第9話 移動4 相棒?
亜空間からいきなり至近距離10メートルの通常空間に這い出てきたソレは、膨大な気配を纏った身長10センチの小さな人型の生き物だった。背には4枚の透明な虫っぽい羽、意外にも整った顔、そこそこスタイルは良く、肌の色は白く、こじゃれた黒の上下服、上は七分袖、下は膝丈のスカート。フィギュアかな?
精密探の範囲内なので、敵性存在ではないことが分かる。ドットの色は黄色。あ、黄色から青に。
この色は、見たことない。なんせ周囲は敵(赤)ばっかりだったからなぁ。
が、黄色が中立で青が味方であることは本能的に分かる。
味方?この限りなく危険そうな存在が?
「うっひょー!出れた出れたよー、お外だよお。マジだよ外だよひっさしぶりぶりー♪(≧∇≦)」
なんだこいつ。破顔してくるくる回っている。
「うひょひょー、嬉しいなったら嬉しいなー♪」
└(゜∀゜└) (┘゜∀゜)┘
うひょひょ叫びながら、変な踊りを始めた。
ひとしきり踊ると、気が済んだのか、ふうと一息ついた。
「で、あんた誰?無間地獄に出口を作ってくれたのはあんたね。おかげで助かったよぉ。感謝かんしゃ~。」
容姿に違わぬ華凛な声。高く澄んで鈴を振るがごとし。話し方はアレだけども。
「ヨルクね。ハイヒューマン?知らない種族だわね」
茫然としている俺の返事をまたずに、勝手に脳内のステータスボードを覗いた!?
「ちっ。そういうお前は何なんだよ。」
「あっ、今舌打ちした…ま、恩人だから流してやるか。
あたし?あたしはねぇ、げぇぇハザマノヨーマ!?何じゃその嫌ったらしい名前は。
違くて、あたしは、妖精の、妖精王の…なんちゃら?ヤベ、名前忘れた。」
「名前忘れるか?普通」
(そういえば俺もヨルクになる前の名前忘れてるわ)
「しょうがないでしょ。すんごく長い間あそこに閉じ込められてたんだから。
ちょうどいいからヨルクがあたしに名付けしてよ。」
何が丁度良いのか分からんが、ハザマノヨーマは長いし本人が嫌がってるから別の名前つけてやるか。
ナンチャラでいいか、いやさすがにそれじゃあな。中を抜いてナーラは?
「ナーラはどうだ?」
「ナーラ、ナーラ♪ あたしにぴったりの可愛い名前!いいよぉ、気に入った(≧∇≦)ありがとね!」
「気に入ったのなら良かったよ。」
名前の由来は言わないでおこう…。
「ナーラね、嫌な奴らに追い回されて、あの変な場所、亜空間て言うの?そこに閉じ込められてたんだー。
ひとつひとつが凄く広いし、基本真っ暗で何もないし、他と微妙に重なってるから、境界を破って散々移動したけど、何処に抜けてもあんまり変わらない。無限地獄だわね。
最初の100年くらい?は頑張って外に出ようと色々やったけど、その後は諦めて、ずっと寝てたんだー。
すごおく長い間寝てたと思う。」
「そ、それは大変だったな」
「そおなのよぉ。そしたら気味の悪い虫が次々に降って来て。
どこから来たんだろうって探してみたら、何か出口っぽいものがあって。
ヨルクが開けてくれたんだよね。閉じたら大変だから、急いで出てきたんだぁ。
ありがとありがとね。ぐすっ」
「…。なんにしろ、良かった…。」
ナーラはキョロキョロ周囲を見回して、ガビーンというような表情をした。
「な、なにこの化け物の巣窟みたいな場所は。
てか、ヨルクも大概化け物だわねー。まあ相棒なんだから強い方がいいかぁ」
相棒認定されてるし。
悪くはないけども。
「化け物って、この蟻どものことか?」
「こいつらは、雑魚ね。少し遠いけど、強いのが4~5匹いそうな?
そしてあっち。あっちの山の方には凄い化け物がいそう。この世界の最強クラスじゃないかな?」
なに!?ていうか、探よりはるかに高性能の索敵が出来るのか?
「あーいやぁ、確実じゃないよ、勘ね」
「勘かよ!」
「そう言えば、ナーラは何が出来るんだ?」
「ナーラはねぇ、治癒系統は得意だわね。
それと亜空間を移動したり探ったり。
勘もなかなか鋭いかも?
あとは逃げるのも上手だし、自慢はなかなかやられないことね!」
治癒系統か、悪くない。
「攻撃魔法は、あんまし得意じゃないなぁ。よく失敗してた。
今はブランクもあるし、2回に1回は失敗しそう。
体術関連はダメダメだわね」
まあ体術はそうだろうな。
「攻撃魔法に失敗するとどうなる?」
「今見えてる範囲くらいはぐっちゃぐちゃになるわね。
砂になったり、ドロドロに溶けたり、下手すると消滅したり。
あ、あたしは大丈夫よ。しぶといから。
ヨルクは…、ダメかも?」
なにそれ怖い。
「攻撃魔法は絶対使っちゃだめだからな!!」
「う…ん。元々攻撃魔法使うの好きじゃないし。
追い詰められると仕方なく使ってた感じ。
ヨルクがそう言うなら使わないよ。相棒だからね!」
まあ…いいか。
さて、蟻退治を再開するかな。
「あれ?蟻がいない。」
「なんかササーって引いて行ったよ。」
「ナーラが気持ち悪い気配出してるからじゃないか?」
「ひど!」
「それ、引っ込められないのか。」
「うーん、やってみる。…こんな感じ?」
「もう一押し。」
「えー。う…ん、これでどおぉ?」
意外と器用だ。駄々洩れていた膨大な気配がきれいさっぱり消失した
「お、うまいじゃん。それでいい。」
「えへへー。」