35章〜優しさ〜
「……ここが…リエルの家だったのか…?」
リエルは、黙って頷いた。
「どうして気づいたんだ?」
「…あの噴水、よく遊んでた気がして…あんなに汚くはなかったけど」
リエルは再びそのボールを拾って汚れを手で払おうとしたが、名前ごと落ちてしまったようだった。
リエルは、そのボールをリュックに入れて、玄関側に回った。
「行ってきます」
そして、その家に向かってただそう言って、家の敷地を出た。
「さあ行こうか。兄さん達」
「あの、別荘ってどこですか?」
噴水の前で、ケルを売っていた屋台のおじさんは不機嫌そうにこちらを覗き込んだ。
「……お前、どこの人間だ?」
「一応、ここの人間…でしたよ。もう、数リム前の話ですけど」
「…じゃあどうやってこの下町に来た」
「…強行突破です」
「あぁそうか、まぁたまに旅人にいるな」
「で、別荘…今はないのかもしれないですけど…場所って知らないんですか?」
おじさんは腕を組んで、その大きな体を屋台のカウンターから乗り出した。
「まぁ、一応知っているが…そっちの二人はお前の連れか?」
「…あ、一応兄的な感じです」
「同じく」
「じゃあ6個だな」
「え?」
「ケルを6個買ったら教えてやる」
「…じゃあ他のところで聞きます」
「やめとけ。俺以外も同じようなもんさ。なんなら無条件で金を奪われるぞ」
「失礼ですけど、全員がめつ過ぎません?」
「ハッ…俺にも養う家族が五人いるからな」
「何Aです?」
「一個20Aだ」
高くないか…一個9Aが普通だぞ…
「15Aにしてもらえません?」
「嫌だな。なんなら40Aにしたいぐらいだ。お前達、金はかなりあるみたいだからな」
「なんで分かったんだ」
「まぁ落ち着けって兄ちゃん…弟か?」
…うん、そうなるわ普通。
「兄だよ!」
「そうか悪かった。この辺にいるやつは、大体相手が金を持ってるか分かる」
「どうしてだよ」
「例えばお前の服。汚れているが、元々はそこまで悪くない素材だろ。そういうとこから分かる」
玲人が自分の服を見て、おじさんの観察眼に驚いて固まる。
「で、買うのか?」
「…分かりましたよ」
100A硬貨と20A硬貨をリエルが自分の財布から出して、屋台のカウンターに置く。
奥のトースターから6つのケルを取り出して、紙で包んで手渡した。
「毎度あり…じゃあまた」
ケルを焼きに行こうとしたおじさんの肩をリエルが掴む。
「で…どこなんですか…」
「あぁ…そうだったそうだった」
わざとらしくおじさんが振り返り、手を打つ。
「絶対わざとだよね」
リエルも半ギレで口調が崩れる。
「悪かったって…ここからずっと南だな。その通りをずっとまっすぐ行ったら着く。今も一応建物が残っているが、金がないから誰もいないだろ」
「そう。ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ」
「あぁ、また欲しくなったら来いよ」
玲人とリエルは通りに向かっていったが、俺は偶然にも振り返った。
その時…そのおじさんはケルをこねながら、なぜか先ほどよりも少し顔に微笑みを浮かべていた。
…いや、お金が大量に手に入ったからだろう。
俺も、二人を追いかけて通りへと向かっていった。
荒れた下町をずっと歩いていく。
飢えて死んだ死体が腐敗してる裏道
何年も溜まっているゴミの山を漁っている子供達
ケルを持っている子供を鉄パイプを持って追いかける男性
死んだ赤ちゃんの死体を解剖して食べている女性
ここまで見たどの国よりも酷かった。
リエルがいなくなった後のこの国で、何があったんだ…?
「…おい…あんたら、金持ってるんだろ?」
「だとしたら?」
すがるように話しかけてきた男を玲人は軽くあしらう。
「頼む…金はいらないから…せめてそのケルをくれないか…?……妻がもう少しで子を産むんだ…」
その男が指さした路地で、女性がお腹を抱えてうめいている。
「…」
玲人は表情を動かさず、
「玲人…別に俺たちは腹は減ってないだろ」
「玲人兄さん…あげようよ」
「……うん。じゃあはい」
玲人は、そのケルを男に手渡した。
「あぁ…ありがとう…本当にありがとう」
男は深々と頭を下げて、路地の方に入ろうとした。
しかし、路地に入る寸前、彼は方向を変えて走っていき別の路地へと走っていき、瞬く間に男の足音も聞こえなくなった。
「分かった?ここはこういう場所」
玲人が何事もなかったかのように歩き出す。
「…玲人は、分かってたのか」
「もちろん。明らかに目が嘘をついていた」
「…兄さん達!あの人は…!」
リエルが寝転がっている女性を指差す。
「あぁ…お金をあげるだけでも…」
「それもやめた方がいい。あの人を誰も助けないだろ。ここは、「優しさ」なんてない場所。そう思った方がいい。あんな人、探し出したらキリがない」
「…それでも……一人でも…」
「リエル、流羽人」
「「!」」
先ほど以上の強い口調に俺とリエルが押し黙る。
「僕たちは「正義」なんかじゃない。あの人たちがお金がなくなった末にたどり着くのが、あのRed bloodなんかの闇組織だよ。僕たちはこの人たちの末路にいるような人々を、もう何人も殺しただろ」
一気に視界が暗くなった気がした。
人を殺すことに慣れ始めて、もう人を殺しても何も感じなくなってきていたのに…今になって人を殺したという感覚が後から襲いかかってくる。
「でも、あの人たちはまだ「悪」じゃない!」
「その気持ちは分かる。けど、全員を助けることができるお金は、僕たちにはないよ」
「っだとしても…お願い…あの人だけは助けさせて…!」
「……分かった。でも、これで最後だよ」
「…うん…ありがとう」
リエルは、その横たわっている女性のところに行って、100Aを手渡す。
その女性に何度も感謝の言葉を言われながら、彼女は戻ってきた。
「うん…ありがとう。行こうか」
リエルは、なんとか自分を納得させようと大きく息を吸った。
「あぁ行こうか」
再び、北に向かって歩き出した。
金属で何かを叩く音がした。
その大きな音に振り返ると、そこには先ほどの女性が頭から血を流してぐったりとしていた。
そしてそのすぐ近くには、血のついた鉄のパイプらしきものを捨て、女性の100Aを奪って走り去る男がいる。
リエルが息を呑む。しかしその直後に走り出して路地に入った。
俺たちが追いつくと、もう拷問は始まっていた。
男が、血で全身を壁に固定されている。
「待て!…俺も生きるためにh…かはっ…!」
男の左目に血の槍が突き刺さる。
「待ってくれ……本当に謝る……許してくr…ぐはっ!」
リエルは男の命乞いに聞く耳を持たずに、1箇所ずつ致命傷を外して刺し続ける。
「次は右目かな…いやでも…視覚がないと恐怖が薄れちゃうよね…」
…やばい、完全に暴走してる…
「リエル…もう大人しく…」
「ごめん。この男だけは許さない」
肩、足、右手、耳までを壊したところで、男が突然奇声を上げて、体から力が抜けた。
ショック死か何かを起こしたようだ。
「だめ。許さない」
しかし、男が確実に死んでいるのにも関わらずリエルは刺し続けて、最後に心臓を刺した。
拘束が解けて、血まみれで顔も判別できない男の死体が、壁から地面に倒れ込む。
無言で路地を戻り、女性の首筋を触るが、彼女は当然死んでいた。
「私が殺したんだ…この人を…私が…私が…」
半ばパニックを起こしている彼女の頭を、玲人が優しくなでる。
「…大丈夫……さぁ行こうか」
玲人が、彼女に自分を追い込ませないために手を引きながら路地を出た。
暗い路地に増えた死体を気にする人は……当然いなかった。
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X(@riitotakase)で、さまざまな裏設定だったり、利糸Another world執筆の反省会をしたりしています。
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