27.朝
「ふぁ……」
いつの間にか、よく寝ていた。
「おはよう、ブラッド」
「おはよう、ローラ」
ブラッド様を見ると、その目は真っ赤だ。
「まあ! どうしたのブラッド!? 眠れなかったの? ……もしかして、私、いびきをかいていたの?」
夫が眠れないくらいのいびきをかく妻なんて……! と私が青ざめるとブラッド様は目を丸くしていた。
「いびき? そんなことはないよ。よく眠れた」
横になっているブラッド様は右手で頭を支えたまま、そう言って微笑むと私の頬を優しくなでた。
「でも、そんなに赤い目をして……本当は眠れなかったのでしょう?」
眉を顰める私に、ブラッド様はかるく息をついて言う。
「まあ、大したことではない」
ブラッド様はベッドから出るとローブを羽織った。
「ブラッド、もう少し寝ていては?」
「いや、もう大丈夫だ」
ブラッド様は赤い目を細めて、大したことは無いという代わりに右手を軽く振った。
「そう……?」
「……少し散歩をしてくる」
「まだ、日が昇ったばかりよ?」
「……ローラ、君は寝ていていい」
ブラッド様は優しく言うと、着替えを持って衝立の向こうへ行った。
「少し頭を冷やさなくては……」
ブラッド様のつぶやきが聞こえ、思わず問いかけてしまう。
「何か言った? ブラッド?」
「何でもない」
ブラッド様は紺色のジャケットとパンツに着替えると、ベッドに近づき、私の頬にキスをした。
「もう少し休むと良い。おやすみ、ローラ」
「ブラッド」
私はブラッドの冷たい手を取り、指先に口づけた。
ブラッドは、はにかむように笑うと部屋を出て行った。
「変なブラッド」
私はベッドの中で、閉じられたドアをじっと見ていた。




