サバイバル2 山犬
翌朝、樹の股で俺は無事に目を覚ました。背中がゴリゴリで痛いぜ 笑。
さてと、寝起きの探!
おや、地中にまで探の範囲が及んでいる。ということは範囲が広がったわけだ。
半径5メートルから6メートルへ。よしよし!
半径6メートル内に危険なし。よし!
1時間ほど樹上から警戒していたが、虫、カエル、もぐら、うさぎ程度を探知したのみ。
「少し周囲を探検するか」ということで、地上に降り立つ。
拠点の樹を中心に螺旋を描きながら少しずつ範囲を広げて行く。
落ちていた手ごろな棒を拾い、武器として使うことにした。命名「ひのきの棒」。
ひのきかどうかは知らんけど。
手ごろな石も数個、ポケットに忍ばせる。投擲武器用だ。抜かりなし。
と、敵を探知。小物。昨日振りの角兎だ。
草むらに潜み、突撃の機会をうかがっている。
来た!身をかわして、ひのきの棒を振り下ろす。
ボテ。頭部を狙ったのだが、背中にヒット。
それでも角兎は地に落ちる。
すかさず足で踏ん付けて体重を掛ける。
ゴリ、グチャ。潰れた…。うん、仕留めた。
昨日同様に煙になって霧散する。
おや?なんか、なんというか、体内に貯まるものがある。
もしや経験値的な?あまりに僅かなので、確証はないけれど。
ステータスボードに変化はなし。そもそも経験値の表示がない。
その後、カエルや虫を退治してみたが、こちらは何かが貯まる感覚もなかった。
弱すぎて敵認定されない?もしくは獲得経験値が少なすぎて感知できない?
検証はおいおいだな。
そうやって冒険と言う名の徘徊を続けて、拠点の樹から50メートルほどの地点に到達した。
先の角兎との遭遇以外、特にこれという事件なし。
太陽は南中し、既に高度を下げ始めている。つまり午後になったということだ。
昨日から飲まず食わずなのに、不思議に渇きも空腹も感じない。
そう言えば、ハイヒューマンは趣味嗜好として飲食は可能だけれど、必要ではなかった。
体力などのエネルギーは物を取り込んで質量をエネルギーに変換して賄う。
空間使いの能力は、周囲から吸収する仙気で賄うという設定だったはず。
便利だな、ハイヒューマン!
質量変換は膨大なので、枯葉をちぎった一片で、数か月は行動可能だったような気がする。
むしろ変換し過ぎると体が爆発しそうで怖いわ。
さてそろそろ本拠樹に戻ろうかと思い始めた矢先、茂みの中に敵発見。
角兎より気配がでかい。
柴犬よりひとまわり大きい犬だ。
痩せこけているが、顔つきは獰猛だ。
身を伏せてこちらを狙っている。
俺はひのきの棒を剣道でいう正眼に構えて、山犬(と命名した)に正対する。
山犬は音を殺して匍匐前進しながら位置を変えて、俺の背後から襲う算段のようだ。
しかし俺がその場で向きを変えて、常に山犬に正対しているため、作戦を変更し、飛びかかって来た。
迎え撃つひのきの棒。山犬は直前で横っ飛びに向きを変え、横から喰らい付こうとする。
動きが早い。
俺は角兎で鍛えた体さばきで身をかわし、とびかかってくる山犬の鼻面に、バットスイングでひのきの棒をぶち当てる。ジャストミート!しかし棒は貧弱だった。
バギッ。半ばから折れ散るひのき棒。一方山犬は多少ふらついたものの、ダメージ軽微。
大口を開けて噛みつきかかる。
俺はとっさに折れたひのき棒を犬口に付き込んだ。
「ギャワン」ささくれだった先っぽが犬の口蓋に突き刺さり、首の後ろから体外に飛び出す。
すばやく手を離したものの、もがく前足の爪で、上腕部の皮服が破れ、皮膚にかき傷が出来て血がにじんだ。
山犬は…煙となって霧散した。
経験値が貯まる感触あり!角兎より多い。
とりあえず、戦闘音も出たし、かなり争いの気配を醸してしまったので、他の魔物が集まるやも知れん。
ということでダッシュで本拠樹に戻る。
ほどなくして、ふんふんと地面に鼻面を押し当てながら、山犬が2匹、本拠樹に近づいて来た。
そして、ここだとばかり「ワンワン」「ギャワン」と吠えたてる。ウザい。まずい。
そうこうするうち、更に接近する他の獣あり!
熊だ。小型の黒熊。小型と言っても山犬の二回りは大きく、大型犬くらいのサイズがある。
本拠樹の根本で、山犬2対黒熊1のバトルが始まった。
黒熊の前足の振り下ろしが山犬をとらえる。べしゃりと地面にたたきつけられて煙化。
もう一匹が脇腹に噛みつくも、両前足で挟み込んで圧殺。煙化。
あっけなく勝負はついた。
と、山犬から出た煙(瘴気と命名)がすーっと、黒熊に吸い込まれる。
瘴気を吸収した黒熊は、満腹といわんばかりに、満足げにのしのしと去って行った。
一連の事象を見て思ったこと。
角兎、山犬、黒熊といった魔物は瘴気から発生し、死ぬと瘴気に戻る。
他の魔物に倒されると瘴気は勝った奴が吸収し、強化される。
俺は瘴気から出来ているわけじゃないので、瘴気は吸収しないが、代わりに経験値を得て貯める。
なんかそういうシステムだったと見た覚えが有るような無いような。
とにかく経験値を貯めることは悪くない。
なんとも表現し難いが、満足感というか達成感というか、なんか満たされる。
安全マージンを十分に取りつつ、経験値を貯めて行こう!
傷ついた前腕を見ると、早くもピンクの薄皮が張っていた。
ハイヒューマン、回復早いぞ。