「ねえ母さん、僕は猫を飼ったら、ねずみ対策になると思うんだ。」
母さんが、夜中のねずみの足音に困っていると言っていた。
僕は猫が好きだから、ねずみ対策になるよ、
なんてこじつけを言って猫をねだった。
二週間後、猫がうちにやってきた。
きれいな黒い毛色、黄色い目。
母さんの知人が譲ってくれたらしい。
子猫というほど幼くはないけれど、
とてもとても可愛かった。
黒かったから、クロと名付けた。
クロがうちに来て数週間、
母さんはねずみが減らないとため息をついていた。
けれど、僕にはどうでもよくて、
毎日のようにクロと遊んでいた。
それから数日後、母さんがねずみ用の毒餌を買ってきた。
そのときはなんとも思わなかった。
ある日、クロが聞いたこともないような悲痛な声で、
ミィ、ミィと鳴いていた。
僕が不安になって駆け寄ると、
クロは僕の足元でうずくまった。
クロはそこから顔を上げ、僕の方を向いて何度も鳴いた。
でも、クロは助けを求めるように鳴くばかりで、
何が辛いのか教えてはくれなかった。
僕は怖くなって、不安になって、
でもどうすればいいかわからなくて。
僕は泣きながら、クロの背中を撫で続けた。
大丈夫なの?大丈夫だよね?そう聞きながら、
クロの背中を撫で続けた。
そのうちミィ、ミィという鳴き声は
ヒュー、ヒューという掠れ声に変わって、
そのうちクロのくちから泡が出てきて、
目が半開きのまま動かなくなった。
クロ?クロ?どうしたの?
クロ?
しばらくして、母さんが帰ってきた。
事情を説明したら、動物病院に連れて行ってくれた。
でも病院に着く頃にはすでに冷たくなっていて、
僕はクロの身体を抱きしめながら泣いた。
数日後、母さんはクロが死んだのは
私のせいかもしれないと言った。
台所に置いたねずみ用の毒餌を、
クロが食べたのかもしれない、とのことだった。
でもそれを言うなら、
僕が猫を飼いたいなんて言ったことが原因だ。
クロが鳴いているのを見た時点で病院に連れて行ってやれば。
母さんが毒餌を買ってきたのを見て止めていれば。
でももう、どうにもならない。
父さんは悪いことをしたら、
誠心誠意謝りなさいと言っていた。
そうすれば、許してもらえるとも言っていた。
でも、そんなのは嘘だ。
僕はクロが死んだあと、
何度も何度も心の中で謝った。
でも、クロは帰ってこなかった。
もっと好きなおやつをあげられなくて、ごめんなさい。クロ。
もっと撫でてやれなくて、ごめんなさい。クロ。
苦しい思いをさせて、ごめんなさい。クロ。
おわり