第11話 移動6 蝗マン 異能星5
新たに発現した異能は、『異能★★★★★転』。
転来たーー!
その内容は、もちろん転移。俺自身及び俺に触れているもの、または指定する他の物体を、確知する場所(基本視認地点)に瞬間移動させる技能。
空間系能力と言えば、これが定番だよね!
初期性能は、距離MAX1キロ、クールタイム10秒。
うーんこれは、出力と練度の向上に期待するしかない。
ただまあ、おかげで退路は確保出来そうだ。
安心感が半端ない。
気持ちが落ち着いたところで、攻撃にどう利用できるかを検討する。
敵の意表をつく場所に転移して、攻撃の先手をとりたいところではあるが。
実際にやってみたところ、蝗マン5人全員の死角というのはなかなか望めない。
敵が転移後の位置を確認し、新たな攻撃態勢を整えるのに、確かに数拍の時は稼げる。
しかしながら…実際やってみると、俺自身が、転移後の新たな位置になじみ新たな攻撃態勢を整えるのに、数拍の時を必要とする。しかも転移酔いとでもいうのだろうか、少しの間くらくらして不調になる。
短距離転移だとクールタイムも1秒程度と短くはある。
が、態勢を整えるのと体調を整えるのに時間をとられる結果、転移を行うと明らかに戦況は不利に傾く。
これは慣れが必要だ。
新位置に伴う攻撃態勢を想像だけで固めることは、いずれは出来そうだし、転移酔いもなれれば軽減さらには解消されるだろう。
しかし、それは蝗マン達と戦闘継続中の今ではない。
むしろ物の転移。転送というのだろうか。こっちの方が現況では有効だ。
重さのない結刃、結針、結槍等の短距離転送は、ほぼタイムラグ無く、連続で行使可能だ。
鋭利な結の断片がばら撒かれている中を、高速飛翔するのは危険が伴う。
刻々と変化する結の断片の位置情報把握に手間取るのだろう、蝗マン達の動きは明らかに鈍った。
むしろ無理に動くことにより、重軽症が増えている。
(なお、孔穴は、固定性質の故か、残念ながら転送不可だった)
そして更なる有効な手段を思いついた!
蝗マンの体内に結断片を転送したらどうだろうか?
結論、出来ませんでした…。
ただ、岩とか土の中は可能。
立樹の中への移動も不可だが、枯れ木や丸太の中は可能。
生命力が邪魔をするのだろうか。
空中や無生物中に転送する場合、既にそこにあった空気や物質は転送によって、押されて移動するようだ。
気体ならさらりとほぼ無抵抗、液体ならぬるりと若干の抵抗。個体は固いものほど抵抗が大きい。
避け広がる余地のない場合はどうだろうか。
ぐぬぬ、抵抗が大きいが、力技でやってやれないこともなさそうな感じだ。無理やり押し広げる感じだな。
そこで更に新たな発想が芽生えた!
物質を位置的に重ねるとどうなるだろうか。
核融合的な事象が発生するのではないだろうか。
質量からエネルギーへの変換の物凄さは、俺自身の生理現象として理解している。
ハイヒューマンは食べ物を消化して化学エネルギーを取り出すのではなく、莫大な質量エネルギーを原子レベルで緻密に操作することにより、活動しているわけだからな。
うろ覚えだが、8グラムの材料から0.03グラムの質量欠損をもたらした場合に生じるエネルギーは、7000トンの水(25メートルプール20杯分くらい)の温度を0度の冷水から100度の沸騰するお湯に上昇させるほどのものだったはずだ。
これを一瞬のうちに一点に具現化させたら…即席核爆弾の誕生だな。
さて、さっそく実験、というか実践だ。
探で地中から密度の高そうな鉱物を見つけて転送で取り出す。
指1本分くらいの塊と、小指の爪の先程の小さな塊。
大きい方を結で幾重にもぐるぐる巻きにしてギュギュっと固める。
土台となるそれを蝗マン後方に転送して、小さな塊の方を、土台内部の鉱物の中に、無理やりぐぐぐぐっと、むむむりやり~転送。
俺自身は転移でできるだけ遠くまで退避して、前方に孔の壁を作って爆風等に備えている。
小さな鉱物が無理やり転送されて土台の方の鉱物と重なり合い、幾何かの質量が欠損して瞬時にエネルギーに転換。
その瞬間、地獄が現出した。
輻射熱を伴う強烈な光が溢れ、同時に衝撃波。
孔壁で遮られ光も熱も衝撃波も亜空間に逃がされたが、孔壁の範囲外では、あらゆるものが溶け、蒸発し、衝撃で吹き飛ばされた。
そして爆風。これも亜空間に逃がされたが、周囲を通り過ぎる爆風と爆音。
音が大き過ぎて感知できず、逆に無音の世界になり果てている。
周囲が高熱で危険なので、数回の転移を重ねて、できるだけ遠くまで退避する。
そして、数十分経過後、多少熱も冷めて来た頃合いで、3重に結鎧を展開して爆心地へ向かった。
いやはや酷いものだ(犯人は俺です)。
爆心地から半径100メートルほどは、溶けて再結晶したのであろうガラス化した地面。
衝撃で叩き付けられた後、熱で蒸発するまでの一瞬で感光状態になったと思われる、蝗マンの影がきっかり5つ残されていた。
「うっわーこれはないわー」
「ナーラに言われたくないけど…ないけども…否定できん…」
長居は無用だ。結で板を作って乗っかり、最速の結移動で、爆心地から遠ざかるとしよう。
俺たちは無言で、空飛ぶ結板により移動していた。
「あ、アレ」ナーラが指さした方角を見ると、例の危険な山の山頂付近に、何やら黒い点が見える。
実に嫌な予感がする。




