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03#先生、魔術について教えてください!

「セナ、これを」


 優しく目を細めたリーはそう言って、何かを差し出した。


「これ…」

「さっきのピアスだ。これを腕にはめて、ちょうど良い大きさに、と願えばその通りになる。そういう魔術もかけておいた」


 リーから元ピアスの物体…もといピアスから形を変えたブレスレットを受け取る。

 リーの鱗と同じ純白の、真珠のような様々な大きさの丸い珠が、抜群のセンスで並んでいる可愛らしいブレスレット。


 自分の腕にはめて、落ちない位の大きさに、と願う。

 するとブレスレットは淡く発光し、手を振り回しても落ちない大きさに縮んだ。


 それを見てリーは満足したような表情を浮かべたが、直ぐに申し訳なさそうな表情に変化した。


「――セナ。そなたに頼みがある」

「…頼み?」



「セナの魔力を少し頂きたい」



 あたしの腕にはまっているブレスレットとリーの耳に付いてあるピアスを作るのに魔力を使い過ぎたのだ、とリーは言う。


「あたしの魔力って…あたしに魔力なんてあるの?」

「異世界人に皆一様に魔力があるのかは分からんが、セナからは強い魔力を感じる。神の魂が持っていた魔力がセナの魔力として変換されているのだと思う」


 それに、リーにとってはかなりの魔力を貰っても、あたしにとっては微々たるものだから、心配する必要はないと。


 なら断る必要もないと、軽く了承した。



「…セナ、ちょっと貰う」


 リーはそう言って軽くあたしに触れた。

 リーとあたしの触れ合った所から――純白の光。

 綺麗だけど…ちょっと眩し過ぎやしませんか?

 きっとこれが魔力というものなのだろう。

 眩しい程の光なのは多分、あたし(正確には死んだっていう神様?)の魔力の強さが関係してるんだろうな。他の人の魔力見たことないから憶測だけど。


 光が徐々に収まってきたのでリーの顔をちょっと伺ってみたら、随分と顔色が良くなってた。

 表情も明るくなった気がするし。


 光がやっと収まると、リーは触れていた手をゆっくりと離した。


「さっきの光って…あたしの魔力?」

「やはり、見えたか。…セナは魔術の定義やそれが起こす効果を知っているか?」

「定義はよく分かんないけど…効果っていうのは炎や水を操ったり、生み出したり、治癒が出来たり…じゃないの?」

「大体それで合っている。『魔力を持ち、それを放出し、力を具現化する』それが魔術の定義だ。魔力とは、力を具現化する際使う燃料のようなもの。魔力量はその魔力の力の大きさを表す。魔力量が多い者程、強い魔術を使えるし、魔術を使える回数も多い。要は魔力量とはスタミナのようなものだな」

「ふむふむ」

「魔術には属性があり、火属性、水属性、風属性、光属性、闇属性と分かれている。火属性は火を操る。水属性は水や氷を操る。風属性は風を操る。光属性は治癒や結界構成。そして身体能力向上。闇属性は呪いや武器の付与効果、また呪いを解いたり解毒をすることもできる」


 闇属性は術者次第で良くも悪くもなるということかな?

 毒も薬になったり、猛毒になったりするし…同じ原理と考えて良いだろうか。


「全ての属性を使えるわけではない。属性には相性があってな、火属性の適性を持つ者は水属性を持つことは出来ない。光属性を持つ者は闇属性を持つことは出来ない。又、その逆もしかり」

「…なら最高で三属性?」

「うむ、理論的にはな。だが、三属性以上を持つ者など…我と神以外は知らぬ。二属性も稀だ。単属性が主だからな」


 その論理で行くと…リーってめちゃくちゃ凄いんじゃ…。

 あれ?でもあたしってそのリーより凄いんだよね…?まぁ、神様のおかげ?だろうけど。


「属性の数がその者の強さに直結するわけではない。単属性でもその属性を極めた者は多属性の者より強かったりする。まぁ…多属性というのは魔力量が多いという証だからな、普通は単属性より強い」

「なら…リーって最強?」


 あたしの素朴?な疑問にリーは笑って『神には勝てるか怪しいな』と、暗に神以外なら負けるわけがないと言う。


「因みに我の属性は火・風・光の三属性だ」

「…あたしにも魔力あるんだよね?なら、あたしの属性って分かる?」


 簡単には判断出来ないものなのかな…。それとも魔力属性を測る機械でもあったりするんだろうか。


「セナから魔力を貰った時、判断しようとしたのだが…」

「……出来なかったの?」

「セナの魔力は我の力と一致した。この時点で火属性、風属性、光属性の三属性を持っていることが分かる」


 ふむふむ。


「…じゃあその三属性があたしの魔力属性ってわけね」


 確かに三属性とは主人公最強系だわ。リーと互角以上となるわけだし。

 そんな風に自分を評していると、リーは俯き加減に次の言葉を紡いだ。


「いや…そうではない。セナには我と異なる属性も持っていた。


我の属性とは異なる三属性を」


「…三属性?」


 あたしは首を傾げた。

 属性って五属性しかないんじゃなかったっけ?

 火・水・風・光・闇…だったよね?

 指を折って数えてみても…やっぱり五属性しかない。


「うむ…その三属性とは、水属性、闇属性…そして…これは憶測だが…六つ目は神しか持つことの出来ない『メテオストライプ』」


「『メテオストライプ』?」


 …どうして〇〇属性ではないのか。

 あたしは下らないことを疑問に思い、リーの言葉の端々に含まれたものに気付かなかった。


「メテオストライプは神の魂を持つセナだからこそだろう。だからこのことに問題はない」


 あたしはまた首を傾げた。

 リーの言い方だとそこに問題はないけど、他に問題があると言っているようなもの。


「……有り得ないのだ。全ての属性を持つなど、神ですら出来ぬというのに…」


 リーはそう言うと、あたしを真剣な目で見つめる。


「属性には相性があると教えたな。確かに火属性と水属性を同時に持つことは出来るかもしれない。過去にも実際にいたらしいしな…」

「…問題は、光属性と闇属性…」

「そうだ。光と闇は対になる表と裏。根本的に作りが違うのだ。コインを投げればどちらかの面が出る。だが両方の面が同時に出る事は絶対にない。……そうだろう?」


 …光と闇は同時に持てるものではない、か。

 まぁ、主人公最強系みたいだし、全ての属性使えてラッキー!位に思っておこう。

 考えるだけ無駄な気がするもん。

 あたしが普通のこの世界の人間じゃないことなんて分かり切ってるもんね。もしかしたらあたしの世界ではみんな使えないだけで光属性と闇属性、両方の素質を持ってるのかもしれないし。


 それに、悪いけどあたしは、光属性と闇属性よりも…


「ねぇ、リー。メテオストライプって何が出来るの?」


 …メテオストライプの方が気になる。

 だって想像出来なくない?メテオなストライプって何よ。意味分かんないよ。


「メテオストライプは神のみが持てる力。世界を想像し、創造する力」


「…創造、ね。何でも創れるの?世界も…人間、…も?」

「…そう聞いている」


 聞いているって誰に?ってちょっと思ったけど、口には出さなかった。

 何か言いにくそうだったし。


 ――ここまで聞いて思う。

 …うん、大体あたしの想像…というか知識通り。

 地球には沢山の異世界トリップの話があるけど、なんでこんなにも正確に異世界をとらえる事が出来ていたのだろう。

 やっぱり、話の中には実話もあったと考えるべきだろうか?


「うん、魔術のことは大体分かった。ねぇ、これから何処に行けばいいかな?」


 この世界にはまだリー以外の知り合いはいないだ。此処が何処だかも分からないし、行く当てもない。


「ふむ…」


 リーは思案するように沈黙。

 暫らく経ってリーはおもむろに口を開いた。


「行きたい場所はないのだろう?」

「うん。ていうか、この世界にどんな場所があるのかも知らない」

「そうだったな。…なら城にでも向かうか?」

「……城?」


「この国の城、だ」


 ちょっ、城って!?

 あたしなんかが、そんな高貴?な場所に入れてもらえるわけないって!寧ろ、不審人物扱いだって!牢屋に入れられちゃって、運が悪ければ死刑だって!

 そんな風に焦っているあたしを見て、リーは冷静に『落ち着け』と促していた。











 結論を言っちゃうと、あたし達は、城に向かうことになってしまった。

 ……だって、他に行く当てなんかないし。

 因みに城へは、徒歩で一日半程らしい。馬車だと半日もかからない位だとか。なんでも、この村は首都に一番近い村なんだって。

 魔術で転移すれば一瞬で行くことが可能らしいんだけど、まだ本調子じゃない(らしい)リーにとって長距離転移はちょっとキツいらしい。


 だから一先ずあたし達は街の中心に向かってます。

 食料とか買い込むんだって。

 あたしが『お金持ってないよ?』と言うとリーは『我が持っている』と優しく微笑んだ。

 何故竜の貴方が人間の使う通貨なんて持っているんですか。

 寧ろ、その通貨使ってるんですか。

 この世界では竜が街で買い物をするのは普通の光景なんですか。

 何だか頭の中が疑問で埋め尽くされそうだ。


 それに、もう一つ疑問がある。


「ねぇ、リー。この膜みたいなの…何?」


 あたしとリーを包む膜。気付いたらこんな状態になってた。けど、嫌な感じはしない。寧ろ、心地好いというか…。

 そんな膜に包まれてしまっているあたしは内心ずっと不思議に思っていたのだった。


「この膜は結界だ」


「…結界?リーがやったの?」

「そうだ」

「でも…リーを包む結界、何かあたしのと違くない?」

「役割が違うからな」


 …役割が違う?良く分かんないな。

 結界に役割も何もないと思うんだけど…。


「セナの結界は我の出来る最高の硬度を付与した【護りの結界】。どんなに凄い剣であろうが破ることは叶わぬ。魔術ならば、術士にその魔法を跳ね返す」

「リーのは?」

「我の結界は術者を不可視にする【同化の結界】。どんな上級魔術であろうがこれを破ることは出来ず、とその前に我がいることすら分からんから、索敵魔術を使おうとする者はおらんと思うが…。故に我の存在は空気とかす」


 つまり、透明人間みたいなものだよね。

 いいなー面白そう!……って、アレ?


「……誰にも見えないんだよね?」

「普通ではあり得んな」

「…あたし、リーのこと、くっきりはっきり見えちゃってるんですけど…」

「そなたは普通ではないからな」


 …………!?

 あたしってそんなに人間離れしてたんだね…(遠い目)。


 そういえば、主人公最強系の主人公ってさ、既に人間の域越えちゃってるよね…。

 行く先々で『お前、人間なのか…?』とかって疑われてみたりしちゃうんだ。人間扱いなんて、しては貰えないんだ。

 …あぁ、あたしもそうなんだね…。

 周りが全員疑いの眼差しなんて、孤独だよね、孤独過ぎるよね。

 あぁ、今なら主人公最強系の主人公達の孤独を理解出来るよ…。










 リーと一緒に街の中心に向かって歩く。

 いつの間にか商店街?の端には辿り着いていたらしく、人もちらほらと見かけるようになっていた。


「街の中心近くまで来れたようだな」


 頭上から声がかけられた。

 声の主は勿論リー。

 リーしか使えない(らしい)能力で小さくなって、あたしの頭にちょこんと乗っているのだ。ちょっと頭が重いけど気にしないことにしている。

 あ、因みに竜って(原理は良く分かんないけど)ほとんど汚れたりしなくて、もし汚れても直ぐに清められて綺麗になるらしい。

 それでも一応、と言って清めの魔術(というものが光属性の魔術にあるらしい。お風呂要らずで節約できそうだよね)を自分にかけてから、あたしの頭に乗ってたけど。


「うん、そうだね」


 周りに広がるのは、この世界に来て直ぐに見た街の風景。

 出店は沢山並んでるし、人の笑い声も絶え間なく聞こえて、結構活気がある。

 日本の『シャッター街』と呼ばれる街も昔はこんな感じだったんだろうな、なんてふと思った。


「ねぇ、リー。あそこだけなんか騒がしくない?」

「うむ、そのようだな」


 街の中心には人々が集まっていて何やらザワザワしていた。

 …本当、何だろー?何かのイベントかな?

 あたしは好奇心に負けて、いつの間にか、人の群れを掻き分けて騒ぎの中心へと足を進めていた。


「ちょっとすみませーん」


 ずぼっと人の波から飛び出ると…目線の先には立派な馬車。

 何だか偉い人が乗っていそうだ、うん。

 というかアレに乗ってるのが庶民だったりしたら、もうこの世界絶対おかしいもんね。

 生活水準高過ぎだよ!?みたいな。

 宝石みたいなのがゴロゴロと付いているわけでもないのに、凄くお金かけてるって分かる。

 これぞ、職人の業っていう感じ?

 あたしはその馬車に釘づけで、周りの様子なんてこれっぽっちも気付いてなかった。

 いつの間にかザワザワとしていた街の人たちが一人又一人と声を潜めていき、辺りには重苦しい雰囲気が漂いつつある。

 そんな中、声を発したのはあたしでもなく、リーでもなく。ましてや、群がる村人でもなかった。



「――貴様は何者だ」



「ふぇ?」


 突然、直ぐ隣からかけられた声に、あたしは間抜けな返事しか返すことが出来なかった。

 声の主は背が高くて見上げなければ顔色伺えない程。

 赤髪に薄赤色の瞳を持つ、騎士。

 騎士っていう言葉がピッタリな人だと思った。

 中世風のピシッとした騎士服を着こなし(これが日本だったら完全にコスプレ野郎にしか映らないけど)、腰に差してある鞘に入ったままの剣を掴み、そして意志の強い瞳であたしを見据える。

 顔を覗き込むと、普通の女性では太刀打ち出来ないであろう顔をしていたことに気付いた。

 つまり、イケメンってやつ。

 …うわ~王道だよ。美形の騎士さんだよっ。

 赤髪(薄)赤瞳だし、何だか目付き悪いし、俺様っぽい。うむ、これも王道。

 なんて目をキラキラ輝かせているあたしとは対称的に、赤騎士さんは殺気を込めた目であたしを見下ろした。


 リーはあたしの『相手がどんな奴でも手を出されるまでは大人しくしてて』という約束をきちんと守ってあたしの頭の上でじっとしていた。

 …え?いつそんな約束したのかって?

 街の外れから此処に来るまでの間だよ。

 周りの人から見たらあたしは一人で喋っているそれはそれは変な人に見られていたことだろう。

 実際、訝しげな視線を何度も感じたし。


 って、そんなことどうでも良くて。

 あたしは直ぐ傍にいる赤騎士さんについて考えを巡らす。

 その間、リーは赤騎士さんに『何かしたら命はないと思え』と目で牽制していた。

 勿論、あたしはそんなこと気付くはずもなく。

 もし、気付いていたらこう思っていたことだろう。


『リーの姿見えないんだから目で牽制しても意味ないじゃん』、と。





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