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21#イケメン二人のエスコート

 ――コンコン

 部屋に戻ったあたしの耳に扉を外側から叩かれる音が聞こえてきた。

 この叩き方は…ルリシアさんだ。特徴的なわけではないのだけれど、優しく、でもちゃんとあたしの耳にまで届く大きさの心地好いリズム。何度も何度も聞いているのだから間違えるはずが無い。


「セナ、来たようだぞ」


 リーが扉を一瞥して言う。


「うん…」


 きっとルリシアさんは、今日あるという晩餐会の衣裳合わせにきたのだろう。それが分かっているから出ず辛い。寧ろ、このまま出たくない。

 そう思ってぐずぐずしていると、扉の外から声が掛けられた。


「……セナ様、いらっしゃるのは知っております。早く開けて下さい。開けないならこちらから…」


 扉の隙間から黒いものが入り込んできているのが見えて、慌てて扉を押し開く。

 開いた扉の先には、にっこりブラックスマイルのルリシアさんが仁王立ちしていた。

 ルリシアさんは実は腹黒い。

 この一週間で身に付いたこと、それは…。


「では、セナ様。このドレスお召しになって下さいね?」

「はっ、はい」


 ……ルリシアさんには逆らってはいけないということ。

 リウナス以上のブラックスマイルをかまされて、逆らえる者がこの世にいるのだろうか。いないに違いない。良く良く話を聞いたら、リウナスとルリシアさんは従兄弟なんだとか。そりゃあ、同じブラックスマイル装備してても不思議じゃない。

 あたしはルリシアさんには逆らえず、渋々とアリシアさんが用意してくれたドレスを身に纏ってみた。

 群青色を主色としたドレス。淡い水色の沢山のレース。肩は出されていて、袖の部分は二の腕の所で水色のレースリボンによって絞れられている。

 これは…ドレスというよりロリータワンピースに近いような気がする。ロリータワンピースは肩露出しないけど。

 腕には触り心地の良い群青色の…花嫁さんが付けるような手袋。靴下はニーハイ…と言いたいところだけど、残念ながら裸足。靴はこれまた群青色のヒール。

 黒く長いあたしの髪はいつの間にか緩く巻かれていて、何をしたのか耳の下辺りで結ばれた群青色のリボンがひらひらと揺れていた。

 上から下まで、青系で統一されている今日の服装は、派手すぎて笑えない。しかも似合わないというオプション付き。

 これ……完璧引かれるよね?


 そんなことを考えていたら、隣から『とても良くお似合いです!』という声が聞こえてきた。ルリシアさんだった。


「セナ様、これでカレスティア様もダズルス様も、勿論他の殿方もイチコロです…ふふふ」

「………」


 ……返す言葉がなかった。


「ところでセナ様」

「はい」

「そちらのネックレスはカレスティア様からの贈り物ですね?」

「そうです。今日はずっと身に付けてろって」

「ふふふ……仕方ないですよ。セナ様は自覚が全く無いんですから」


 口元に手を当てて上品に笑うルリシアさん。その仕草はメイドというよりも、貴族のお嬢様のよう。

 …いや、何笑ってんですか。自覚って何の?

 ルリシアさんはあたしの疑問を華麗にスルーしながらとんでもないことを教えて下さった。


「自分の瞳の色の宝飾品を恋い慕う異性に身に付けてもらう。そうすることで、その相手は自分のものだと主張するのですよ」


 『因みに今セナ様はがお召しになられているドレスもほぼ同じ意味ですね。カレスティア様ったら、ドレスだけじゃ心元ないのですよ』だなんて笑って言うルリシアさんに微かに殺意が湧く。

 リーを見やると、『うむ。この国には昔からそのような風習が残っていたな』と追い討ちをかけられた。


 あたしは窓の外を見つめて黄昏る。それしか出来なかった。


 しばらくして、コン…コン…と遠慮がちに扉が叩かれた。こんな叩き方は聞いたことが無い。

 誰だろうと思って扉をゆっくりと開くと、其処には。


「……セ、ナ…?」

「うん、そうだけど?」

「……っ、」


 顔を真っ赤に染めてふっと視線を逸らすガルロと軽く目を見開いているリウナスがいた。

 いくら似合ってないからって、人の顔を見てぼけっとしたり、視線を逸らすのは止めて欲しい。ちょっと傷つく。


「本当にセナさん…ですか?」

「そうだって言っているでしょう?」


 リウナスまで疑うのか。

 それ程までに有り得ない格好に仕上がっているのだろうか。軽くされた化粧のせい?

 そういえば、二人は何しに来たのだろうか。あたしを馬鹿にしに来た…わけではなさそうだ。

 二人を見つめると、二人の視線とかち合った。……素早く目を逸らされた。

 あたしは気にせずにジロジロと観察することに決める。

 二人とも白い軍服を着ていた。宝飾品がじゃらじゃらと付いているわけではない。それなのに、その軍服は神聖な場、つまり式典などの時に着るようなものだとすぐに分かる。汚れ無き純白。軍服であるはずのそれは、花嫁の傍に立つ新郎が着るタキシードのよう。

 あぁ。二人が美形だからだ。イケメンだから、その顔に伴って格好良く見えるんだ、なんて妙に納得するあたし。


「二人も今日の晩餐会に出るの?」

「え、えぇ。今日の晩餐会はセナさんの紹介も兼ねていまして、貴族の方が沢山出席されるので、私達も護衛として出席させて頂くんです」

「へぇ。護衛、ねぇ」


 黒幕を引き摺りだすためとはいえ、貴族の方々を巻き込もうとしてるけどいいんだろうか。

 黒幕がもし本当に現れるなら、危険及ばないとは言いきれない。

 あたしはリーをちらっと見やる。『リーも来て』とアイコンタクト。伝わってくれるか少し心配だったけど、リーはちゃんと意味を汲み取ってくれたらしく、パタパタと飛んできて肩に乗っかった。

 因みに【同化の結界】は未だ発動中で、現在のリーの大きさは手乗りサイズ。

 小さなぬいぐるみのようで可愛らしい。ここ二、三日はいつもこのサイズだ。あたしの肩に乗るのに適当な大きさなんだとか。

 あたしとしては、小さ過ぎて、おもいっきり抱き締めると潰してしまいそうなのが不満ではある。


「何かあったらよろしくね」


 小さく呟く。だが、リーには聞こえたようだ。

 コクンと頷くリーが見えた。

 これで何かあっても大丈夫だろう。


 ガルロと飛んできてリウナスが頼りないわけじゃない。寧ろ、頼りにしている。

 二人はローレンス国の騎士団と魔術士団の隊長だと、一番強い人達なのだと散々聞かされた。

 何で団なのに団長じゃないのだろうとその度に疑問に思いはしたけど、此処の人達が何も思ってなさそうだったから言うのは憚られた。

 この国一の騎士と魔術士。頼りにしないわけが無い。

 二人は強い。それはあたしにだって分かる。

 でも、二人よりももっと強いであろう存在が此処にいるから。頼るとか頼らないとか、そういう問題じゃないんだ。

 リーだったら、きっと。

 そう思ったって仕方がない。

 だって。リーだったら、きっと。

 カレンもダズルスさんも王様もルリシアさんもガルロもリウナスも他の人達も、そしてあたしも。

 きっと、護れる。


 だから何かあったら助けて…いや、手を貸してね。

 そう心の中で伝えた。伝わらないだろうけど。


「……二人とも、気を抜いちゃ駄目だよ?」


 何かが始まる予感。

 何かが終わってしまう予感。

 当たらなければいいのに。でも、あたしの予感は良く当たる。

 黒い闇が足元に忍び寄ってきているような気がした。


 『あぁ、分かってる』とガルロ。『はい。危なくなったらセナさんも手を貸して下さいね』とブラックスマイルのリウナス。

 笑顔で脅されるけど、あたしはそれを完全無視。

 ルリシアさんのブラックスマイルの方が何倍も怖いことに気が付いた。


 ルリシアさんはあたし達を見て優しく微笑んでいて、リーはいつものように目を細めてた。










「さて、そろそろ行きましょうか」


 そう言ってリウナスはガルロと共に手を差し出してくる。

 リウナスは右手、ガルロは左手だ。

 あたしは一瞬戸惑ったものの、二人の手に自分の両手をそっと重ねる。

 二人の美形の護衛にエスコートされ、あたしは会場へと向かった。


 ――この晩餐会が終焉の始まりなのだと、確信のような予感を胸に抱きつつ。




 やけにあり得ない展開だな、と最近良く思います。

 まず、セナに一目惚れが多すぎる!どんだけ可愛い子ちゃんなんでしょうか。地球でもきっとモテまくってたはず。

 次。なくても困らない部分をだらだらと書き過ぎて進まない!

 最後? ローレンス国いつ出てくの!?早く黒幕締めちゃって次行こうと思います…が、もうしばらくはローレンス国編をお楽しみ下さいませ…



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