが鳴り出す。
「…お前…この国に来て何回引っかかってんだよ!」
「…悪い」
中には、またブザーが仕掛けられていたらしい…
「兄さん達!何かした?」
「また玲人がやったよ…」
「ごめんって…」
「とりあえず、来るのに時間はかかるはずだから、森の方に逃げよう!」
俺達は別荘を飛び出して、森に駆け出した。
「3号館からだ!」
「おい…そこって」
「あぁ…手術室があった病棟だ!」
…手術室……?
近くに駐在所があったのか、すぐに二人の人物が俺たちの入った建物に入っていく。
「流羽人…行くぞ……」
「…あ…あぁ…わかった」
二人が室内に入って行ったのを見て、森の中を走っていった。
「…どこに向かってるんだ…?」
「分からない。リエルに聞いてくれ」
リエルは前を走っていて、時折立ち止まっては少し方向を変えていた。
「リエル!どこに向かってる?」
「あの場所……私が産まれたあの山に……向かわせて…」
「…分かった」
しばらく走っていくと森を抜けて、野原に出た。
リエルは吸血鬼の能力も活用して、だんだんと速度を上げていく。
「…ハァ…ハァ……流羽人…やばいかも…」
「…リエル!ちょっと待ってくれ」
「あっ…!ごめん…」
リエルが足を止めて、俺たちのところまで戻ってきた。
「ちょっと休ませてくれ…すまん」
「私もごめん…急いじゃって…」
「ハァ…ハァ……すまん…」
俺も途中、多少電気を使ったので体力の減少を減らせたものの、生身の玲人はかなり辛そうだった。
そこからは、リエルの記憶を頼りに野原をゆっくりと歩いて行った。
リエルが体を冷やしたという川に着いたのは、翌朝になってからだった。
「あの山じゃないかな…」
リエルが少し遠くにある山を指した。
「かなり距離あるな…」
「能力使う?」
「まぁ…あんま使ってないしな…」
「…え……俺は…?」
玲人が疲れ切った声で言う。
「…俺はおぶれないしな…」
「……仕方ないね」
電気の速度で、山に向かって走っていく。
俺の前をリエルが走っている。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!怖すぎるって!」
玲人を横抱えにして。
「玲人兄さん。うるさいよ……」
「こっち!…は!…揺れてめっちゃ怖ぇからな!」
移動能力を使ったこともあり、山の麓にはすぐに着いた。
「…やべぇ…酔った」
玲人がふらふらになりながら、座り込む。
「ねぇ…ここも立ち入り禁止みたい」
あの場所と同じようにフェンスがあって立ち入り禁止の札がある。
ただ、先ほどよりも高く、頂点に針らしきものがあって、より強固に感じる。
「…行ってもいい?」
………先ほどより危険なことは間違いない…ただ、リエルは絶対に止めてもいくはずだ。
なら、三人で行った方がマシだ。
「いいか?玲人?」
「…あぁ……大丈夫…だ」
川で注いだ水を玲人は飲み干して、いくらかはマシになったようだ。
「オッケー…じゃあ行こうか」
登ることは不可能だったので、リエルが近くにあった重めの石を投げてフェンスの一部を壊して中に入った。
昼間なのにも関わらず、木々で光が遮られる闇を奥へ奥へと進んでいった。




