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04.5#危険信号

 私に与えられた今回の任務は、アステロ村へ出没する魔物の討伐。

 他にもいくつかの街や村から要請があり人数が裂けないため、隊長格の二人を送ることになったらしい。

 隊長格が二人もアステロ村に送られるのは、その村の場所に理由がある。

 アステロ村は首都に一番近く、ここで魔物を確実に仕留めないと魔物が首都に入ってきてしまう恐れがあるのだ。


 隊長格の二人の内一人は勿論私、第一魔術団隊長、リウナス・テレス。

 もう一人は、第一騎士団隊長、ガルロス・キャンパシール。


 『第一』はそのまとまりの頂点を表す。魔術団にも騎士団にも『第二』『第三』と続くものがあるが、その力量は『第一』と比べ格段に劣る。

 そんな『第一』隊長の私達は、魔術団、騎士団の頂点に君臨している。

 私は魔術団のトップ。

 ガルロスは騎士団のトップ。


 だからこそガルロスは強い。

 剣を持たせれば隣に並ぶ者など居ないと言われる程。

 剣一本で魔術を使う私に立ち向かえる程。


 私は正直言ってアステロ村へ赴くつもりはなかった。

 日々魔術の鍛練と研究をしている私にとって、煩わしいことこの上ない。

 それに、ガルロスがいるのなら彼だけで十分だろう、と。


 なのに、王は私にも行けという。これは命令だと。

 いくら私でも王の命令に逆らうことなど出来ようはずもなく、結局私はアステロ村へ赴くことになってしまった。


*****


 アステロ村。魔物が出没するようになったと報告を受けているが、未だに魔物は見当たらない。

 潜んでいる…?いや活動時間が違うのだろうか?

 色々な憶測が頭の中を飛びかう中、達したのは一つの結論。


「ガルロス、貴方は此処で村人に詳しい話を聞き出していて下さい。私は、森を見に行ってきます」


 小さな村に馬車で来たのが悪かったのか、今この場には沢山の村人が群がっていた。つまり、野次馬。

 そんな野次馬をガルロスに押しつける。

 私はさっさと逃げよう。好奇の目線に晒されるのは好きではない。

 それに、村に出てこないなら、森に潜んでいる可能性が高い。

 私はガルロスに背を向けて歩き出した。


*****


 森に入るとすぐに3体の魔物に出会った。

 犬のような身体と鋭い牙を持つ獰猛な野生の魔物。一度噛み付いたら離さない強い力と小回りがきく体躯。パワーとスピードを兼ね備えた魔物で、群れをなし、一体でいることはまずない。普通の魔術士や騎士では苦戦を強いられることだろう。

 だが私は普通ではなかった。この国で私に魔術で適う者など居ないのだから。

 私は冷静に効果的な魔術を判断する。

 私が使える魔術属性は二つ。水と風。

 水属性の魔術は近くに元となる水が無く、空気に含まれる水を集めるにしても時間が掛かるため、使えない。

 故に今使えるのは風だけ。

 私はいつの間にか自分の方に迫ってきている3体の魔物に向けて右手をかざした。


「――放て、風玉」


 不可視の空気の玉が3つ右手の手の平から魔物に向け飛び出す。

 すぐ傍まで来ていた魔物には避けるすべなどなく、直撃し、息絶えた。


 その様子を表情もなく見ていた私は、魔物が完全に息絶えたことを確認してから、馬車の置いてあるガルロスの元に向かうべく、その場を後にした。


 『風玉』とは私が良く使う魔術の一つ。周りの空気を集め、凝縮し、玉とする。スピードは音速を越え、空気が元となるため、その姿形を見ることは適わないという、最恐の攻撃魔術。

 『風玉』は扱いが難しく、使える者はこの世で一人、私だけだと言われている。

 私が魔術の鍛練を幼い頃から死に物狂いでやってきた結果だった。


*****


 人の群れは一向に減ってはいなかった。寧ろ、居なくなった時より増えている気がする。

 人と人の隙間から、ガルロスの背中が見えた。


 ……殺気?

 ガルロスが野次馬の一角に静かに殺気を向けているのが分かった。


 ―――魔物、か!?

 魔物は3体と報告を受けていたが、まだいたのかっ!


 だが、ガルロスの目線の先には、一人の少女。

 魔物には見えなかった。一人の人間にしか見えなかった。

 でも、彼女は…魔物なんかよりも、何千倍もやっかいだ。


 この世には存在しない黒髪黒瞳。

 彼女を護る強い、強い結界。


 ――彼女の力は我々とは桁が違う。


 そんな彼女に喧嘩を売る馬鹿な男が一人。


「何者だ、言え。返答によっては…処分する」


 ガルロスは魔力が使えない。

 だからこそ、彼女の桁違いの魔力量に気付いていない。


 ――駄目だ、彼女に手を出してはいけない。


 本能で彼女を危険だと判断したのだろうが、危険なんてレベルの話じゃない。


 彼女は笑う。妖艶に。そして無邪気に。

 彼女に手を出しても結界に阻まれるだけだ。その後、手を出した相手は瞬殺されるだろう。

 彼女はそれが出来る。相手がこの国一の騎士だとしても何も変わらない。

 私は動けなかった。足が動かなかった。

 圧倒的な力の前に畏怖さえ覚えている。……こんな小さな少女に。


「あたしセナ。セナ・ミズキ。…んであたしに何の用ですか?」


 とぼけるように答える彼女にガルロスは…キレかけていた。

 ……あの馬鹿っ!

 もう動けないと言っている場合ではない。


「だから何者だと「こんにちは」


 ガルロスの言葉に被せて口を開いた。

 私はガルロスを目だけで睨み付け『落ち付け』と促す。

 そして、セナと名乗る少女に、怯えている心を見破られまいといつものように微笑みかけた。

 そう、私の持味は敬語と笑顔。それはどんな時でも崩してはならないもの。


 少女は私をじっと見つめている。この張り付けた笑みに彼女も囚われたのだろうか。そうだったら、扱いやすくなる。

 そう思ったのに、彼女の口からは予想だにしない言葉が漏れた。


「……青い、光」


 何の事かは直ぐに分かった。

 彼女は私の魔術属性を見ているのだ。


 魔術属性にはその属性によって色がある。

 火属性は赤。水属性は青。風属性は緑。光属性は黄。闇属性は黒。


 私の魔術属性は風と水。だが元々は水しか使えなかったため、やはり水の方が身体に馴染んでいる。

 だからこそ、彼女は私の魔力を『青』と表したのだろう。


 普通の魔術士は魔力量の量などは大体掴む事は出来るが、魔術属性まで見分けられることなど出来ない。

 私でさえ、高度な、何分もかかってしまう呪文を唱えなければそんな事出来はしない。

 出来はしない…というのに、彼女はそれをいとも簡単に、そして一瞬にしてやってのけた。

 彼女は危険だ。人間の域をとっくに越えている。


 彼女はこの世に災いをもたらす存在なのだろうか。

 それとも――…

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