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23.招待状

「それでは行ってくる。帰りは遅くなるから、先に寝ていてくれ」

「わかりました。行ってらっしゃい、ブラッド」

 ブラッド様は私の手の甲にキスをして、名残惜しそうに私を見つめてから、馬に乗って家を出て行った。ブラッド様がお城に行くのは毎日のことだけれど、私と別れる時、ブラッド様は毎回とても寂しそうな表情を浮かべる。


「さあ、ピピ。お散歩に行く?」

 ピピは上機嫌で中庭に駆けて行った。

「待って、ピピ」


 私がピピと中庭を散歩していると、ハロルドがやってきた。

「ローラ様、お手紙が届いております」

「私に?」

 私は手紙を受け取り、差出人を見て驚いた。


「クレア・クレイズ様!? ブラッドのお母様だわ!」

 慌てて封筒を開け、便箋を取り出す。

<週末、我が家の夕食にお招きしてもよろしいでしょうか? ブラッドと一緒に是非いらしてください。 クレア・クレイズ>


「まあ、急にどうしたのかしら?」

 私はとまどいながらもハロルドを呼んだ。

「ハロルド、ブラッドのご両親の家に呼ばれたの。週末の夕食を一緒に過ごしたいそうなの。ブラッドが帰ってきてから細かいことを決めてお返事をするつもりだけれど……。食事会に行く準備をお願いできるかしら?」

「かしこまりました」


 ピピが私の足元に駆け寄ってきた。私はハロルドに付け加えるように言った。

「留守中、ピピのお世話をおねがいできる?」

「……かしこまりました」

 ハロルドがピピを見ると、ピピは首を傾げた。


「ピピ、私とブラッドがいなくてもお利口にしていてね」

「わん」

 ピピを連れて、中庭から家の中に入る。


 私は落ち着かない気持ちでブラッド様の帰りを待つことになった。


***

 ブラッド様の帰りを待つと決めていたから、夕食もブラッド様と食べようと思い、食事の時間をずらした。実を言うと一人の食事は、いつも少し寂しい。


「ただいま」

「おかえりなさい、ブラッド」

 私がハロルドの後ろから現れると、ブラッド様は目を丸くした。


「まだ起きていたのか? 先に寝るように言っていたはずだが?」

「ちょっと、相談したいことがあって。ブラッドの帰りを待っていたの」

「そうか? 何があった?」

「これなんだけど」

 そう言って私はブラッドのお母様から頂いた手紙をブラッドに渡した。


「……ふむ」

「ねえ、何か言われるのかしら?」

 ブラッド様は手紙を読み終えると、私の頬を撫で、微笑んだ。

「心配することは無いだろう。結婚して二か月だ。私たちの様子が知りたいのではないかな」

「そう言えば、私からお母様にお手紙も出していないわ。気遣いが足りなかったかしら」

 肩を落とした私の顎を、ブラッド様は指先でくいっとあげた。


「ローラ、君は何も悪いことをしていない。母上はひさしぶりに私たちに会いたいだけだろう。夕食会に参加すると返事しておいてくれるか?」

「はい」

 いつものことだけれど、ブラッド様は距離が近い。どぎまぎしていると、ブラッド様は私のおでこにキスをしてから、辺りを見回した。

「土産に父上の好きなワインを持っていこう。ハロルド」

「はい、旦那様」


「父上の好きなワインを二、三本、夕食会に間に合うように両親の屋敷に届けておいてくれ」

「かしこまりました」


「食事会、緊張します」

 その時、私のお腹がくう、となった。

「ローラ! まさか、まだ食事をしていないのか!?」

 ブラッド様が青ざめた顔で私に尋ねる。


「あの……ブラッドと一緒の方が美味しいから……」

「……なんて可愛らしいことを言うんだ……」

 ブラッド様は震える両手を広げ、私を抱きしめた。

「ハロルド、すぐに食事の準備を!! スープも肉もあるだけ全部持ってきてくれ!!」

「ブラッド、私、そんなに食べられないわ? 貴方と私の二人分あれば十分よ」


 私はクスクス笑いながら、ブラッド様から外套を脱がせ、ハロルドに渡した。


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