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◎さんわめ◎

「ここです!」

 隠し扉を開いて秘密の階段を降りると、狭いレンガの壁の個室に水晶に手をかざす老婆が。

「ここは特別な目を持っていないと見つけられないところだよ。おまえさん、私に何か用かえ?」

「ブラックなことを言ってもいいのかしら?」

 でもこちらの老婦人、いかにも黒魔術師だな。

「失脚させたい人間がいますの」

「ありふれた感情じゃのう……。いいぞよ叶えてやるぞよ、してその代償にお前は何を寄越してくれるのかえ?」

 代償……確かに、黒魔術には必要な物か。

「何ならよろしいの? 私の髪かしら? それとも余生の半分とか……」

「じゃあトカゲ30匹ほど」

「トカゲ?」

 黒魔術の素材拾ってこいということか。使い走りでいいならリーズナブルだ。


「マリーヤ様、獲りにいきましょう。トカゲってどこに生息しているのでしょうね?」

「どこにでもいるイメージがあるわね」

 しかしここは人を使役しよう。マリーヤのキャラクターは疑似体験プレイで使いこなしているのだ。


 さて人通りの多いところに出たので、私は私の中で最高の甘えた甲高い声を出してみる。

「すみませぇ~ん! どなたか、お手伝いしていただけないでしょうかぁ~!!」

 ほら、一声で8歳から50歳代までの男性が30名以上集まってきた。

「トカゲを捕まえてきて欲しいのです~~…。でもお礼できるものがなくて……。ご希望なら私が踏んで差し上げますけど……」

 少し顔を赤らめて恥じらいながら言ってみたら、男性陣が盛り上がりを見せた。どうやら30名の中で、無償で手伝うという方:踏まれたい方:辞退が同じ割合といった風だ。20名使えるならひとり平均1.5匹……問題ないだろう。

「マリーヤ様の魅力、飛び抜けて素晴らしいです」

「令嬢になってこの方法は、あまり使いたくないのだけどね……。ラインホルト様には内密に、ね」



「さぁトカゲ30匹集めてきたわ! 私の敵を穏便に失脚させてくださいますわね!?」

「穏便にかえ? それならおまえさんが自分で制御できる方法を授けてやろう」

「自分で?」

「今夜おまえさんが見る夢の中で、その相手を陥れればよい。一度だけ、起きたらそれが現実になる魔術をかけてやろうぞ……」


 夢の中で……。どのような形でも、退けられればいいのだろうか。



 夜がきた。いい夢がみられるだろうか、少し緊張する。

「リラックスなさってください。すてきな夢がみられますように」

「メアリーもよく休んでね。そしてフリージ家に行く支度をしておいて」

「分かりました」

 彼女はにっこり微笑んで部屋を後にした。私も夢の世界へと。



 ――――ここは……夢の中? 暖かいわ……。あら? 一面の桃色の世界で、私の周りに人がどんどん現れて、そして彼らは一生懸命働いている。何かを運んでいたり……戦っていたり?

「マリーヤ様!」

「メアリー?」

 彼女も私の夢に現れた。成り行きを見守るためだろうか。でもひとりでいるより心強い。

「おほほほほほほ!!」

 あの不快極まりない高笑いは……!

「やっぱりフランソワーズ。周りにいるのは、カーチャとシンディね。夢の中でも取り巻きつれてきたの……」

 それにしてもここはいったいどういう世界なのだろう。私の知識の及ばない場所の夢をみるなんてことは、ないはずだけど。ここで彼女を失脚させるとは、どのように……。

「あら? あなたは」

 ああ敵に気付かれてしまった。まだ状況が把握できていないのに。

「こんなところでも取り巻きを連れていて目障りね」

 夢の中でもまったく偉そう、まぁ言わせておくか。

「あなたたちは隅で地味に働いていればいいわ。この中心の範囲から出ていってくださる?」

「中心? なんの中心?」

 私はあたりを見回してみた。たくさんの働く人々が移動している。

「それにしても本当に地味よね」

 フランソワーズがメアリーをじろじろ見ながら言う。

「膵臓は!!」

「膵臓?」

「あなたももっと下流に行きなさい! 腎臓なんだから」

「腎臓!??」

「マリーヤ様、赤い人たちと白い人たちが一生懸命働いていますね……」

 赤い人が何かを運び、白い人が戦っている。

「まさかここは……人体の中!?」

「おほほほほほ! 腎臓膵臓の地味コンビは、この身体の中心である『胃』の私にひれ伏しなさい!!」

 どうやら私の夢の舞台は『人体の中』で、私=腎臓、メアリー=膵臓、フランソワーズ=胃という役に就いていた……。



「マリーヤ様、いったいどうしてこんな夢を……」

「どうしてかしら……そういえば生前、余命数ヶ月という頃、同じ入院患者の仲間たちとあるアニメを見たわ。それは擬人化した身体の中の細胞が力を合わせて働いていて……病気になると仕事がてんやわんやの激務になるという物語だったのだけど……」

「それ、入院患者のみなさんで見ても良かったんですか……?」

「そうね、1話終わった時仲間のひとりが言ったわ。“これ私たちの身体の中、阿鼻叫喚の世界だよね……”と。それに“世界恐慌起きてるよね……”“もう世紀末じゃない……?”などの感想も上がっていたわね」

 そこでメアリーは顔を背けて目を伏せた。

「その印象が強かったのかしら。夢にまでみるなんて」

「どうしてそれをみるのがよりによって今日なのです!? なぜかフランソワーズはあんなに自信に満ち溢れ、普段以上に増長していますよ! どうやって失脚させるのですか? 胃は、なくてはならない臓器です!」

「どの臓器もなくてはならないけれど……」

「おほほほほほ!! 一緒にしないでくださる? あなたは腎臓。片方身体からなくなっても平気だなんて低価値ですわ!」

(なんですって! 半身を求める愛の存在よ!)

「しかも膵臓って何? 人に聞けばどこにあるかも何をしているかもろくに知られていない、限りなく地味な存在ですわねぇ」

「うっ……マリーヤ様……私、本当に地味ですよねぇ……」

「丸めこまれないでメアリー!」

「それならあなたの取り巻きはどうなのよ!?」

「わ、私は肝臓よ!」

「私は心臓ですの~~」

(くっ……口撃しづらい絶妙なところね。)

「まぁ肝臓もそこまで派手ではないけれど、いぶし銀の様な活躍を見せる臓器ですわね、カーチャ、引き続き奮闘なさい」

「はい、フランソワーズ様」

「心臓は言うまでもないわね、あなたもそちらにいらっしゃる血液のみなさんと絶え間なく出精あそばせ」

「分かりましたぁ~~」

「そしてこの私。身体の中心にあり、人々の第一の関心事である胃こそが! この身体を支配する私、胃こそが!!」

「…………」

(いちいちポーズうざい……)

「ここは私の天下ですわ」

「関心事って」

「あらそうでしょう? 胃を少しでも悪くしたならば、お食事はとれませんし。生活のすべての影響は胃に来るのですわ」

(ええ、確かにあなたと会ってから私の胃はきりきりしっぱなしでしたわ。)

「役割を知られているというのも大きいわね。ねぇ、膵臓? 本当にあなたいったい普段何をしているの?」

「えっ、ええ??」

(負けないでメアリー。でも確かに私も知らないわ……。)

「私に敵うと言うならば、ご自分の存在意義をここでプレゼンテーションしてみたらいかがかしら?」


「くっ……。どうして私の夢の中なのに、フランソワーズに有利を取れない役に就いてしまったのかしら……!」

「マリーヤ様が結局お人好しだということですね! まったくお優しいことこの上ございません!」

「今回ばかりは誉め言葉にならないわね。仕切り直した方が良さそう。一度目覚めて、また違う夢をみなくては」

「残念ですがこの夢で彼女を打ち負かさないと目覚められないようです」

「えっ?」

「いいところで目覚めてしまったら失敗に終わってしまうからでしょう。一度だけですから、今あなたは深い眠りの魔術をかけられています」

「そんな……」

「これを打破するのは、王子様のキスくらいかと……」

「ということはもしや、彼女に勝つところまで辿り着けないと、永遠に眠りから醒めない……」

「そうですね……」

「転生してきたのに、結婚する前にまた死の床も同然って!!」



――――ラインホルト様! お願い!! 私にキスをして!!!





お読みくださりありがとうございます。

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