2話 始まりの弾丸
4月21日、今日もまた、"いつも"が始まる。
いつもと同じ道をいつもと同じように歩いて行く。
今日もその"いつも"のはずだった。
カーブミラーが一瞬キラッと光った。
すぐさま体を後ろ向きに捻り、迫る凶弾を
視界に入れる。弾の速度は落ちたがそれでも避けきれず弾が頬を掠めた。
弾の軌道から射出された場所を予測して、
射線を切るために物陰に隠れた。
RAYの奴に能力者とバレたのか?だがいつだ?
そんなヘマはしてないはずだ。
バレた原因を予測しようとしていたが、
そんな時間はくれないらしい。
俺が隠れている場所に何発も銃弾が打ち込まれ、
今にも壊れそうになっていた。
今一番考えるべきことは、どうやってこの場から
逃げるかだ。
射出時から着弾時まで約2秒、俺が弾を見たのが射出に気づいてから約1秒だから、一般的なスナイパーライフル
なら1.2kmは離れているか?
なら流石に煙幕を焚けば逃げられるはずだ。
俺は鞄から緊急時のために常備していた煙玉を
取り出し、足下に投げつけた。
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結論から言うと、俺は逃げきれた。しかし、
相手は逃すものかといった感じで煙幕もお構いなしに
連射してきたため、一発肩に被弾してしまった。
このままでは学校に行ったときに面倒事に
なりかねないので、一度アジトに寄ることにした。
「目来さーん、
肩に被弾したので治してくれませんか?」
目来奏さんは、回復能力の持ち主で、負傷した時は
いつもその人に治してもらっている。しかし、
どうやら今日は来ていないようだ。
怪我の治療は今度してもらうことにして、
制服を直してもらうのを先にすることにした。
「栗糸さん、服直してもらえませんか?あと救急箱って
どこにあります?」
栗糸千穂さんは繊維を操る能力者で、普段は古着屋の
店主をしている。今日はたまたまアジトに来ていたので
服を直してもらうことにした。
「あちゃー、それは痛そうだねー。
救急箱は棚の上にあるから。はい、服見せて。」
俺は穴が空いた服を栗糸さんに渡し、救急箱を
取りに行った。
肩の傷に包帯を巻き、頬の傷には絆創膏を貼った頃には、栗糸さんが血のしみをぬき、服を直してくれていた。
「流石ですね栗糸さん」
「こんぐらいどうってことないよ。気をつけてね。」
「ありがとうございます。気をつけます。」
俺は栗糸さんにお礼を言い、新谷さんを探して、
今回のことを伝えた。
新谷さんは、「やっと動きを見せたか、
とりあえずお前は無事でよかった」と言い、ボスへ
そのことを伝えに行った。
そして、俺はいつもより警戒を強めながら
学校へ向かうようにした。
アジトから学校までは何事もなく行くことができた。
「あんた、そんなほうけた顔してどうしたのよ?...
ってその傷どうしたの?」
教室に着いてボーッとしていると、そう黄桜が話しかけてきた。
「枝が掠っただけだよ。」
「いつもボーッとしてるからでしょ?気をつけなさいよね。」
なぜ黄桜はいつも俺に話しかけてくるくせに毎回口調が刺々しいのだろう。そういう疑問が頭に浮かんだが、
触れてはいけないことだという気がしたので、
口にはしないことにした。
昼になった。いつも通り弁当を食べようと鞄を覗くと、
「......弁当が、無い。」
いつもなら、学校に行く途中で弁当を買っていたのだが、今朝のことがあって完全に忘れていた。
しょうがない、今日は我慢しよう。
諦めて席を立とうとすると、
「おい、今日は飯食わねえのか?」
赤霧が話しかけてきた。
「食わねえんじゃなくて無いんだよ。」
俺がそう言うと、赤霧はニカッと笑いながら、
「じゃあ俺の飯分けてやるよ。」
そう言って自分の弁当を開け、ご飯やおかずを3分の1ずつほど、蓋に入れて渡してきた。
変な奴だけどやっぱり良い奴なんだよなー
そう思いながら飯を受け取ると、
「それだけしか食べなかったら昼からもたないわよ。
私のも分けてあげるからそれ貸して。」
黄桜まで弁当を分けると言ってきた。
「いいよ、そんなことしなくても。」と断ろうとしたが、「ダイエット中だから食べて、ていうか食べなさい。」と強引に昼飯を入れてきた。
そのあと、俺たちは飯を食べ始めた。
こんななのも悪く無いな
そう思いながら昼食を口に運んだ。