21.モーリスさんの送りもの
「おはようございます!!」
朝食を終えブラッド様とのんびりしていると、玄関のほうから元気な声が聞こえた。
「あら? 誰かしら?」
「……あの能天気な声は……」
ブラッド様は舌打ちをして玄関に向かった。私もブラッド様の後について行く。
「やあ、ハロルドさん。この前はお世話になりました」
「お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫ですよ。あ! ブラッド様! おはようございます!」
ブラッド様は眉間に深いしわを寄せて、モーリスさんを見た。
「やあ、ローラ様。今日も可愛らしい」
モーリスさんが私に右手を差し出した。ブラッド様さっと手を出し、モーリスさんの手を握りしめた。ブラッド様がモーリスさんを睨みつける。
「私のローラに汚い手を近づけるな」
「痛っ……。ひどいなぁ」
モーリスさんはきつく握られた手を慌てて引っ込めると、足元に置いていた大き目のバスケットを持ち上げた。
「今日はローラ様にプレゼントを持ってきたんですよ」
「え? 私に?」
ブラッド様から殺気が漂っている。
私はおそるおそる、モーリスさんから差し出されたバスケットを受け取ろうとした。
「待て、ローラ。何が入っているか分からない。私が受け取ろう」
ブラッド様がバスケットを受けとり、慎重にふたをあけると小さな舌がブラッド様の指先を舐めた。
「!? なっ!?」
ブラッド様がバスケットをモーリスさんに返す。モーリスさんがバスケットから顔をのぞかせている黒い子犬に話しかけた。
「ピピ、新しいお家だよ」
「ピピ? それがこの子のお名前?」
私がモーリスさんに尋ねると、モーリスさんは笑顔で頷いた。
「ブラッド様が城にいる間、ローラ様は寂しいんじゃないかと思って。ちょうど姉の家で子犬が産まれたからもらってきたんです。耳をピピっと動かすから、名前はピピにしました」
「可愛い……」
私がピピを見つめていると、モーリスさんはバスケットを床に置き、ピピをバスケットから取り出した。
「抱っこしてみます? 人懐こい子だから、大丈夫だと思いますよ」
私はおっかなびっくり、ピピを受け取るとやさしく抱いた。
「あったかい……可愛い……」
私がピピに頬ずりすると、ブラッド様がピピを睨んだ。
ピピは私の鼻を舐めた後、ブラッド様を見つめて前足をバタバタと動かした。
「ブラッドも抱いてみませんか?」
「……む」
渋るブラッド様に、私はピピを渡した。
ブラッド様がピピを抱くと、ピピは尻尾をちぎれそうなほど振って、ブラッド様の頬をぺろぺろ舐めた。
「汚い」
「ひどいなあ。可愛いじゃないですか。ブラッド様、ピピに好かれたみたいですね」
モーリスさんは笑顔で言った。
戸惑うブラッド様の様子がおかしくて、私が噴き出すと、ブラッド様は片眉を上げ、ピピを私に返した。
「ローラ、私がいない間、寂しい思いをしていたのか?」
ブラッド様が真剣な顔で私に問いかける。
「少しは……でも、その分帰ってきてくださったときは嬉しいですし……」
腕の中でピピがくぅんと鳴いた。私は思わずピピの頭を撫でる。
「ふむ……。私がローラに寂しい思いをさせているのか……」
ブラッド様が私とピピを見比べて、ため息をついた。
「ローラが喜ぶのなら、仕方がない。その犬をもらい受けよう」
「いいの!?」
「ああ。ただし、犬は犬だ。私より下だ」
ブラッド様がピピを睨みつけたが、ピピは相変わらず尻尾を振って上機嫌だ。
「可愛がってもらうんだぞ、ピピ」
モーリスさんはそう言って屋敷を去って行った。
「家族が増えましたね」
私が言うと、ブラッド様は渋い顔でつぶやいた。
「たかが犬にローラを奪われたくはないが……」




