14.昼食
「ブラッド様、先ほどの方は店長さんですか?」
「ああ、そうだな」
「やっぱりブラッド様ってすごいんですね」
ブラッド様はゆっくり首を横に振った。
「父が時々連れてきてくれた場所だからな、ここは。その名残だ。私がどうこうという話ではない」
ブラッド様はそう言ってシェリーを一口飲んだ。
「この店のソーセージが好きなんだ。君にも気に入ってもらえるといいが」
ブラッド様が私の目を見つめて言った。私はそのオリーブ色の目に吸い込まれそうだと思ってドキドキした。
「サラダでございます」
ウエイターが私たちそれぞれの前にサラダを置いた。
「いただきます」
「召し上がれ」
ブラッド様はサラダを口に運ぶ私をじっと見ている。
私は緊張しながらサラダを味わった。
「美味しい!」
ブラッド様がにっこりと笑った。
「私もいただこう」
ブラッド様もサラダを口に運び、シェリーを飲む。
「良いお天気だし、食事は美味しいし、こういうのも良いですね」
「気に入ってもらえてよかった」
話していると、太くて黒いソーセージと長くて白いソーセージが乗った皿が出された。
「これも美味しそうですね」
「冷めないうちに食べよう」
ナイフで切るとじゅわりと肉汁がにじんだ。一口食べる。
「!! 香草の香りが爽やかですね! お肉の味がしっかりしていて美味しい! 黒い方が濃厚な味ですね! 白い方は繊細な感じです!」
「そうだろう? どちらもそれぞれの良さがあるだろう?」
ブラッド様は嬉しそうに頷いた。
紅茶を飲みながらデザートを食べ、食事が終わった。
「ああ、本当に美味しかった」
「そうだな」
「会計をすませてこよう」
「では、私は先に馬車に戻りますね」
「まて、一人で移動するのは危険だ」
「ブラッド様ったら、心配し過ぎですよ」
請求書にサインをするブラッド様を置いて、私は馬車に向かった。
馬車のすぐ近くに立ってブラッド様を待っていると、若い男性の恰好をした人が近づいてきた。
「……ローラか?」
「はい?」
私は休に名前を呼ばれて驚いて振り返った。
若い男はその手にナイフを握っていた。
「ブラッド様!!」
私は叫んだ。ブラッド様が風のような速さで駆け寄ってくる。
「恨むなら、ブラッドを恨め!」
男は私に向けてナイフを振り上げた。
「やめろ!」
ブラッド様が男の手をつかんだ。ブラッド様はナイフをむしり取る様に奪い、男を組み伏せた。
「貴様、なぜローラを狙った!?」
ブラッド様は男が目深にかぶっていた帽子をとり、その顔を見て、愕然とする。
「ベック公爵夫人……!?」
「くっ……。私も……殺せばいい!! 夫のように!!」
ブラッド様は男性のふりをしていたベック公爵夫人の腕をつかんだまま立たせた。
「そうしよう……。ローラの命を狙うやつは生かしておけない」
ブラッド様がナイフをつかんだ。私はブラッド様の右腕にしがみついて言った。
「駄目です、ブラッド様! 私刑はいけません! 兵士に引き渡しましょう!」
「しかしローラ……」
「私は生きています。怪我もありません。この人を殺せば、ブラッド様の手が汚れてしまいます」
「それくらい構わない」
「ブラッド様!? それでは……私のためにやめてください!!」
ブラッド様は渋々ナイフを捨てると、ベック公爵夫人の腕を縛り馬車にのせた。
「……王宮に向かってくれ」
ブラッド様は馭者にそう言うと、私を馬車にのせ自分も乗った。
三人で王宮に向かう。会話はない。
「復讐も出来ず、生き延びるなど……」
ベック公爵夫人の頬に涙が伝っていた。




