26.夜
「お飲み物をお持ちいたしました。お待たせいたしました」
「ありがとう」
ブラッド様はメイドからブランデーとホットミルクを受け取るとベッドわきの書き物机の上に置いた。
「ローラ、熱いから気を付けて」
「はい。いただきます」
私はホットミルクをとり、一口飲んだ。緊張で体がガチガチになっていたことに気づき、ため息をつく。
ブラッド様はそんな様子の私を見て苦笑すると、ブランデーを一口あおった。
「まったく、母上も仕方のない人だ」
私は同意していいものか分からず、もう一口ホットミルクを飲んで、残りを書き物机の上に置いた。
「少し眠くなりました」
私はベッドに入った。
ブラッド様はソファに移動して残りのブランデーをあじわっている。
「ブラッド、まだ眠らないの?」
「私はソファで……」
「だめよ、風邪をひいてしまうわ」
私はベッドの上掛けを開けて、ブラッドを見つめた。
「……いいのか?」
「別に、眠るだけでしょう?」
「ああ、まあ、そうだが……」
ブラッド様は顔が少し赤かった。酔ったのかしら?
もぞもぞとベッドに入ったブラッドは端のほうでじっとしている。
「ブラッド、そんなところにいたらベッドから落ちてしまうわ」
「あ、ああ」
ブラッドがこちらに近づく。ブラッドは私に背中を向けたまま、自分に言い聞かせるように言った。
「大丈夫、ローラには指一本触れないと誓おう」
「……はい?」
大きな背中と艶やかな黒い髪を見て、私は吹き出してしまった。
「ローラ? 何を笑っている?」
「だって……こんなに大きなブラッドが背を丸めて縮こまっているんですもの。自分の実家だというのに」
「だからこそだ。きっと今も母上が耳をそばだてているに違いない」
「……それは……あるかも」
面白がっていた気持ちがすっと冷めた。
「ブラッド、そんな姿勢で体が痛くならない?」
「……大丈夫だ」
「私、何もしないからそんなに緊張しなくても大丈夫よ?」
「……」
ブラッド様がベッドの中で私のほうを向いた。
大きく筋張った手が私の頬を撫でようとして、止まった。
ブラッド様は手を枕元に置き、優しく微笑んだ。
「おやすみ、ローラ」
「おやすみなさい、ブラッド」
私はブラッド様の手を取り指先に口づけをして目を閉じた。
とろとろとしたまどろみの中、かすかにブラッド様のため息が聞こえた気がした。




