04#目には目を。歯には歯を。力には力を。
「何者だ、言え。返答によっては…処分する」
あ〜ぁ、この人本気だよ。
あたしは空気が凍り付きそうな程の殺気を向けられても大して気にも止めていなかった。
それがあたしの性格でもあったし、あたしを包む結界が少なからずあたしに安心感を植え付けていたからかもしれない。
あたしに危険は及ばない、そう何故だか言い切ることが出来た。
このあたしを護る結界がどのくらいの精度か知りもしないくせに、大丈夫だと思ってしまう自分がいた。
逆に赤騎士さんの方が危険だと、思う。
あたしに手を出したら、リーに瞬殺されちゃうんじゃないかな?
あぁ、不憫だ。
この人があたしを攻撃する意志を消すにはどうしたら良いだろうか…。
やはり、力がある者にはそれなりの手を。
――決定的な力の差を。
もうあたしを傷つけるなんて、馬鹿な考えを持たせない位、恐怖に取りつかせようか、なんて本気で考えてしまった。
力で押さえ付けること以上に簡単なことはない。リーに頼めばきっとそういう状況も作り出すことが出来るだろう。
…まぁ実行しようとは思わないが。いや、ちょっと考えたけど。
「……答える気は無いということか?」
赤騎士さんの視線がいっそう鋭くなる。
もう人を視線だけで殺せそうだ。
あたしは知らず知らずの内に口元を弛ませていたらしい。
赤騎士さんはそれに気付いて不機嫌になった、と判断しても良いのかな、この場合。
先ず、あたしがとるべき行動は様子見。
「何者だ、って言われても…ねぇ?普通に人間ですよ?」
人間の前に異世界の、がつくけど。
「我々と同じ人間だと!?」
「勿論。それより、貴方の所属と名前を教えていただきたいのですが?」
「なっ!?貴様などに教える名など、ないっ!」
「そうですか。ならあたしもこれ以上質問に答える必要なんてないですよ。だって、一方的に質問に答えさせられる何て不公平じゃないですか」
この世界に来てから、神経がいくらか図太くなった気がする。
余りにも有り得ない事に何度もぶち当たったからだろうか。
「くっ!…俺はローレンス国第一騎士団隊長、ガルロス・キャンパシールだ」
あれ?結構素直に教えてくれるんだね?
『一方的な質問など当たり前だろう。これは質問などではなく、尋問なのだぞ!』位は言うと思ったのに。予想外。
この人…もしかして馬鹿だったりするんだろうか。
それにしても…ローレンス国、ねぇ。
多分あたしがいるこの国の名前。
てことは、その騎士団隊長さんってことは結構お偉いさんってことだよね。
確実に城勤め。
そういえば忘れかけてたけどあたしって城目指してるんだっけ。なら、一緒に連れてってもらえないかなー。
徒歩って疲れるし。…その代わり馬車酔いするかもだけど。
「ガルロね。うん、覚えたっ」
「ガルロスだ、ガルロス!略すんじゃねぇ!」
「あたし、セナ。セナ・ミズキ。…んで、あたしに何の用ですか?」
とぼけてみた☆
様子見、様子見っと。この人短気そうだし、キレちゃうかな?あっ!言ってるそばから額に青筋がっ!
余所者のあたし。服装も違うし、この世界、黒髪黒瞳の人もいなそうだからなー。いたとしても、珍しそう。
ガルロは多分魔力は持ってない、もしくは持っていても使えないんだと思う。
リーが言ってた。
あたしを護っている結界は少しでも魔力を使える者ならば、存在を感じることが出来る、って。
ある程度魔力を使いこなすようになると、相手の魔力量が大体どれ位かも分かるらしいけど、あたしにはまだ多分、分からない…と思う。
分からなくても良いって、リーは言ってたし。
何で、って聞いたら、あたしやリー以上の魔力を持つ者はこの世にはいないからだって真面目に答えられた。
あたしの(凄いらしい)魔力量、この強い(らしい)結界の存在にガルロは気付いている様子はない。もし、気付いていてこうなら、ただの馬鹿だ。
「だから何者だと「こんにちは」
イラつき始めていたガルロが発した言葉は他から聞こえてきた別の声によってかき消された。
声の方に向くと、男の人。青い髪に青い瞳の男の人。
やっぱりこの人も顔が必要以上に整っている、所謂イケメンというやつで、赤騎士さんと同じような服を着ているが、腰に剣はない。
武器は、きっと剣じゃなく…。
微笑みを浮かべているが、その微笑みが…胡散臭い。無理矢理顔に張り付けたような微笑み。
この青騎士さんは警戒するべきだと本能が告げている。
彼をじっと見つめると、彼が淡く発光しているのが見て取れた。
否、ちょっと違う。
彼自身が発光しているわけではなく、オーラが彼を包んでいると言った方が当たってる気がする。
「……青い、光」
ついそう呟くと、青騎士さんはその言葉を聞いて軽く、笑った。
「分かるのですか。やはり、貴方の力はとても強い。……申し遅れました。私はリウナス・テレス。ローレンス国第一魔術団の隊長を務めさせて頂いております」
……やはり、魔術士。
なら、彼の周りに見えるオーラは彼の魔力…?
あたしの魔力とは違う、青い冷たい魔力。
何故だか、この人は笑って人を殺せる人だ、とやけに確信じみた推測が頭を掠めた。
青騎士…じゃなかった青魔術士のリウナスさんの発言で一つ確かめなければいけない問題が浮上する。
「あたし、セナ。セナ・ミズキっていいます。攻撃はしないで下さいね?リウナスさんの力では…無理でしょうから」
何が、とは言わない。だってこの人は絶対に気付いてる。
この人は強い、漠然とそう思った。
「そうですね。強い結界をお持ちのようです。私にはとても破れませんよ」
……この結界の性能まで把握しているって感じか。
この人なら多分、全力を出したら、リーの結界も破れると思う。
でもそれをしようとしないのは、相手の力を甘く見ていないから。もしくはあたしの力を見極めきれないからかもしれない。
リーのことを気付いている様子はないから、この結界を構成しているのはあたしだと思われている。
それを逆手にとって交渉に持ち込むのが最適か?
「……あたしのことをどうするおつもりですか?」
ガルロのように処分するというのなら、交渉はするまでもなく、決裂。
リーに力を借りて、逃げ出す。
下手したら此処は地獄絵図とかすことになるだろう。
だが、このリウナスという男はガルロよりも計算高そうだ。
あたしに手を出すことなどきっと出来ないだろう。
王子のようにキラキラスマイルを顔に張り付けてはいるが、そういうキャラは腹黒だって決まってる。
敬語キャラと天然キャラは裏要素が強いんだ(偏見)!
「出来れば貴女…セナさんを、城にお招きさせて頂きたいですね」
黒い。笑顔が黒い。
なまじ美形のお兄さんがやると『恐怖』っていう言葉がピッタリとはまるんだって事を知った。
……別にソレは知らなくても良かった。
「城…ですか。いいですよ?」
あたしもそう言おうと思ってたし。
そっちから言ってきたんだから、ちゃんとお客様扱い、してくれますよね?
「でももし、牢屋等にぶちこもうとしたのなら…この国…いえ、この世界が滅んでしまう事になりかねませんから――そのおつもりで」
負けじと黒い微笑みで返してみた。
――セナは『ブラックスマイル』が出来るようになった!(ゲーム風)