23#本当は誰よりも理解していたのに
お久し振りです。このままのペースを維持してしまうと、完結がいつになってしまうのか…。
完結までは無理矢理持っていきたいなぁ…。
「ダ、ダズルスさん…」
腰を折って優美に挨拶する彼に見惚れてなんていられない。
「お美しいですよ、セナさん」
ありふれた社交辞令の言葉が、ダズルスさんの声によって紡がれる。
それは正に、危険信号…いや起爆装置だった。
周りからの騒めき。耳が良いと自負しているあたしにとって煩わしいことこの上ない。
つい、原因となっているダズルスさんを睨みそうになってしまう。…さすがに皇子相手に実行することは出来なかったけれど。
ダズルスさんが一言喋るごとに周りの美女の視線が痛い。彼女達の視線は『何ダズルス様に色目使ってんだ、コラ』と殺気が籠められていて、実を言うと王様を狙った襲撃者より怖かった。
色目なんて使ってませんよ。寧ろ、使い方知りませんよ。なんて目で語ってみても、誰も反応してくれなかった。
ただ一人空気の読めない…いや、読もうとしない少年を除いて。
「ちょっと、僕のセナに色目使うのやめてよねっ」
隣いたカレンが一歩前に出て言う。膨らましている頬はとっても可愛らしい。可愛らしい……が。
「セナさん、この国の食べ物を良く知らないとか。よろしければ、お教え致しますよ」
「だから、セナは僕のものなのっ!」
「今日の料理は、料理長自ら腕によりをかけたものばかりだとか」
「兄さん」
「そういえば、セナさんも料理がお上手だとか。是非今度ご馳走して下さいね」
「兄さんっ!」
ああ、哀れ。
ダズルスさんに相手にされてないばかりか、空気のように扱われてる…。
それにしても、ダズルスさんはきっと腹の中が真っ黒だ。リウナス程じゃないだろうけど、相当真っ黒。カレンを苛めて楽しんでるし。
ダズルスさん、目と口元が笑っています。寧ろ、笑いたいなら堪えてないで笑ってしまいなさい。カレンの必死な姿は確かに愛らしいですが、それを見るためにカレンを苛めるのは止めてくださいって何度か言ったのに。カレンの機嫌を直すのは大変なんですよ?
ダズルスさんは相当弟が大好きなお人らしい。『ブラコン』という俗な言葉を教えてみたら、直ぐ様『では私はブラコンの一人ですね』と輝かしい笑顔で言われた。……負けた。
「ダズルスさん」
流石に諫めようと、ダズルスさんに声をかける。
カレンが可哀想だし…。
なんて考えていたら、ドスンと床が揺れた。パリンと窓が割れ、遠くで爆発音。
――危険。
あたしは現在の状況を判断しようと、周りを見渡した。
人々の混乱。逃げ出そうとしている貴族や、震えてその場に立ち尽くす者。剣を抜いて、襲撃者を探しているがはっきり言って邪魔になりそうな坊っちゃまタイプがいれば、泣き叫んでヒステリックになるお嬢様もいる。
そんな人々を尻目にあたしは騎士や魔術士の様子を見ていた。統制が隅々まで行き届いていると分かる配置。勿論、騎士や魔術士は今の状況を予測していたのか、混乱など起きようはずもなく。素早い動きで人々を守りつつ、静めていた。
襲撃者の狙いは…?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
王様を亡き者にすること?王座に着くこと?はたまた、国に混乱を招くこと?
どれもピンとこない。人々に慕われている王様を狙う理由としては弱い。
王様を探した。奥の方で、ガルロとリウナスが複数の敵と戦っていた。素人のあたしでもガルロとリウナスが強いのが分かった。二人の心配は取り敢えず必要なさそうだ。……だが、ガルロとリウナスの近くに王様がいた。
「兄さん」
あたしが王様の元へ行こうかと思案している横で、カレンが決意を秘めた瞳で兄を見つめていた。
「どうしました、カレスティア」
「僕は…父さんの所に行ってくる」
「正気ですか?」
「うん」
「セナさんがいる此処にいた方が安全であることは分かり切っているのに?」
「それでも」
ふと耳を傾けた二人の会話。カレンが王様の元に行くという。
駄目だ。襲撃者の目的が分かっていない。王様だけでなく、カレンも危ないかもしれないし、下手したらカレンが人質にとられ、状況が悪くなるかもしれない。
あたしは肩に乗っているリーに一言声をかけた。
「気絶させて」
緑色の魔力が見えたと同時にカレンが床に倒れた。倒れた時の衝撃も風の力によって緩和しているはず。
「ダズルスさん」
「…っ、何でしょうか、セナさん」
「カレンは気絶させました。……王様の元に行かれると大変だったので」
よほどカレンのことが心配だったのか、気絶と聞いた瞬間、カレンを抱き締めて呼吸確認を行っていた。呼吸を確認するとほっと息を吐き出している。
「今から言うことを聞いてください」
「はい」
「今、襲撃者に襲われている状況ではありますが、状況は良い方だと思います。ですので、ダズルスさんにはして頂きたい事があるのです。勿論、ダズルスさんとカレンには強固な結界を張らせて頂きますのでご心配なく」
あたしはダズルスさんに一つだけお願いを言って、リーに結界を張ってもらった。本当はあたしが結界を作るつもりだったけど、リーが『我が』と自ら申し出てくれた。
あたしは一先ず、王様を助けて匿う。襲撃者を捕らえる事は他に任せよう。
あたしは前にしたリーとの会話を思い出す。あの時、初めて魔術の存在を意識した。初めて魔術を使う方法を知りたいと思った。
「『メテオストライプ』の能力は前に話したが、今回の現象はその一端だと思われる。セナはあの時、何か考えなかったか?」
「えー…っと…『早く着け』って」
「それが原因であろう。無意識に『時間が止まれば良い』という思考が働き、現象としてこの現実世界とは異なる異次元を創りだしたのだ」
リーは『セナなら使いこなすことも難しくはないだろう』そう付け足してから口を閉ざした。
自分にどれだけの力があるかなんて分からない。未知数なこの力。使えるなら、それで助けることが出来るなら。そう思って、実はその日から一人で魔術の練習をこなしてた。
手順なんて知らなかった。ただ強く思う、その思いが力になることは何となく理解していた。
――そして今、それが試される。
「今、必要なこと。……王様の安全、襲撃者の無力化、そして……」
「ねぇねぇリー。魔術に呪文って必要なの?」
「いや。だが、呪文を唱えることによって、魔術の力を高めたり、魔術の効率をあげることが出来る」
「決まった呪文は?」
「ない。その魔術を使えるようになると、勝手に口から出てくるはずだ」
「ふーん…便利だね」
――呪文なんて知らない。やり方なんてまだ分かってない。
それでも。やらなければならない。いや、あたしがやりたいのだ。
――だから神様。どうか力を……。
目を閉じて願えば、頭の中に聞こえてくる声。その声と重なってあたしの声がエコーのように知らない呪文を紡ぎだす。
「『我、世界の道を示す者。定める者。我が願う。世界の安定と対象者の安全を!』」
――あたしの世界全てが真っ白に染まった。