34章〜思い出の場所〜
「追いかけろ!」
後ろから大量の国王直属兵が追いかけてくる。
「どうする!戦うか!」
走って狭い王都を逃げ回る。
「…リエル!後ろ何人ぐらいいる?」
前を走っているリエルが一瞬後ろを向く。
「五十人弱はいると思う!」
…流石に厳しいか……
王都の市場を走り抜けて、狭い道の方にリエルが曲がる。
「…リエル!下町の門側に向かって!」
玲人がリエルに逃げる向きを変えるように指示した。
「え…うん、分かった!」
大通りに再び戻り、下町の境界門に向かっていく。
「どうしてだ?」
「もう、こっちにいてもリスクが高いなら下町に行った方がいい!」
前から先回りした兵士が一斉に銃を発砲する。
リエルは進路をほとん変えずにその弾を正面から受けて、スピードを落とさずに2発目を打つ前の一人の兵士にナイフを刺して、兵士たちを置き去りにしていく。
兵士達は、その一瞬の出来事を理解できずに固まってしまう。
その隙に俺たちもその兵士の間を走り抜けていった。
「リエル!能力で上昇する気流って起こせる?」
「やったことないけど多分できる!けど兄さん達をあの国境門を越えるほどは無理!」
高くそびえ立つ境界門の正面の大通りに出た。
当然兵士は在中していて、銃を構えている。
「じゃあ、そのホテルに突入して屋上に行って!」
「…行き止まりだぞ!」
「私の風、横移動も無理だよ!」
「大丈夫!とりあえず登ってくれ!」
リエルがそのホテル内に走り込み、俺たちもそれを追って入る。
中に入って何人かにぶつかるが、それも気にせず屋上へと向かった。
しかし、ここまで走ってきてホテルの屋上まで階段で登るのは、アドレナリンだけではほぼ不可能で、途中で玲人のスピードが落ち始める。
「玲人兄さん!」
リエルが立ち止まり振り返る。
「上に向かったぞ!」
下から兵士が登って来ていた。
「リエル!先に行け!」
俺は玲人をおぶって、残り2階分の階段を登り始める。
おぶってる分かなり遅くはなるが、今玲人が走るよりもよっぽど早い。
金属の扉が壊された音が階段に響く。
リエルが屋上の入り口の扉を壊したようだ。
「玲人!大丈夫か!」
おぶって上がりながら、玲人の呼吸が少しずつ整っていく。
「こういう時に小さくて良かった」
「お前が自分が小さいとか言うってことはまだ頭回ってねぇな?」
「本音だ」
なんとか軽口を叩く余裕は戻ったようだ。
屋上は少し境界門より低い高さぐらいで、境界門のすぐ近くにあった。
「リエル、説明してる時間もないからとりあえず上昇気流を起こして」
「分かった!」
リエルを中心に風が起こり、体が少し浮きそうにになって離れる。
「でも、これじゃ超えられないよ!」
「リエル!流羽人に捕まって!」
俺は玲人に後ろから掴まれながら、体を押されて上昇気流に入って体が浮いた。
「おい!玲人突然押すなって!」
リエルも気流に乗って、俺に近づき俺の体にしがみつく。
「玲人!ここからどうすればいいんだ!」
「電気の移動を合図したらしてくれ!リエル一気に飛ぶぞ!」
体が高く飛び、境界門の高さを超える。
「止まれ!」
入ってきた兵士は、そこに誰もいないことに困惑した後、空中に逃げられたことに気づいた。
しかし、気づいたところでもう遅い。
「流羽人!能力使って!」
「分かった!」
体が電気の速度で空中を下町向かって飛んでいく。
境界門を超えてリエルと玲人が離れそうになるのを必死に押さえた。
「リエル!もう一回地面に上昇気流を作れる?」
「……やって…みる」
体が地面に激突する寸前、リエルの上昇気流でなんとか勢いを相殺して地面に落ちた。
しかし、玲人とリエルが体から離れてさらに遠くに吹き飛び、地面に強く叩きつけられた。
「リエル!玲人!」
起き上がって二人の方へと向かう。
「…私は…大丈夫」
でこぼこな地面で身体中に擦り傷ができているが、リエルは無事のようだ。
「玲人!」
落下地点に尖った石があり、頭から血を流す玲人からは反応はなかった。
「玲人兄さん!」
俺は慌てて玲人の体を起こし、ホテルから持ってきたタオルで頭を縛り止血する。
「脈はあるし、心臓も動いてるから死んではないよ」
リエルは冷静に体を確認する。
「…出血量は……?」
「確認してみる」
「…確認…?」
リエルは、玲人の首の裏を噛んだ。
「リエル!?」
「私は、血の流れを確認できるよ…………微妙だね…出血過多の可能性も捨てきれない」
「…輸血できるか?」
リエルも血の量によっては、輸血はまずい。
「大丈夫だよ」
リエルは一旦首筋を離して、肩を再び噛もうとした。
「出てこい!犯罪者の旅人ども!」
…兵士が境界門を潜ってきた…!
『リエル、一旦奥に行こう』
『分かった』
リエルが玲人を横抱きにして、俺が三人分の荷物を背負う。
入り組んだ下町を奥に進んでいき、やがて兵士を完全に巻き切った。
「…あれ……」
玲人が止まったあたりで、目を開けた。
「玲人兄さん…!」
一時的な脳震盪だったようで、意識を完全に取り戻していた。
「……」
しかし、玲人は固まったまま話さない。
「玲人、どうかしたか?」
まだ、意識がはっきりとしないのだろうか…
地面に降ろされようやく話し出す。
「…俺…年下の女子に意識不明でお姫抱っこされてた…?」
「「…」」
「しょうもないプライド捨てろ!」
テサー王国の下街は、劣悪な環境でそこらじゅうにゴミが落ちていてかなりの悪臭がする。
そして、人々も当然貧しくシュープリーの裏市よりも酷かった。
木造建築の家屋で歯車製品すら見当たらない。
「王都とは大違いだな」
「…酷い環境だね」
街の大通りらしき道ですら、一切舗装されていない。
そして、街の中心部らしき場所にたどり着いた。
中心部は、もう水の出ていない噴水が中央にある広場で、周りにはケルなどを売る出店がある。
「元々は、綺麗な街だったのか…?」
「そうかもしれない…もしかしたら王の変化によって変わったのかも」
「………ねぇ兄さん達、ちょっとついて来てくれない?」
俺たちの答えを聞く前に、リエルは歩き出した。
リエルは、土地勘があるかのように下町の道を歩いていき、やがて一軒の家の前で立ち止まった。
「リエル…?」
リエルは、その家の庭の裏手に回っていった。
そして、そこに落ちていた一つのボールを拾い上げた。
そして、そのボールを見てリエルが泣き始めた。
………
その転がって来たボールには、掠れた文字で「リエル・ノックス」と書かれていた。
次回の投稿は、16日水曜日の22時過ぎです。夏休み前半(7月中)は毎日投稿を企画しています。
(後半は、新作を毎日投稿できれば……って感じです)
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