それは冒険譚

「俺が恐ろしいか」

僅かな間接照明に照らされながらも、真っ黒な影か――獣にも見える男が、不意にそう言った。
男の表情は窺い知れない。
そう言われた途端、イシルミーアの中で感情が噴出して、涙が溢れ出した。

「恐ろしいわ。あなたが怖い……」

──伝統的な美しい街並みと豊かな自然に囲まれた小さな国・サラドック公国の公女イシルミーアが17歳になった頃、新興国のヴァシュニル国の国王ベレガディアが突如としてサラドックに訪れた。
人外の存在である彼はサラドックの大公に、ヴァシュニルの属国となるか、イシルミーアを妻として差し出すかを迫る。
イシルミーアは国と国民のため、ひとりヴァシュニルに嫁ぐことを決意したのだった。

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