序章〜Despair〜
用語集
シュラール
⋯任意登校の中学。日本の大学と同じように、好きな講義のみを受けられる。
ソム、リム、ツム、ナル、ベル、ピル
⋯時間の単位、左からそれぞれ年、月、日、時間、分、秒に近い。
1ソム=20リム、1リム=20ツム、1ツム=20ナル、1ナル=72ベル、
1ベル=60ピル。1ピル≒1秒
ローグウェイ
⋯歯車などを主として動く情報端末。通信などが可能。
法の者
⋯現代の警察に近い職業。しかし、権力が多くないので、捜査精度が低い。
シュラールから帰った自宅は、暗闇だった。
「瑠璃?」流羽人は、妹がいるはずのリビングの暗闇に問いかけた直後に、異変を感じた。
―血の匂い?
電気のスイッチを付けると、歯車式電気の焼けるような音が鳴りながら灯りがついた。
ー………!
「……瑠…璃?」
大きな血溜まりがあった。血は、もう固まっていて、その元には、目が虚ろの妹が、壁に寄りかかっていた。
「瑠璃!…瑠璃!」
急いで、駆け寄り、妹を抱きかかえた。背中に深い刺し傷があり、誰かに傷つけられたということが、はっきりと分かった。
「瑠璃!」
体は、芯まで冷えきっており、まぶたになぜか赤い針が刺されており、瞳孔が完全に開いていた。彼女のお気に入りだった純白のワンピースは、赤く染められ、生々しさを増していた。
「瑠璃!………返事をしてくれ!…瑠璃!瑠璃っ!」
流羽人は強く瑠璃を抱きしめ、何度も何度も叫び続けた。
心臓は止まっており、息はなかった。
両親を幼いころに失った二人にとっては、お互いがお互いの唯一の家族だった。お金がなくて、二人で一生懸命働いて、ようやく幸せと思える今に至った。なのに…なのにどうして。
ただ、涙は、こぼれなかった。悲しみという感情は、生まれなかった。すべてが、まるで夢のような、良くできた劇のような。現実として受け入れるには、すべてが突然過ぎた。
―夢だ、これは全て悪い夢で、目が覚めて、いつものように瑠璃の作った朝食を食べて………あの笑顔を見て、シュラールに行って………それだけ…それだけでよかった………この程度の望みなら世界は、叶えてくれるは ずだ。自分より幸福な奴等だらけのこの世界で、俺がこれ以上失うはずがない。失っていいはずがない。
........だから、これはすべて夢だ。
世界は残酷だった。
1ナル後、法の者がやってきて、義務的に死亡鑑定を行なった。瑠璃の眼球に触れ、告げた。
藤堂瑠璃12歳. 死亡(殺害)
2ナル程、調査が行われていたが、めぼしい物は、見つからなかったらしく、引き上げていった。ラウーの長には、殺人として捜査はするが、犯人の特定が難しく、後回しになる。と言われた。
それが済むと、強い雨の中、瑠璃の遺体を一人で郊外の共同墓地に埋めた。自然と涙が溢れた。しかし、その涙が瑠璃が死んでしまったことを認めてしまうと思い、誰も見ていないのに、泣いていないふりをして、涙は拭わなかった。
そして、墓の前で手を合わせ、しゃがみ込み、呟いた。
「お前を殺した奴を………絶対に俺が見つけ出す。そして、同じ目に合わせる……だから、行ってくる。
またな瑠璃………必ず生きて帰ってくるから待っててくれ」
そして、流羽人は、立ち上がり夜明けの街を引き返していった。
復讐者になり