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5.新婚生活

 ブラッド様は一週間ほど仕事を休み私と生活を共にした。


 雨上がりでぬかるんだ庭を歩くときには、ブラッド様は私を抱き上げた。

 私の食事は、かならずメイドに毒見をさせる。

 眠るときは……私が眠りにつくまで手を握って隣で私の顔を見つめている。

 気が付くと、いつも私の隣にはブラッド様がいた。


 蜜月を終えると、兵士がブラッド様を呼びに来た。


「ブラッド騎士団長、明日より仕事にお戻りください」

「……分かっている」

 ブラッド様から殺気が漂っている。怖い。


「ローラ、私は仕事で王宮に行かなくてはならない。一人でも大丈夫か?」


「ご心配いりません、ブラッド」

「留守中、何かあったら執事のハロルドにすぐ言うんだぞ? 分かったか?」

「はい、ブラッド。……心配し過ぎですよ」

 私が笑うと、ブラッド様は私を強く抱きしめた。


「私は愛するものを、もうなくしたくないんだ」

「ブラッド?」

「……いや、なんでもない」


 ブラッド様は立ち上がり、執事を見て言った。

「明日から頼んだぞ、ハロルド」

「はい、ブラッド様」


***


「ハロルドさん、ブラッドは……前に愛する人をなくしているの?」

「私の口からは……」

「言ってちょうだい。私には知る権利があると思うわ」

 ハロルドは黙って窓から外を見ながら言った。

「これは独り言です。ブラッド様は幼少期に妹様を病気で亡くしておられます。妹様を亡くされたころの落ち込みようは思い出すのもつらいほどでした。それ以来、誰かを愛することにおびえていらっしゃったようです。騎士見習のころに出会った少女に心を奪われたときも、不安にふるえていらっしゃいました」


 ハロルドの言葉を聞き、私は胸が締め付けられた。


 ブラッド様の帰りは遅かった。日が変わる頃にブラッド様を出迎えると、ブラッド様は表情を曇らせた。

「まだ起きていたのか?」

「お疲れさまでした。お食事は?」

「済ませてきた」


 ブラッド様は私を抱きしめると耳元でささやいた。

「私のために無理はしないでくれ。君の寝顔を見られれば、それで十分だ」

「でもブラッド、私もあなたに会いたかったの」

 ブラッド様の顔は戸惑いを浮かべた後、柔らかく微笑みを浮かべた。

「困ったな、嬉しく思ってしまう自分がいる」


「今日はお城の警備は何も問題なかったの?」

「ああ、大丈夫だ。兵士たちの訓練も順調だ」

 ブラッド様が汗を流し着替えを済ませるまで、私は居間で待っていた。


 私に気づいたブラッド様は急ぎ足で私に近づいた。

「先に寝ていないのか? もう真夜中をすぎているのだぞ?」

「……一緒に眠ろうと思って。夜はブラッドと一緒にいられるんだもの」

 私が頬を染めてブラッド様に言うと、ブラッド様は私から目をそらした。

「……眠れなくなるじゃないか」


 ブラッド様は小さな声でつぶやいた。


***


 ブラッド様は水曜日と木曜日は早い時間に帰ってきて、一緒に夕食がとれた。

 副団長と調整して、休みをとっているらしい。

「副団長ってどんな方なんですか?」

「まじめで気が利く。いい奴だ」

「そうですか」

 騎士団にも信頼できるいい部下がいるようで私は少しほっとした。


「興味があるのか?」

 ブラッド様の方眉がひくり、と動いた。

「いえ、あの……ブラッド様の働く姿を見てみたいな、と思いまして」

「ふむ……。気持ちは嬉しいが騎士団の仕事は危険なこともある。だが、そう言ってもらえるなら……騎士団の訓練の見学くらいなら可能かもしれない。明日、副団長と相談してみよう」

「……ありがとうございます」


 私は憧れていた騎士団の訓練を間近で見られるかもしれないと思うと、心臓がドキドキした。

「……私以外の男性を近づけたくはないのだが……」

「え?」

「なんでもない。もう寝よう」


 私はブラッド様について、ブラッド様の寝室に入った。

 ブラッド様が先にベッドに入る。私もブラッド様の隣にもぐりこんだ。

「……温かい」

「君は……いい香りがする」

「ブラッド様も……」

 ブラッド様の腕の重みを体に感じながら、私は眠りについた。


「まったく、こちらの身にもなってほしいものだ……」

 遠のく意識の中、ブラッド様のつぶやきが聞こえた気がした。


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