29.帰宅
ガタン、という振動で目を覚ました。
「あら、いつの間にか私も眠っていたのね」
ブラッドが寄りかかっている左腕はじーんとしびれている。
馬車の窓から外を見ると、もう屋敷の玄関前だった。
「ブラッド、起きて。もう家に着いたわ」
「……ん」
ブラッド様は右手の親指と人差し指で目頭を押さえると、ふう、と息を吐いた。
「すまない、随分寝ていたようだ」
「疲れたのね、ブラッド」
私たちは馬車を降り、屋敷に入った。
「ただいま戻りました」
「戻った」
「わん!」
ピピがブラッドに駆け寄る。ブラッドがとまどっていると、ハロルドが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ブラッド様、ローラ様。すぐに昼食を準備いたしましょうか?」
ブラッドは首を横に振った。
「私は部屋で休もうと思う。ローラ、君はどうする?」
「私も部屋で休みたいです。でも、すこしおなかもすいているかしら」
「それでは、軽食をお部屋にお持ちいたしましょうか?」
「お願いします。ブラッドは?」
「私は軽食もいらない。何か食べたくなったら下に降りてくる」
「承りました。ごゆっくりお休みください」
ブラッドは頷いて自室に行った。
私も自分の部屋に戻って、書き物机の椅子に座る。
「疲れたわね……」
椅子に座ったまま伸びをしたら、あくびが出た。
ドアがノックされた。「どうぞ」
「軽食をお持ちしました」
従僕がサンドイッチと紅茶を運んできてくれた。
「ありがとう」
軽食を机の上に置くと、従僕は部屋を出て行った。
「いただきます」
サンドイッチを味わいながら、紅茶を一口飲む。
「美味しい」
体の芯から疲れがあふれ出すのを感じながら、ゆっくりと食事を終える。
「さすがに……眠いわね」
私は寝間着に着替え、ベッドにもぐりこんだ。
***
目を覚ますと、辺りはもう暗かった。
「まあ、私どれくらい眠っていたのかしら?」
慌てて部屋着に着替えると、階下の居間に向かった。
「ローラ! ずいぶん疲れていたのだね。もう大丈夫か?」
ソファに座って紅茶を飲んでいたブラッドが立ち上がった。
「ええ。私は大丈夫。ごめんなさい、寝過ごしてしまったわ」
ブラッドは優しく微笑んで言った。
「私も先ほど起きたところだ」
ハロルドがやってきて、私たちに言った。
「ブラッド様、ローラ様、夕食の準備が整いました」
「ありがとう。さあ、行こうかローラ」
ブラッドは私に腕をさしだした。私がブラッドの腕をとると、ブラッドは食堂に向かった。
夕食をとりはじめ、ブラッドとたわいない話をしていた。ふと、私は思いついてブラッドに聞いた。
「ブラッド、お義母様に言われたからというわけでは無いのだけれど……そろそろ子どものことを考えてもいいのではないかしら?」
「……!?」
ブラッドが目を丸くして私を見つめている。
「私、子どものいる生活も素敵だと思って」
「……君がそういうのなら……だけど子どもというのは……」
「私だって、子どもがどうやって生まれるかくらい知っているわ」
「あ、ああ」
「ブラッドは、子どもが欲しくないの?」
ブラッドは赤面して俯いた後、私を見つめて言った。
「その……いいのか? ローラ?」
「ええ」
私もはにかみながら、ブラッドを見つめた。
食事を終え、お風呂をそれぞれ済ませると、私たちはブラッドの部屋で眠りについた。




