第13話 閑話 龍王
天龍山山頂 龍王の間
「陛下 不死将軍 夜姫様が謁見を求めております」
「通せ」
カツカツカツ。
「速やかに謁見をお許しいただき恐悦…」
「よい。本題から頼む」
「はっ。件の人族の若者ですが、驚異的な速さで成長を続けています。
おそらく空間系の技能と思われる不可思議な技をいくつも駆使し、既に蟲人族の佐官クラスに届いています。
リーダーホッパーが十数名倒されています。」
「ほお、あの体術を極めし蟲人の隊長クラスがのぉ」
「同行している小型の人型は、古の妖魔と判明しました。」
「なにっ!数多の世界を破壊した、伝説とも悪夢とも言われるあの妖魔であるか」
「はい。特異な妖気反応が出ており、間違いないかと」
「ううむ…」
ピカッ、チュドーン、ズウゥゥーン。
「申し上げます、蟲人族領の草原から大規模な爆発が発生」
「これもそやつらの仕業かな」
「おそらく」
「そうか、儂が直接見て来よう」
「あっ、陛下!…もう行ってしまわれた」
(あれか。転移を連発しておった。爆心地から避難した後に様子を見に戻ったというところか。)
(目前での威圧で動きを止めることはできたな。総合力ではまだまだ儂に及ばんようじゃな)
「恐れずともよい。其方らを害する気はない。
儂は龍王じゃ。この辺りを治めておる。種族は神龍じゃな。
其方らは何者じゃ」
「俺はヨルク、ハイヒューマンで…無職?」
「ナーラはナーラ、妖精王?」
(こやつ、魔力が無い!仙気か。純然たる人族とは異なるようじゃ。奇怪な。最上位神の手が入っておるのは間違いないわ)
(そして古の妖魔。これもまた底が知れぬ)
「ふぉっふぉっふぉ、愉快な奴らじゃな。其方はアレじゃろう。そっちは妖魔じゃな」
「アレって?はて?」
「ヨーマ違う!」
(む?使徒ではないのか。そうとは思えんが)
(妖魔は正体を隠しておるのか?なぜそんな小賢しいまねを?まさか誠に己を見失ったか?)
「おやぁ、まことに覚えておらんのか」
「う…基本記憶は消去されてて。必要に応じて思い出すみたいな?」
「ふぉっふぉ、あのお方らしいわ。いたずら好きじゃからのぉ」
(最上位神様、何を考えておられるやら 笑)
「ところで、これは其方、ヨルクの仕業かな」
(すさまじいな。妖魔の破界に匹敵し得る)
「やべ。いや、その。初めて使ったから加減分からなくて。抑えた積りだったんだけど」
「ふむ…」
(初めての行使でこれか。しかも力を抑えたと)
「次からは、10分の1とか100分の1くらいの適性規模にしたいと思います!」
(なんと!まさしく妖魔の破界と同列。あるいはそれをも凌駕しかねん)
「それが吉じゃな。この力、誤ると世界が壊れかねん。心するのじゃ。
それに、この惨状の修復も手間じゃしの。」
(性根が悪性ではないのが救いじゃな。
そもそも神の使徒がこの世界にあだ為すとも思えん。案ずるまでもないか)
「其方らが戦っておったのは、儂の眷属じゃ。中堅どころだったのだがな。」
(佐官級の特戦隊5名が瞬時に斃されたか。まあこの有様では無理もない)
「眷属間の小競り合いはよくあること。気にせずともよい。
じゃが、行き過ぎるとお互い不幸な結果を導くこともあろう。
ヨルクには儂の加護を授ける。これで不幸な行き違いは避けられることだろうて。」
(こやつ、この先、儂すら凌駕する域に達することも十分に有り得る。
しかも既に、連発する転移にピーキーな攻撃力、その他にも不可思議な空間系の技を多用するとのこと。
今この場で仕留めることも難しいやも知れぬ)
(いやいや、そもそも最上位神の関係者を害するなどあってはならん。
取り敢えず、敵対は避けんとな)
(古の妖魔は、使途に完全に寄り添っておる。全く邪気を感じぬ。こちらも心配はいらぬな)
(現状は我が優位なので、今が友誼を結ぶ絶好の好機であったな。)
「ではな」
(謎の抵抗があったが、なんとか加護を押し付けることが出来たわい)
(この者らの使命、ありようを思えば、早晩この神龍島を出て行くことじゃろうて)
(ふっ、よい仕事をしたわ。さすが儂じゃ)