22.手料理
「ピピ、ダメよ。ここはブラッドの部屋なのよ?」
「くぅん」
ピピは前足でブラッドの部屋の扉を叩いている。
「しょうがないわね……そんなにブラッドに会いたいの?」
「わん」
私はため息をついて、ブラッド様の部屋の扉をノックした。
ドアが開いた。
「どうした? ローラ? ……!?」
「わんっ」
ピピがブラッド様に飛びついた。
「ピピ! ダメよ!」
「!!」
ブラッド様の足にじゃれつくピピを、私は慌てて抱き上げた。
「ごめんなさい、ブラッド」
眉間にしわを寄せ、ブラッド様がピピを叱る。
「私に抱き着いていいのはローラだけだ。わかったか? 犬」
真剣な顔で言うブラッド様に、私は思わず吹き出してしまった。
「ブラッド、そろそろ食事の時間だけど……ピピも食堂でご飯を食べさせてもいいかしら?」
「……それは……」
腕を組み渋い顔をしているブラッド様に、私は上目遣いでおねだりをする。
「だめかしら? ブラッド。ピピも一緒に食べたほうが楽しいと思うの」
ブラッド様は私の目を見て、ため息をついた。
「ローラが望むなら……仕方ない」
「ありがとう! ブラッド!」
私はブラッド様の頬にキスをしてから、ピピを抱いたまま食堂に向かった。
食堂の大きな机に、ブラッド様と私の食事が並べられていく。
ピピは、私の足元で食事をさせることにした。腰を曲げて、小鍋からピピ用の食器に肉と野菜のスープを入れていると、食卓の席に着いたブラッド様が首を傾げた。
「何をやっているんだ?」
「ピピに私の作ったスープをあげているの」
ブラッド様の眉がぴくりと上がった。
「何!? それを犬に独り占めさせるわけにはいかない! 私もいただこう!」
私は驚いて立ち上がった。
「え? でも、ピピ用に作ったから……塩もコショウも入っていないのよ?」
ブラッド様は憮然とした表情で言う。
「かまわない。ローラの手作りの料理なら、なんでも美味いにきまっている」
私はとまどいながらも、従僕に言って大きなスプーンをもらい、ブラッド様のスープ皿に野菜と肉のスープを取り分けた。
「本当に、美味しくないと思うわよ?」
「そんなことはない」
ブラッド様は食事を始めると、最初に私の作った味付けをしていないスープを飲んだ。
「うん、よく煮込まれている。さすがローラだ」
ブラッド様の満足そうな顔を見て、私は眉を八の字にした。
「私の作ったものが食べたいのなら言ってくれればいいのに。ちゃんとブラッドのために作るから」
私がつぶやくように言うと、ブラッド様はすました表情で答えた。
「犬は何も言わないのにローラに料理を作ってもらっているが?」
「ピピはしゃべれないもの」
ブラッド様はピピのことを犬と呼ぶ。今はまだピピと打ち解けていないみたい。
「犬のくせにローラの愛情を受けるとは贅沢な奴だ」
ブラッド様は方眉を上げ、ピピをひと睨みしてからスープを飲み干した。




