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19.盗賊団

「ブラッド、大丈夫かしら……」

 ブラッド様が盗賊団を討伐するために出かけてから、ずいぶん時間がたっている。もう外は暗くなり始めていた。


「ハロルド! 怪我の手当てを頼む!」

「ブラッド!?」

 玄関の方から聞こえたブラッド様の声を聞いて、私は血の気が引いた。

 怪我? ブラッド様が!? 私は慌ててブラッド様のもとに向かう。


「ブラッド! 怪我をしたの!? 大丈夫!?」

「ああ、ローラ。怪我をしたのは私ではない。モーリスだ」

「あはは、ちょっとしくじっちゃいました」

 モーリスさんの左腕を縛っている布に血が染みている。


 モーリスさんは「大した怪我じゃないんですよ」と笑った。そして、モーリスさんは言った。

「捕まえた盗賊団は、第三小隊長が城に連れて行きました。ブラッド様が俺の怪我を早く手当てしたほうが良いと言って、ここに連れてきてくれたんです」

 ブラッド様は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「このけだものをローラに近づけたくはないが、私をかばって怪我をしたのだから仕方ない」

「けだものって、ひどいですよ、ブラッド様」

 モーリスがへらへらと笑いながら抗議をしていると、ハロルドが急ぎ足でやってきた。


「モーリス様、こちらへ」

「ハロルドさん、すいません」

 モーリスはハロルドの案内に従って屋敷に入って行った。


 残された私はブラッド様に尋ねた。

「ブラッドは怪我をしていない? 大丈夫?」

「ああ、私は大丈夫だ」

 ブラッド様は優しい笑みを浮かべて私を見つめた。鎧のあちこちについているのは返り血だろうか。


「ブラッドとモーリスさんも、この後は城に行くのですか?」

「そうだ。事後処理がいろいろあるから、今夜は戻れないかもしれない」

「……わかりました。気を付けてね、ブラッド」

 私が不安な気持ちでブラッドを見上げると、ブラッドは私のおでこにキスをした。

「なるべく早く帰る」


「あ、またブラッド様、奥様といちゃついてる!」

 怪我の手当てを終えたモーリスが戻ってきた。

「その口をふさいでやろうか?」

 モーリスさんをぎろりと睨む、ブラッド様の目が怖い。


「ローラ様、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 モーリス様が右手を差し出すと、またブラッドがその手を払った。

「何度言えばわかるんだ? ローラに触ろうとするな!」

「うわ、盗賊団を叩きのめした時より殺気を感じるんですけど!?」

 モーリスは手を引っ込めて、私にウインクした。


「モーリス!! 殺されたいのか!?」

「やだなあ、ブラッド様。そんなに怒らないで下さいよ。それじゃあ、行ってきます」

 モーリスさんとブラッド様が城に向けて屋敷を出て行った。


「モーリスさんとブラッドは仲がいいのかしら」

 私は小さくなっていく二人の後姿を見送った。


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