28.朝食
「あら、ブラッド。早いわね」
「おはようございます。母上」
食堂では、ブラッドがコーヒーを飲みながらぼんやりとしていた。
「まあ、随分目があかいみたいだけど……昨日は頑張ったのね」
「……」
ブラッドは何も言わず、もう一口コーヒーを飲んだ。
「おはようございます。……まあ、ブラッド、先に来ていたのね」
「おはよう、ローラ。部屋に戻ったら眠ってしまいそうで」
「そう? 大丈夫? ブラッド?」
私はブラッドの顔を覗き込んだ。すこし顔色が良くないような気がする。
「おはよう。もうみんな揃っているね」
お義父様が食堂に入ってきた。
「おはようございます、父上」
「おはようございます、お義父様」
「おはよう、あなた」
お義父様は、お義母様にキスをすると自分の席に着いた。
野菜のスープと蒸し鶏、玉子焼きとサラダがそれぞれの席の前に並べられた。
従僕が席を回り、ベーコンを配っている。
ブラッド様は、ベーコンは要らないと右手を上げ断っていた。
いつもならたくさん食べるのに、やっぱり調子が悪いのかもしれない。
食卓の準備が整うと食前の祈りを捧げ、それぞれ食事を食べ始める。
お義母様がブラッド様に微笑みかけて、言葉を投げた。
「ブラッド、はやく孫に会いたいわ。いつ会えるかしら?」
「それは、神だけが知っていることです」
ブラッド様は右眉を上げて、不快そうな表情で答えた。
「ブラッド? 調子が悪いなら……無理をしないで」
「大丈夫。すこし眠いだけだ」
ブラッド様は淡々と食べ物を口に運び、食事を続けている。
「ブラッド、今日は夕方までいるのよね?」
お義母様が尋ねるとブラッド様は首を振ってから答えた。
「朝食が終わったら、支度が終わり次第帰ります。明日も仕事があるので」
「まあ、そうなの……」
お義母さまは少し寂しそうにため息をつき、スープを飲んだ。
「大切な仕事だからな。良く勤めなさい」
「はい、父上」
ブラッド様が私の方を向いた。
「ローラ、あわただしくて済まない」
ブラッド様は私だけに聞こえるくらいの小さな声で言った。
「いいえ。ブラッド、無理しないでね」
「……ありがとう」
食事が終わると私とブラッドは帰り支度を始めた。
従僕に言って、馬車に荷物を積んでもらい、別れの挨拶をし、ブラッドのご実家を出る。
「お義母様もお義父様も、ブラッドに会えて嬉しそうだったわ」
「……」
「ブラッド?」
ブラッド様は目を閉じて、私にもたれかかっている。
「やっぱり夜、眠れなかったのかしら?」
私は胸で組んでいるブラッド様の手に、自分の右手を重ねた。




