第7話 移動2 鬼人族
川沿いに東進を続けると、ゴブリンの数は益々増加し、200人規模の集落も散見されるようになった。
その規模になると、通常ゴブリンの他に、ガタイの良いホブゴブリン、稚拙な魔法を使うゴブリンメイジ、スリング(紐式投石具)を使うゴブリンシューター等の変わり種が5~6匹混じるようになる。
ただ、まあ、単に数が増えて対処に時間が掛かるようになったのと、変わり種で多少目先が変るだけで、どうということはない。
奴らは、これといった連携を取ることは無く、数を頼んでも結の防御を突破できず、斬はおろか結による攻撃にも全く対応できない。
俺の一挙手一投足ごとに、ゴブリンどもは屍の山を築くのみだ。
普通ゴブリン個々の経験値は初見時山犬以上黒熊未満、変わり種ゴブリンは初見時黒熊以上ヒグマ未満、それでいて数が稼げるので、経験値的にはなかなか美味しい。
そして敵を残すと後方から挟撃される可能性があり、脅威ではないが気持ち悪いので、会敵必滅で進んでいく。
ゴブリン戦を繰り返すと、経験値の増加は低下していく。体感では、今や初期の10分の1程度。
しかも魂の器もだいぶ大きくなり、なかなか一杯にはならないが、着々と貯まってはいるので気長に行くしかない。
ゴブリンは猿顔だが、犬顔の犬鬼も出現した。
身長は100~120センチ程度と少し背が高く、ゴブリンより少しスピードがある。
だが、誤差の範囲内であり、全く脅威ではない。
斬を放てば、一瞬にして範囲内に捉えた全てのコボルトが、何らの抵抗も無く上下に分断される。
たまに、偶然か意図的なのか、範囲内から逃れる者もいるが、個別に狭い範囲の斬の追撃や結槍結刀の一振り一突きで斃れて行く。
既に千以上斃した。
数をこなすうちに、敵の行動も多少工夫がうかがえるようになって来た。
密集を避けて出来るだけ散会し、的を絞らせないように常に不規則に周囲を走り回り、障害物の陰に隠れ、大型の盾を持ち出したり、数匹がかりで丸太を抱えて突撃してきたり。
俺の対応もかなり洗練されてきた。
広域の探は半径200メートルに達している。これで範囲内の敵の全体状況を把握し、長距離・中距離・近距離で対応すべき戦闘を、数手先までを見通す。
詳細の探は半径10メートルで変わらず。
この範囲内で、中距離攻撃として、効率的に斬れる広さ高さ形状で斬を発して斃す。
斬の範囲を逃れて、更に接近してきた奴や、投石・魔法などの飛び道具に対しては、結の壁・結盾・結槍・結刀を駆使して、防ぎ、突き、切り払って対処する。
さすがに、時々は結鎧をかすめる攻撃もあるが、ノーダメージである。
探は本当に優秀である。
不意を突かれることもないし、範囲内の対象となる敵の数・位置及び脅威度を正確に見極められるので、あわてることなく、冷静に、適切な作戦・対応を考えて、それに従って、斬あるいは結を発し、体を捌き、必要なら移動し、勝利を積み重ねていく。
戦い続けながら、我ながら呆れたのは、俺の継戦能力の高さである。
ハイヒューマンボディの優秀さと、仙気の驚異的な回復速度のお陰で、疲れることもガス欠になることもない。
空腹になることもなければ、喉が渇くこともない。
何日でもひたすらに戦い続けられる。
強いて言えば、精神疲労はあるかな。飽きて来て、ダレがちである。
戦いの内容的に、向上の余地があるうちは良いのだが、変化が無くなって作業感が強くなってくると、結構辛い。
一旦引くとするか。
俺が下がると、ゴブリンとコボルトどもは、してやったりとばかりに追撃してくる。こいつらー(怒)。
奴らの追撃が直線的になり、ある程度密集したところで、斬。
適度に牽制(と言っても範囲内は鏖殺)しながら、引くことしばし。
追撃が散発的になったところで、速度を出して走り、一気に引き離す。
敵が見えなくなった後、川を渡ったり、適度に川中を遡ったりして、臭跡を消す。
頃合いと見た辺りで、川を離れて南下し、森林地帯に入ってからは木々を飛び移って移動。
ふう、これでやっと完全に巻いただろう。
このまま矮鬼、犬鬼の相手をして、殲滅することも不可能ではないだろうが、敵数は万単位でまだまだありそうだ。
おそらく豚鬼や剛鬼種もいるだろうし。
異能の出力と練度をもっともっと上げて、殲滅力を増しましにしないと、全鬼人族の相手は厳しいな。
修行あるのみだ。戦いの幅を広げるためにも、新たな敵を相手にし方が良いと判断する。
そう考えて、新たな敵を求めて、鬼人族密集地帯を避けて方向を変え、南進することにした。
南進すること数日、獣型、鳥型、虫型のどうということのない相手を散見しながら、虫型が徐々に増えて来たように感じていた。
そして、体長1メートル程度の巨蟻と数回連続で接敵した。
蟻の領域、来たか!
体表は金属質な感じで、色は銀色。顎鋭く、複眼と触覚は気持ち悪く、尻から蟻酸を飛ばす。
結構固い。
触覚、首、胸部と腹部の連結部、腹部下側を狙わないと、結槍・結刀では体表面を滑ってしまうことがある。
斬の攻撃は、その効果は確実であるものの、首と胴体を切り離すか頭部を破壊するかしないと、半端に斬ってもなかなか死なない。
そして蟻だけに、膨大な数で攻め寄せる嫌な予感があり、蟻領域に不用意に攻め入るのは躊躇われる。
他方、魂の器がそろそろ満杯になる感触もあって、新たな異能の覚醒を期待しつつ、数匹の蟻を相手に攻めては引いてという一進一退を繰り返して、3日ほどを費やした。