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25#銀色のロザリオ

何でか今回長いです…。でーとらしいでーとじゃないですが、あの人とふたりっきりでお出掛け。

「我が主の命でなければ、こんなところでフラフラなどしていなかったでしょうに」


 顔に笑みをはりつけながらそうぼそっと呟く彼は勿論あの人で。

 無理矢理同行させた(王様にお願いした)身としては、少々申し訳なくも思うが、それ以上にあたしとの『お出掛け』という名の視察にそんなにも拒否反応を起こすとは何様だ。火の玉でも投げ付けてやろうか。ふとそう思ったら。


「――あ、」


 ぼっと音がして、手の平にハムスター大の丸い球が浮かんでた。どうやらあたしは、イメージするだけで簡単な魔術を使えるようになったらしい。便利は便利になったが、危険過ぎる。

 火の玉をこのままにしておくわけにはいかないが、当初の予定通り彼に投げ付けるわけにも行かない。……さて、どうしようか。

 火の玉で思い付くイメージを並べてみる。

 火。爆発。火の粉。発色……?

 一つのイメージが思い浮かぶ。それなら、危険は半減する……はず。


「『我願う。世界の再構築と我の持つイメージの創造を』――」


 新しい呪文。その呪文を聞いて、焦った顔で振り替える彼。手の平で形を変えていく赤い球。それを感覚で感じ取りながら、自分の流れ出た白い白い魔力をぼーっと見つめるあたし。

 頭の中では一つのイメージが紙面上に描かれていて、いつか見たあの設計図が細かく記されている。

 赤、青、赤、黄、緑、青……その設計図に次々と記入されては、それが手の平の球にも伝わっているのか、小さな丸い玉に次々と分離していく。

 子供のお遊びのような無邪気さに彼はどうしていいかも分からず、とにかく街の住人には被害をかけまいと自分とあたしを包む結界を構成しようと試みた。


「『内なる護り、何故(なにゆえ)私に害をもたらそうか。戒め(いましめ)の鎖、何故私に楯突こうか。私が望むのは、強固なる囚われの(かご)。強靭なる周囲(せかい)を護る不可視の砦。姿を現せ、(すい)なる壁よ』!」


 声高らかに叫ぶ彼。

 コンマ何秒かという速さで構成されていく結界。

 未だ完成しえない球。

 そして、瞬き一つせず硬直しているあたし。


 彼が結界を完成させた頃、急速に弱まる光と浮かび上がる紙のようなものがベタベタと張り付けられてた球。それを見たあたしの口角が微かに上がり、彼はあたしが創った球を訝しげに見つめた。


「セナ、さん…これは…」

「あぁ、危険物じゃないから大丈夫。焦って創った結界、必要ないよ」


 そう言って結界に触れてみる。リーが創った結界とは違い、弱々しい波動。しかも、何だか薄っぺらい気もする。ま、即興もんだし仕方ないか。


 結界から彼に目線を移し、手の平に浮かんでいる球を彼に差し出して言う。


「これ、預かってて」

「これは本当に危険物ではないのですか…?」

「リウナスってばあたしの言うこと信じられないの?…あ、でも火に近付けないでね。爆発しちゃうから」

「……っ!?」

「水にも近付けないでね。しけちゃうから」


 無言で水を集めようとしていたリウナスににこっと笑う。水でもかけて、あたしの苦労を水の泡にでもしたら、いくらリウナスでもお仕置きだからね。

 リウナスの身体がビクッと微かに揺れた。










「いらっしゃい」


 ふと目に留まった店の店主らしきおじさんが軽やかに声をかけてきた。

 どうやらこの店は骨董品を売っているらしい。奇抜な布切れや何が描かれているのか良く分からない絵、年モノであろう壺など在り来たりなものが整然と並べられている。

 その中にポツンと何の細工もなされていない自然な木目が見て取れる茶色い木箱が一つ。その木箱には大きな鍵穴がついていた。


「あの…これは……?」

「ん?この箱かい?」


 そう言って店主はその木箱を手に取り、上下に軽く振った。カランカランという音が微かに聞こえた。


「何かが入っているのは分かるんだけどね。この箱をの鍵が無い上にどうやっても開きやしないんだよ」

「この箱を壊して中身を取り出そうとは思わないんですか?」

「いやぁね、この箱、壊してしまうには何だかもったいなくてね。職業柄なのか、古くなったからといって壊すことも出来ず、このままにしているのさ」


 店主の話によると、この木箱、実はそうとう良い材木を使っているらしい。古くなってしまい、価値は殆どなくなったに等しいらしいが。


 じーっと木箱を見つめる。一目見た時から何故か心が惹かれていた。用もないこの店にふらっと立ち寄ってしまったのも、それが原因ではないかと思ってしまうくらいに。

 鍵のない、開かずの箱。その木箱に……否。正確にはその木箱の中身にどうしようもなく興味が湧いた。

 店主に許可を貰って恐る恐る触れてみる。魔力のような波動を感じた気がした。


「……これ、おいくらですか?」

「そうだねぇ…お嬢ちゃんになら1リンでいいよ」


 ニコッと笑う店主。

 この国の通貨は『リン』というのだろうか。なんて思いつつ、静かに隣に佇んでいたリウナスに目配せ。リウナスが店主に張り付けた笑顔で紙を一枚差し出した。


 これは後から調べて分かったことだが、この国の通貨は『センツ』と呼ばれるもので、安い方から『リン』『タン』『アン』『ミン』が『センツ』の前に接頭語としてつくらしい。『センツ』という語は略されることが多い。つまり、1リンは正式には1リンセンツと呼ばれ、商品の最低価格だということだ。



 服を売っている店も何店か回り、何着か買ってみた。基本暗い深めな色の服を選んでみたが、ちょいちょいデザインが気に入った明るい服も混じっている。町娘のような(実際そうだった)服ばかり選んだため、リウナスに『そのような服で城で過ごすおつもりですか?』と嫌味混じりな呆れた口調で咎められたが、無視した。

 色んな店を回って、値段を聞きまくった(値札が読めなかったので)ためか、円での換算が出来るようになった。

 1リンは百円。1タンは壱万円。1アンは五万円。1ミンは百万円。ざっとこんな感じ。


 荷物をリウナスに持たせ、帰路に着く。木箱だけ自分の腕に抱え、どうやって中身を取り出そうか悩みながら、リウナスと二人ゆっりと歩いていた。馬車を用意すると言われたけれど、目立つのはもうこりごりだったため、丁寧にお断りさせて頂いた。


 今更だが、髪と瞳の色はリーによって茶色に染められている。リーに頼んだら快く引き受けてくれた……が、染め終えて一言。『セナには黒が似合うな』。……好きで染めたんじゃありませんっ。


 というか、良く考えたら、木箱開けるの、魔術でどうにかできるんじゃないだろうか。


「リウナス、ちょっとそこの木陰で休むよ」

「……はい?」

「いいから、休むの!これからこの木箱あけるんだなら」


 木陰に入って、木箱を地面にそっと置く。その前に座ったあたしは右手を木箱にかざした。ゆっくりと目を瞑り、頭の中でイメージを浮かべながら言葉を紡ぐ。


「『我願う。世界の再構築と我の持つイメージの創造を』」


 昔見たブランドのキラキラの宝石箱。この良質らしい材木で造られた木箱がその形になったら嬉しいなぁ。なんて頭の片隅で思ってたら。

 木目が見えていた茶色い木箱の面影がなくなり、白い細工の綺麗な宝石箱が蓋が開いた状態で地面に置かれてた。蓋を開けるだけだったのにどうやら、やってしまったらしい。

 今日は魔術を使いすぎだ。……反省。


 白い宝石箱の中を覗き込むと、これまた綺麗な銀色のロザリオが顔を覗かせていた。チェーンを手に取ると、太陽が銀に反射してキラキラ光る。ロザリオ本体を掴んだ時、魔力の波動を感じた。

 隣にいたリウナスは小さく『これは…』と呟いていた。


「リウナス、これが何なのか知ってるの?」

「……憶測ではありますが…『魔石』ではないかと」

「魔石?」

「はい。とても希少な鉱物です。私も一度しか見たことが無いので、実際のところがどうなのかは知りませんが、字の如く魔力を持ち、魔力の殆ど無い者でも魔術を使えるようになる、という言い伝えが残っていたりするようですよ」


 凄い石らしい。あたしはこのロザリオの見た目が気に入っただけだけど。

 首にロザリオをかける。――うん、気に入った!


「ただ……」


 リウナスの話はまだ終わってなかったらしい。


「ただ…魔石は使用者を選ぶと聞いたことがあります。魔石に認められなかった者は、使用することも触れることすら出来ないとか。恐らく、そのために木箱に封印されていたのではないでしょうか」

「ねぇ、リウナス。魔石を持つ人は魔術を使えるようになるとか言ってたけど。じゃあ、元々魔術を使える人には何か特典あるわけ?」

「魔石自体が希少な上、認められる者は更に希な為、あまり詳しくは分かっていないようなのですが……」


 リウナス曰く、魔石は魔力を蓄めることの出来る唯一のモノである。一度でも蓄めておけば、その蓄積された魔力をいつでも使用者は使うことが出来る。

 リウナス曰く、魔石は使用者の意思に応え、自分の意志で魔術を使える。

 リウナス曰く、魔石は心の悪しき(あしき)者を使用者とは認めない。因みにあたしは主人として認められたらしい。触れることが出来たのが、証拠。


 リウナスの話を聞いてふと思う。魔石に意志がちゃんとあるなら、意志疎通が出来ないか、と。


「これからよろしくね、ロー」


 ロザリオに話し掛けてみたら、頭の中でテレパシーのように『はい』と澄んだ男の声がした。

 驚き過ぎてポカンと口を開けたらクスクスと笑うロー(ロザリオ)の声が聞こえた……気がした。

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