13 学生生活3(仮想戦場)
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
なろう投稿する第2作目です。
馬車の中で父親のダースが言った。
「ランスロ君は予想どおりだったな。神のギフトを受けている。運命さえうまく切り開くことができれば、ゴード王国だけではなく、世界中の人々が彼の名前を知ることになるだろう。」
「父様の評価はものすごく高いな。もっとも、私の評価も父様に負けないのだがな。1週間後には仮想戦場で試験があるから、楽しみでたまらない。自分の戦いもそうだが、彼がどのように戦うのかこの目で見られるのだからな。」
「そうか、仮想戦場で試験があるのか。アスタロトよ。彼のことをもっともっと試したいのだが。」
「おまかせください。」
「2人とも、ランスロに何かするのは絶対に止めてほしい。」
「もちろんだ。ザラにしかられるから……でも、少しだけならいいだろう。」
「ほんの少しなら、かまわないか。」
仮想戦場で試験が行われる日になった。
寄宿舎の部屋を出る時、同室のフィリップが言った。
「今日の試験、不安で不安でしょうがない。ランスロはどうなの。」
「僕も同じです。不安で押しつぶされそうです。でもそれ以上に、今まで経験したことのない事態の中で、自分がどのように戦うことができるのか知りたいのです。だから楽しみです。」
「ランスロはさすがだなあ。ほんとうに尊敬するよ。」
今日試験を受けることになっている学生達が、士官学校の校庭の指定された場所に集まっていた。
しばらくすると、教授のカンシンが、軍所属の魔法師3人を引き連れてやってきた。
「もうみんな集まっているな。試験を開始する前に、仮想戦場の入口を開けてもらおう。お願いします。」
教授の依頼を受けて、3人の魔法師は詠唱し1点に魔力を集中させ、現在の空間と仮想戦場がある空間との接点を作り出した。
そしてそこに丸い入口の穴が開いた。
「さあ。行こう。」
教授の指示に従い学生達は中に入った。
最後に3人の魔法師達も入り、入口の穴は閉められた。
中に入ると、そこは晴れた日、温かい日差しが照らしている広い草原だった。
「今から1人ずつ、実際の戦場を体験してもらう。名前を呼ばれた者は、あそこの丘の上まで登って突き刺さされている剣を抜くのだ、剣を抜いた途端、君達は戦場の中で、敵と戦うため味方の軍隊を正しく動かし、勝利まで導かなければならない。」
「先生、戦場といってもどれくらいの軍勢が戦うのですか。」
「君達は新入生で、血で血を洗う戦場には全く慣れていない。だから、戦う軍勢は極めて少なく設定されている。」
「具体的に何人ほどですか。」
「そうだなあ。味方5万人、敵5万人、合計10万人の軍勢が戦う場所だ。」
「え――っ。そんなに大軍ですか。負けたらどうなるのですか。」
「指揮官である将軍は相手に殺される。」
「ほんとうじゃないですよね。あくまで仮想空間だから、切られてすぐ現実に戻るとか。」
「仮想空間だが。切られた感覚を覚えてもらえるようにしてある。」
「痛いということですか。」
「数秒間は痛いぞ。ただし剣で切られた激痛だ。」
その後、試験を受けるまでの間、仮想戦場での戦いを観戦しながら待つため魔法結界が張られ、学生達はその中で座って待っていることになった。
説明を聞いた学生達は仰天して、大きな恐怖と不安に押しつぶされそうになっていた。
いよいよ試験が始まり教授が指示した。
「1番目の学生は魔法結界を抜けて、丘の上の剣を引き抜きに行くように。」
教授の指示があったが誰も立ち上がらなかった。
「どうした。」
「気を失っています。」
「後回しにする。次の学生は出るように。」
「すいません。立ち上れません。ゲ――」
その学生は嘔吐していた。
その次の学生もその次の学生も恐怖と不安に押しつぶされ、同様な状態だった。
200人の学生の内、198人が魔法結界の外に出ることすらできなかった。
教授が指示した。
「もう2人だけか――199人目の学生は出るように。」
199人目の学生は違った。
「はい。ザラが行きます。」
彼女は少し不安な様子だったが、勇気を振り絞り魔法結界の外に出て行こうとした。
その時だった。誰かが彼女の腕をつかんでひきとめた。
「ランスロ! 」
「ザラさん。僕が最初に行きます。たぶん。大失敗しますから、ザラさんはその後で――」
「ランスロ、順番を抜かすのは悪いことだと知らないのか。」
「問題ありません。なにしろ、僕は大失敗しますので、その様子を参考にしてください。」
ザラはその後も何か言おうとしたが、言わせないよう、間髪を入れずランスロが言った。
「200番目ランスロが先に行かせていただきます。ザラさんの了解は得ました。」
「わかった。ランスロが先に行け。」
カンシン教授の承認を得るとランスロは魔法結界の外に出た。
仮想戦場の暖かな日の光が、彼の顔を照らした。
(うわっ、良い場所だなあ。もし ほんとうにこんな草原があったら、寝転がっていつまでも空を見上げていたいな。)
彼は草原の丘を登りだした。
最初の印象と違い、登り出すと結構な傾斜があった。
そして頂上までたどり着くと、そこには大きな剣が突き刺してあった。
まだ7歳の彼には大きすぎるような剣だった。
しかしなぜか彼は、その剣は自分に調度良い、自分のためにそこにある剣だと思った。
お読みいただき心から感謝致します。
※更新頻度
土日祝日の午後です。
少しずつ頻度を増やし、計画的に更新できるようにがんばります。
ウィークデーは不定期ですが、夜11時までの時間に更新させていただく場合があります。