07 そして物語になる
今回で終了です<(_ _)>
「いろいろあったのね」
「ああ。しかし、君は全部知っていることだろ?」
「そう、ね」
彼は小さく笑った。
「なに?」
「とんでもなく強いカリュも、あのときはヤバかったな」
「アプル?」
そうだとうなずく彼に、そうねとカリュは笑いながら寄り添った。
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プリシラ魔窟の中で、彼らは巨大な妖魔と相対していた。
やっとの思いで倒したはずだったが……
「第二形態…ねぇ…」
セヴィナが苦笑した。
「あの管は…ってか、あれって触手?」
レキーサの声はわずかにかすれている。
醜怪なその姿…
先の姿も昆虫のような節足動物のような、どうにも嫌らしい姿だったが…
「これはもっといやぁ~~んな感じよぉ」
おどけきれないマコがそこにいた。
金属管状の触手がズルリと動く。
「きゃっ!」
地面にも触手が這い出し、ホタルが飛びさがった。
触手の先端が全て彼らに向けられる。
「キッカ!セヴィ!防御魔法!」
トーティアムの叫びに二人が機敏に反応したが、呪文をつむぐタイムラグが彼女達にとって不運だった。
触手先端の微細な穴から、無数の針が横殴りの突風のように襲い掛かった!
「ていっ!」
「や!」
トーティアムが再度召還した風の精霊マルナが起こした突風と、全身を鎧にし翼を広げたカリュがそれに立ち向かった。
襲い来る針のほとんどは回避できた…
が、それでもカリュは数十本を全身に突き立ち、無茶なカリュをかばおうとしたアランにも数本。
そのアランを救おうと駆け寄ったトーティアムの背は…針山のようになっていた。
ほかの皆にも腕や足に数本が刺さっている。
傷を負いながらもキッカとセヴィナの防御魔法がなんとか展開された。
しかし、その場の誰しもが多くの微細な傷を受けてしまった。
セヴィナが改めて<堅固烈破の呪文>を紡ぐ。
妖魔の管からまたしても針が噴出したが、今回は完全にシャットアウトした。
「ぐあ!」
皆に刺さった針がうねうねと蠢めき、一本一本が耳障りなキィキィという声を発した。
「やば!」
マコが慌てて痛みをこらえながら、腰の鞄から小瓶を出して刺さった生きた針に中の液体を浴びせた。
キュアゥ…
葉が枯れるように針は茶色に変色してマコの肌から抜け落ちた。
彼女はまず自分で即枯剤を浴び、トーティアムへは頭からそれをかけた。
皆へ小瓶を分け与え、足りない分を即席で調合する。
妖魔の生き針攻撃は止んでいた。
手分けして生き針を始末し、キッカの<再生復力の法>が施された。
キチキチキチ……
動くたびに軋むような、こすれた音がする。
どうにも不快なその音が彼女達に鳥肌を立たせた。
「行こうか」
厳しい視線を敵に向けたトーティアムの確固とした声で、仲間達がしゃきっとした。
「戦闘再開!」
生き生きとしたアランの瞳が輝く。
彼女とピカリアが飛び立つ。
「うく……」
とカリュが胸を押さえてうずくまった。
「!」
トーティアムが駆け寄る。
鎧で詰まった両胸の谷間に彼の目が釘付けになった。
鎧をゆるめると両の谷間に小さな血痕がある。
「まずい!」
マコを呼ぶ。
その間に皆は敵との交戦を再開していた。
「もぐりこまれてるか?」
「と思うわぁ…」
「どうしたらいい?」
キッカを呼んでマコが耳打ちした。
「え!無理!」
「でもやって」
数秒ためらったキッカだったが、意を決したように呪文を呟きだした。
「おい、それは…」
「これっきゃないの!」
キッカの呪文は体力を削る呪文。
ただでさえ生き針攻撃で弱っている上に、それに体内へ侵入された彼女に残された体力は少ない。
「この生き針…刺さったものの生気を餌にしてるから…」
マコが額に汗を浮かべている。
トーティアムがカリュの上半身の鎧を外し、自分の防具も脱いだ。
生き針の進入したであろう胸の谷間の痕跡に、自分の裸の胸を彼女を抱きしめることで近づけた。
「う……トーティ…ダメ…」
カリュが力なくうめき彼の腕をつかんで引き離そうとした。
「許せ」
彼はカリュの唇に自分の唇を押し付けた。
舌で無理やり硬く閉じた彼女の唇と歯をこじあける。
そのまま彼は自分の舌を彼女の舌の上に重ね、唾液ごと口腔内の息を吸った。
マコもキッカも彼の壮絶な行為を涙目で見つめた。
ずるり…と彼の舌に何かが這い上がり、そのまま這い伝ってトーティアムの口に入ってきた。
瞬間、彼は唇を離して思い切り硬く歯を食いしばった。
ぐちゃあ…
彼の歯で食いちぎられた生き針は、苦い体液を彼の口の中に流して息絶えた。
ぺっと体液ごと死骸を吐き出した彼は、カリュの鎧を着せるとそのまま防具も着ずに立ち上がった。
「トーティー、大丈夫?」
心配そうに見上げるマコとキッカを見もせずに、一気に敵にむかって駆け出した。
「トーティ……」
カリュが目を開け、その朧な後姿を追いかけた。
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「救われたわ、貴方には何度も何度も…」
「俺もさ」
サク
霜を踏むかすかな音
ふたりは微動だにしなかった。感じる気配は懐かしいものだったから…
【魔獣剣士カリュ】宝具<ドラゴングラブ>と<斬獣刀>の所持者
【炎舞剣士アラン】宝具<赤華剣>の所持者
【星弓術士ホタル】宝具<蒼弓>の所持者
【錬金術師マコ】 宝具<万能のベルト>の所持者
【白魔術師キッカ】<世界を御する杖>と宝具<天空の髪飾り>の所持者
【白魔導師ママン・セヴィナ】<世界を統べる杖>と宝具<大地のブローチ>を持つ。
【蒼鷹闘士シンリィ】は宝具<夢幻の鎌>という変幻・伸縮自在の大型の鎌を使う。
【軽騎士レキーサ】召還獣<一角>に騎乗し、宝具<ライジングランス>を操る。
【紅烈剣士アプラナ】はアランと姉妹弟子。俊鋭な剣使いのアランに対して豪快な太刀筋で、宝具<炎烈剣>を所持。
【魔龍剣士ピカリア】ミーシャと彼の間にできた娘。宝具<ソウルソード>で敵を薙ぎ払う。
強く美しい彼女たちの魂を感じた。
そして…このうえなく高貴な精神の輝き……
「ヒナ女王までお忍びですかな?」
トーティアムは悪戯っぽく笑った。ヒナ女王も肩をすくめてそれに応じた。
「始まったようです…」
天空の漆黒の夜空に、赤、白、紫、橙、青の惑星とキラキラと輝く金色の星が一直線に見えた。
【了】
とても思い入れの強い作品です。
興味出ましたら、長いですが本編を(笑)