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少年は、全てを捨て復讐者となる。~Another World~   作者: 利糸
第一部〜逃亡編〜
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3章〜犠牲者:ヴィクティマ〜

 ローグウェイの通知音で、目が覚めた。

「…ん?……」

 こんな朝っぱらから誰だよ…


 通知:姫咲教授


「…やば」

 完全に忘れていた。昨日は、当然平日だからシュラールはあったし、講義を取っていた。


 とりあえず教授には、昨日突然体調不良になって、しばらく休む伝える電話をした。



「はぁ」

 ため息が出る。妹の復讐者(ヴィンデクス)になり、能力を手にいれ、もう後に引けない状況だった。

 ーシュラールをやめる(捨てる)

 それが、いちばんの選択肢だった。

 でも、シュラールでできた学友、出会えた素晴らしい教授。それらを思うと、すぐに捨てるとは考えたくなかった。



 10ナルになってもベッドに倒れ込んでいた。

 シュラールでできた思い出と、瑠璃を殺された怒り。その両者が、頭の中を渦巻き続けている。

 ー死んだ瑠璃は、もう帰ってこないんだ。だから、、今からでも遅くない。

 ー俺は…約束したんだ!墓の前で、瑠璃と。

 ーそんな約束誰も聞いてない。瑠璃は………死んだんだ。 

 ーでも、俺はっ……俺はっ!

 ー冷静になれよ。シュラールでの生活を思い出せよ。

 自分の保身のための悪魔の囁きが何度も頭の中で響いた。


 ♪~

 ローグウェイが震えた。


 着信:京太

 親友からだった。


「ん……どした?」半分ぼんやりとしたまま、出る。

『お、すまん起こしちまったか?』

「いや、ずっと起きてた」

『そうか。大丈夫そう?病気の方は』

 

 …何とか誤魔化さないと


「あぁ一応大丈夫そう」

『明日はこれそうか?』

「んー、ちょっときついかな。安静にって医者(メディカス)に言われてるから」

『そうか、じゃ元気になったら来いよ』

「あぁ、またな」

『また、学校で』


 電話は切れた。

 そして、電話が終わったとも、頭の中でずっと、京太の「また、学校で」と言う言葉が、繰り返し聞こえていた。



 そこから、ぼーっと自炊して、食事を食べて、気づいたら17ナルだった。

 自分の中でも、答えが出ないまま時間が過ぎていく。


「戻りたい」

 再びベッドに寝転がって、考えていた時、自然に言葉が出た。

「あの場所に。あの仲間を捨てたくない。あそこで生きていきたい。裏の世界なんか知らずに、戻ろう」

 その先の言葉は、自然と紡がれていった。

「帰る時だ」


 決意は、固まった。

 シュラールの鞄から、課題を取り出して始めた。


「えっと、2000リムは…エルダ革命で……2038リムが、Arの導入」

 課題の大陸史のプリントは、心のつっかえが取れたのを表すようにすらすらと進んでいった。

 自分が、自分である感覚。恐ろしいという感情。自分の生き方。自分が捨てようとしていたものが、戻って来る感覚。

 最高だった。自分は、縛られなくていい。自分の道を生きていけばいいんだ…!


 



 ガサゴソ


 …何か音がした…? 窓から…?


 外を覗くと男が、しゃがみ込み何かを家の隅に仕掛けていた。

「おい!」

 奴の仲間だ!

 電気を…放つ!

「ちっ」

 男は、舌打ちをして逃げ出す。素早かった。でも、電気の速度には、勝てないはずだ。

 電気が、男にたどり着いた……と思った途端、男の左手に持っていた小さな石に全ての電気が吸い込まれた。

「あばよ」


「…っ吸い取られた?」

 そう思った刹那、後ろに人の気配を感じた。

 銃声が響いた。

 なんとか、反応し倒れ込もうとしたが、遅く、左手の肩に銃弾が深々と突き刺さった。

「ぐっ!」

 声にならない悲鳴が溢れ、肩から血が出る。

 振り返ると、そこには二人の男がいた。

「こんな簡単に気を取られるとは…期待はずれでしたわ」

「あぁ」


 クソッ!

「Another World」

 自分の体ほどの電気の塊を思いっきりぶつける。

「無駄だ!」

 男は、女の前に出る。

「Fire Wall」

 俺の電気は、炎の壁に消された。

「能力を…使える?」

 愕然としている間に、女の振りかぶって投げたナイフが、太ももに刺さる。

「あぁっ!」

 痛い。痛い。痛い。

 何とか、ナイフを抜き立ち上がる。と同時に次のナイフが投げられた。


 ドン!


 家の隅で、仕掛けられているものから爆発が起き、家が火に包まれていく。

「諦めろ少年」

 男の手から火が飛んでくる。

 手から電気の壁が……出ない?

 そうしている間に火が俺を直撃する。

 体が、火に包まれる。転がって、火を消したが相手は、完全に体勢を整えているはず…


 ?…追撃は、来なかった。

 視界から炎が消え立ち上がると、二人は、変わらずそこに立っていた。

 そして、微笑みを浮かべ、僕を玄関側に突き飛ばす。


 反撃は、一切できなかった。


 立ち上がれ!

「ハァ…ハァ」

 家の中の酸素濃度が薄くなっているのも相まって、息が非常に苦しい。

 それでも、立ち上がる。

「Another World!」

 またしても不発だった。


「私たちの勝ちね」

 女は、そう微笑んだ。

 くそ、何かこの状況を打開する方法は…


「駒は、揃ったな」

 その次の瞬間、自分の目を疑った。

 男も女も自分で、自分の肩を銃で打った。


「は?」


 その直後、部屋にノック音が響機、玄関の扉が開く。


法の者(ラウー)です!大丈夫ですか!」


 …助かった!


「ラウーs…」

「ラウーさん!こいつが、突然入ってきて銃を打ち出したの!」


 女は、リビングで倒れたふりをしている。その隣で、男も倒れていた。


「そうなんです!ラウーさん早くそいつを!」


「手を上げろ!」


 銃が向けられ、手をあげる。


「違いますっ!僕が、この家の住人で、あいつらがっ!」

「ラウーさん!そいつは、銃を持ってる!」

「持ってません!」


 そんなもの俺は…


「腰を見てちょうだい!」

「「んっ?」」


 俺とラウーの声が重なる。

 俺の腰には、先ほど、突き飛ばされた時に入れられたであろう、奴らの拳銃があった。


「クロだな」

 ラウーがいう。

「手を挙げて、おとなしく武器を捨てろ」



 ………だめだ、…完全に向こうが信じられている。……なら、やることは一つ…!


「っこんなとこで終わってたまるか!」


 もう、能力が使えないのは、分かっている。

 俺は、血のでる足を引きずりながらも窓へと走る。


「止まれ!」


 ラウーの一発を脇腹にくらった。

 それでも、足を止めない。男と女は、完全な被害者を演じるためか攻撃は、しなかった。

 男女の体をまたごし、思いっきり窓に向かって飛美、怪我していない左足で窓ガラスを思いっきり蹴り破った。


「止まれ!」


 ラウーの次の銃弾は、上にそれた。

 そして、窓の外に着地すると、怪我した足をものとせず人の少ない路地へと走っていく。

 足の痛みは、感じなかった。


「ラウー本部に応援を要請する!」


 最後に家からは、そんな声が聞こえた。



 遠く、遠くへと走る。


 大通りを避け、なるべく人の少ない道を走る。

「藤堂流羽人!おとなしく逃走をやめろ!」

 奴らには、名前も割れていたらしい。

 路地を曲がる時、一瞬ラウーの光に当たってしまった。


「いたぞ!」

 後ろから、複数人の足音がする。

 ヤバい。完全に見つかった。


 仕方ないっ!

 一瞬後ろを振り向き、銃を放つ。


 一人が倒れた音が、聞こえたが確認せず走る。

 銃の使い方は、ちょっと授業で現物も見ずにかじったくらいだ。完全には、使い方を覚えていない。

 走りながら、銃を確認する。

「確かここを引くと…」

 銃の薬莢が飛び出る。

 …あと3発しかない……

「追え!」

 ラウーを一瞬は、足止めできたがすぐに終われ出した。

「打て!」

 そして、ラウーも発砲を始めた。1発が頬を掠める。


 だったら…!

 俺は、小道を抜けた。

 そして、大通りを一直線に進む。

 その先には…昨日来た夜の都会の人の群れがあった。

 ラウーもそれに気づいた。

「発砲するな!民間人に当たりかねん!」

 ラウーは、銃をしまい走ってくる。

 ただ、俺は、人混みの中に突っ込み、人にぶつかるのも気にせず、走っていく。

 前がどちらか分からなくなるような人混みだ。

 ラウーは、民間人につっこめず、

「道を開けてください!」

 と叫ぶが、夜の喧騒にかき消され、ごく一部の人しか気づくことはなかった。


 その間にも俺は、距離を離し、何とか路地に駆け込み、一つの廃ビルに入った。

 足の痛みを再び感じ出した。ただ、運よく血は流れておらず、跡をつけられることは、なさそうだった。


「ここまでくれば…ハァ…安全か…ハァ」

 足を引きずって二階に登り、部屋の角に腰掛け、息を整える。


 外では、まだ遠くで、ラウーの声が聞こえる。


 俺は、日常を捨てる選択肢を選ばされた。

 そして、もう復讐が仮に終わっても、この日常には戻れなくなった。

 ただ、涙を流す気力はなかった。

 夜は、深まっていく。

第3章を最後まで読んでいただきありがとうございました

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