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05 マコ

トーティアムとマコが5日がかりで動力系、基本性能のチェック、外部装甲の損傷の有無を丹念に調べた。

その間、アランとキッカはマウロを連れて麓の街まで必要物資を揃えに行った。


「どうやらこれでなんとか飛びそうだな」

「そうだねぇ~~♪」


錬金術を心得るマコは機械いじりは得意分野に属した。


「外部の損傷もないし、健康体だな」


彼はぽんぽんと飛行ユニットの胴体を叩いた。


「動力系統も新品に近かったし、この子は働くよ~~」

「ああ」

「でもねぇ……」

「ん?」

「やっぱ、ちょっと抵抗あるんだよねぇ」

「生き物の腹の中に入るって感覚かな?」

「そ~なのぉ~」

「別に有機体を摂取するわけではないから、食われることはないぞ」

「それわぁ、わかってるんだけどぉ…」

「まぁ、概念的には機械の移動艇とそんなに大きな違いはないんだけどな…」


微苦笑する彼に、ちろりと舌先を出し茶目っ気たっぷりに彼女はウィンクして見せた。


「さて、ブリッジへ行くか」

「ほ~~い」


2人はミーシャに乗り込み、ブリッジへ向かった。

中型といっても一人乗りの高速移動艇を2機搭載し、居住空間も二十室程度は確保できる規模である。

六~七階建ての建物を横倒しにした位の全長と高さがあり、全体的なイメージは楕円球状の曲線を描いている。

船底がやや平坦で、離着陸時は重力場を作る。

定期的に各世界間を運行している飛行ユニットはミーシャの約五倍程の大きさか…


「航路はきっちりインプットしたか?」

「おっけ~~だよ」

「定期船とニアミスしないように気をつけてくれよ」

「任せなさいっ♪」


眼鏡を右手の中指で押し上げると、レンズがキラリと光った。



アランからミーシャの通信端末に連絡が入った。


『今日は夜になっちゃったから、明日こっちを出るね』

「わかった。帰りは明日の夕方位かな?」

『うん。そんな感じだと思う』

「了解した。気をつけてな」

『ありがと♪』


通信を終え振り返ると、マコはまだブリッジの操舵システムをいじっている。


「こっちもそろそろ終了しようか?」

「ん~~~、もうちょっち待ってねぇ」


好奇心の塊であるマコは、自分で飛行ユニットを触れる初めての機会に夢中になっている。

トーティアムは調整やチェックにかなり時間が必要と考えていたが、案に相違してマコの奮闘で間もなく発進すら出来るだろう。


「じゃあ、メシを作っとくな」

「お願いしま~す」

「へいへい」



凝りだしたらきりのないマコを、ミーシャから引き剥がして食事を摂る。

食べることすらもどかしげに超特急で咀嚼し、飲み込んで、彼女は再びミーシャのブリッジへ走っていった。

いい加減立ってからトーティアムがその場へ顔を出すと、マコは操舵システムのパネルに突っ伏して……


「ははは…寝てる…無理もないか。ここ数日、夢中で作業してたからな」


マコを抱きかかえ、手近の空き部屋のベッドに彼女を寝かせた。


(俺も少し休むか…)


ミーシャのハッチを全て閉鎖し、侵入探知システムと非常排撃システムをオンにして、彼もマコの寝ている隣の部屋で横になった。


(ベッドの上も久しぶりだな)


そう思いつつ彼も引きずり込まれるように眠りに落ちていった……



妙な震動と自分を呼ぶ声で目を覚ます。

マコの顔がどアップで視界を占めていた。


「わっ!」

「トーティ、変なのよぉ~~~」

「この震動は?」

「わからないのぉ」

「ともかくブリッジへ行こう!」


2人は揺れる船内をかろうじて踏みとどまりつつ、ブリッジへ入った。

警報が鳴っている。


「そっちを見てくれ」


てっきり敵襲と思ったトーティアムだったが、それらしい形跡がない。

一方、マコの方は船体の主動力伝達経路上に異常を発見していた。


「これだっ!」

「なんだ?」

「見てちょうだい」


船内各部の内部構造を映し出しているモニター。

マコの指差した箇所が赤く点灯している。


「故障か?」

「ちょっと違うかも」


ミーシャ全体が身悶えるように揺れた。


「う~~ん……病気?」


マコが小首をかしげ、トーティアムが今一度モニターを確認する。


「近いが……なにか異物がいるようだな」

「敵?」

「いや……それなら排撃システムが作動している。どこに侵入しても探知される」

「ってことは?」

「寄生虫みたいなものかもしれないな…」

「寄生虫っ!!!」

「一応…生き物だしな…マコ、異物の位置の特定してくれ」


マコがパネルを操作すると、船底の動力炉近くの伝達経路…ひとで言う心臓直下の大動脈あたりに何かがある。


「俺が行こう」


トーティアムは霊笛銃の銃身を短いものに換え、ブリッジを後にした。



「この辺か?」


通信が入る。


『うんうん。もうちょっと先にメンテナンス用通路へ侵入できるハッチがあるよ』

「了解」


彼はマコの指示に従って、ハッチからメンテナンス用通路へもぐりこんだ。

霊笛銃を握る手にじんわりと汗がにじむ。


『そこ左にまがったら、すぐにいる!気をつけてぇ』

「むっ」


曲がり角に右肩を付け、ちらりと顔半分だして様子を見た。


(いたっ)


虫に近いが、どうも紫世界の蟲妖らしい。

ひとと同じ程度の大きさは大型の部類になる。


(まったく…どこで拾ったんだか)


短い銃身では物理攻撃しかできない。

彼は霊気弾を打ち込むための長めの銃身へ切り替える…


『来た!』

「!!」


一瞬の油断だった。

蟲妖はかすかな彼の気配を辿り、襲いかかって来た。

咄嗟に転がって初撃をかわし、短く呪文を呟くと腰に下げた皮袋へ右手をつっこんだ。

二撃目を身をひねって避けたつもりだったが、左腕に鋭い痛みを受け霊笛銃を取り落としてしまった。

だが彼は躊躇せず皮袋から出した右手でつぶてを弾き撃った。

トーティアムの霊気をまとったつぶては蟲妖に命中!

耳障りな金切り声が通路に響く。

落ちた霊笛銃に気をとられれば、攻撃をかわすことは難しい。

彼はつぶてを連続して、今は両手から撃ち出していた。


(やばいな…残り少ない……)


効果的な一撃を狙い始めたことで、つぶての飛来する間が空いた。

今度はじわじわと蟲妖が前進をはじめ、トーティアムを圧迫する。


(これで終了っ!!)


渾身の一撃をつぶてに乗せて、敵の眉間へ叩き込んだ!


「トーティ!跳んで!!」


背後からの声で彼は反射的に怯んだ蟲妖をすり抜けるように跳んだ。

ごろりと前転しつつ霊笛銃を手にし、起き上がる。

その直前に爆発音が通路に響く。


「いっけぇ~~!!」


霊笛銃から発射された霊気弾が敵に撃ちこまれると、蟲妖は粉々に消し飛んだ。

駆け寄るマコ。


「怪我しちゃった?」

「大したことはない」


と強がってみても、左腕の傷から血がにじみ、床にしたたり落ちた。


「そこ座って」


いつもと全く違う口調のマコに面食らい、彼は素直にその場に座り込んだ。

マコは左の袖を引きちぎり、腰の小瓶を開けて傷口に流す。


「うっく…」

「沁みる…よねぇ…ちょっと我慢してねぇ」


てきぱきと手当てをするマコ。

眼鏡の奥の瞳は必死な光があった。


「これでとりあえずはおっけぇ~~♪」


いつもの彼女に戻ると立ち上がって彼を見下ろした。


「ここにいてね」


そういい置いて蟲妖が巣食っていた伝達経路の補修に向かった。


「どんなだ?」

「うん…酷くはないから、もうちょっと我慢してて」

「ああ」


と返事をしたが、腕の傷が熱くなり、それが全身へ広がり…意識が遠退いた。



ずっと身体が熱く、夢は忌まわしい記憶の羅列……

ふとそれが薄らぎ、ふわりと和らぎに包まれる。

唇に柔らかく温かな感触。

ほろ苦い液体と小さな塊が口中に注ぎ込まれ、たまらず飲み下した。




【続】

マコちゃんは、小生、一番のお気に入りキャラなんだよね(笑)


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