サバイバル1 覚醒
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鼻腔をくすぐる湿った匂い。雨上がりの落ち葉と土の香りだろうか。
俺はパチリとまぶたを上げた。
薄暗い。静かだ。わずかに風にそよぐ葉擦れの音と、遠くかすかに鳥の鳴き声が聞こえる。
ガバっと上半身を起こす。ハラハラと枯葉が落ちる。堆積する枯葉の上で横になっていたようだ。
おかしい。状況が理解出来ない。まだ夢の中なのか?
周囲は深い森の中のように思われる。
一抱え以上もある大木が林立し、下草と灌木、ところどころにうず高く積もる落ち葉。
なぜこんな場所で寝ていたのか。何も思い出せない。
しばらくぼーっとしていた。と、近くの下草の茂みから草をかき分けるような音がした。
注目すると、ひょこっと顔を出した猫ほどの動物と目があった。
うさぎ?かわい…くない!額には螺旋にねじれた一本の角。目は憤怒に燃え上がったように見えた。
うさぎ?は猛ダッシュで俺に向かって突進してきた。まさに脱兎のごとく。いやそれは逃げる際の奴だったはずでは。
このままでは角が顔面に刺さる!急いで後退しようとしたが、態勢も足場も悪い。
ずるりと仰向けに倒れてしまった俺の顔面すれすれに、一陣の風と柔らかな毛がなでそよぐ感触を残して、うさぎ?が通過していった。
ターン!乾いた音がした背後を振り返ると、うさぎ?(仮称 角兎と命名)は、角を大木の樹幹にめり込ませて宙に浮き、手足をジタバタさせていた。
チャンス到来。おれは立ち上がり両手を組んで、角兎の頭上に振り下ろした。
ゴキリという嫌な音を立てて、角兎の一本角は根元から折れ、同時に首の骨も折れたようで、角兎は落下した地面の上で少し痙攣した後に動かなくなった。仕留めたみたいだ。
「ふー焦った」
幹に深く刺さった角がやばい。あれが顔面に直撃してたら、確実に致命傷を負っていたと思われる。
横たわる兎の死骸を見るともなしに眺めていると、輪郭がぼやけて来て質感が薄くなり、じきに黒っぽい煙になって消えてしまった。煙はすぐに霧散し、後には何もない。
幹に刺さった角に視線を移すと、そこに角は無く、幹に穴を残しているだけだった。
「これは…一体なんなんだ?」
分けが分からないが、暢気に混乱している暇はない。
身の危険に対処しなければと、周囲を見渡し、手ごろな太さの若木にとりついてよじ登り、隣の大木に飛び移って、5メートルほどの高さで、斜め上に伸びる枝に背を預けて一息ついた。
「ふう、このあたりまで登れば、角兎の襲撃は心配なさそうだ」
樹皮に擦れて、わずかに痛む掌を見つめる。どうも夢ではなさそうだ。
だとしたらなんだこの現実感のない現実は!
自分の体を手先から足の先まで見ると、黒の皮つなぎに黒いブーツ、そして手の甲の皮膚が若々しい。
「あれ?俺ってこんなんだっけ?俺はたしか…」自分の年齢が思い出せなかった。なんということだ。
加速する混乱の中で、身の安全を図るにはどうしようかと考えを巡らせる。
危険は角兎だけとは限らない。
異世界?の深い森の中。危険がてんこ盛りの予感がする…。
どうにかして猛獣?の動向を探らなければならない。命の危機だ。
「さて、どうしたものか」
思い悩んでいると、カチリ、何かが嵌ったような音が頭の中に響き、全身を軽い衝撃波が駆け巡った。
脳内の違和感に意識を向けると、「ヨルク 異能:空間使い」との情報があった。
ヨルクに意識を集中すると「ハイヒューマン 17才」と追加情報が現れた。追加情報はここ止まり。
空間使いの追加情報は「★探」とあった。
なんかゲームのステータスボードのようだ。これをステータスボード(仮称)と命名しよう。
ヨルク、ハイヒューマン、17才には、うっすらと覚えがある。
「なんだったっけ、これ?」
うーん…あ、なんかのゲームのキャラクタークリエイトだ。
そうだ、販促メールで新作ゲームにアクセスして、キャラクリしたものの、それっきり放置してた奴だ。
種族ハイヒューマンを選んだら、コスト高過ぎて、他に何も出来なくて、そのまま放置した 笑 。
ハイヒューマンはヒューマン(万能型 器用貧乏ともいう)の上位互換で、とても使い勝手が良さそうだったが、その分、高コスト過ぎたんだった。
更に記憶の断片がよみがえる(気のせいかも知れない)。
目覚める直前、神様のような存在?に「お前は素質はあるが根性がない。もう一度だけチャンスをやる。死んだらそれきりだからな」みたいなことを言われたような?
空間使いの★探に意識を向けると、驚くべき感覚の変化が感じられた。
目が悪くなってから初めて眼鏡をかけたような、ゴーグルをつけて水中を覗いたような。
まあ、それ以上なんだが。
周囲の状況がはっきり認識できる。自分の頭部を中心に、球状に、半径5メートルくらい。
枝の状態、空気の流れ、小さな虫の存在とその動き。更に意識を集中すると、漂う匂い粒子まで判別できる。
ああ、探とは探知の探だったのか。
まあ小さなレーダーみたいなものか。
半径5メートルじゃあ、たかが知れているが、それでも無いのと有るのとでは大違い。
背後等の死角が感知できるのがよい。
障害物を無視して感知するのもよい。
茂みの中の待伏せとかにも対処できそうだ。
ひとしきり、★探をあれこれ弄り回しているうちに、気が付くと辺りは暗闇に包まれていた。
頭上には葉が厚く茂っていて月も星も見えない。
真っ暗闇だが、探は明暗にも左右されずに機能する。
よしよし(にっこり)。
そうこうするうち、地上5メートルの樹上で俺は眠りに落ちていった。