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19#過去~不意~

 ダズルスは薄く微笑むと、あたしを見つめておもむろに語り出す。

 隠された真実の扉がゆっくり開かれていく、そんな錯覚に陥った。










 ツレアはキリアマテスに一度捕まり、汚されてしまったものの不意を突き、逃げ出した。それにより、ツレアはローレンス国にたどり着き、サレストと出会った。


「ツレアはそう教えてくれた。私はお前の父親を口止めするはずだった。だが、テストア国の王に近付くことさえ出来ず…」


 そして、八年の時が流れた。


 ダズルスはその年月に覚えがあった。忘れようはずもない。

 母上が亡くなった、年。


「八年前、ツレアが死んだ年だ」

「…はい、覚えています」


「彼女、ツレアは病死ではなかった」


「……ならば何が死因で…?」


 ダズルスは驚きはしたものの表情にはさして出ないよう努める。しかし、声にははっきりと動揺が表れており、内心の荒れようは想像に固くない。

 サレストはその様子に伝えて良いものか迷い、それでも伝えなければ、と決意を新たにする。

 一方ダズルスはサレストの様子に気が付くことはなかった。他のことに気をとられる程の余裕がなかったのだ。


「――キリアマテスだ」


 サレストはたった一言。たった一言、それだけ言った。

 聡く賢いダズルスなら、これだけでも十分だろうと。

 実際、ダズルスにはこれだけで十分だった。母に何があったのか、何故死んだのか。今までの話を思い返せば、推察することは容易い。

 そう、母上は…ツレアはきっとキリアマテスの手に掛かって亡くなった。


「ツレアは…命からがらにこの国に逃げてきていた。私は彼女の存在をテストア国から隠した。だが、完全には無理だったのだ」


 商人か旅人か、そんなことは今になっても分からない。

 ただ確実に言えることは、テストア国にツレアの存在がばれてしまった事。


「ツレアが死ぬ三ヵ月前、私はリーリス国と国交結びにローレンスの国を離れていた」

「はい、覚えています」

「その時にツレアは、キリアマテスの従者によって呪いをかけられたのだ」

「呪い…?」

「闇の魔術を使った。その呪いは複雑で、光の魔術士でも解く事が出来なかった」


 ダズルスは瞠目する。

 光の魔術で解けない魔術?そんなの聞いたことが無い。

 いや、一度だけ聞いたことがある。しかし、信じることなど出来ようはずもない。

 『イレギュラー』。その言葉がダズルスの脳裏を掠める。

 『イレギュラー』とは魔力が高く、複雑な魔法陣を用いることによって他人の手では操作、つまり解除することが出来ない魔術を使うことが出来る魔術士のことだ。数が非常に少なく、公には知らされていない。

 因みにローレンスの国にはいない。ローレンス国一の実力を持つ若き天才、リウナスは魔力が非常に高く稀な存在ではあるが、魔法陣を用いて魔術を使用することは出来ないという。


「その呪いの制約は?」


 闇の魔術、その力の強い一部の者だけが呪いという魔術が使える。

 呪いは必ず制約が付く。それが小さいか大きいかは魔術士の力量と魔術の強さで決まる。

 制約が大きい程、魔術自体が強くなり、制約が小さい程、簡単に発動出来るが魔術自体は弱くなる。


「制約は…『相手は単数』であること。『術者の願いを一度でも叶えると直ぐに効力が消え去る』こと。そして…『相手が死んだ場合、同時に術者の命をも奪う』こと」


「……命と引き替えのリスクを持つ魔術、ということですか?」

「そうだ」


 術者の命を救う、ただ一つの方法。それは、術者の願いを叶えること。


「ツレアは自分に呪いをかけた従者を知っていた」

「顔見知り、ですか…」

「……ツレアの父親だ」

「…、!?」

「そして……自分と相手が助かる方法も知っていた」


 従者の願い、それはキリアマテスの願いと同じ。

 『ツレアがテストア国に戻ってくる』こと。


「…母上はそれを知りながらも…拒否した…?」

「……」


 無言の肯定。

 ダズルスは信じられない気持ちで父親であるサレストを見つめた。

 サレストはただダズルスと目線を合わせるだけ。

 どちらも視線を逸らそうとはしなかった。


 ふと、気付いたかのように急に口を開いたのは…サレストの方だった。


「ツレアを助けたかった。だが、ツレアはテストア国に意地でも帰ろうとしなかった」

「一度だけでもテストア国に入るとキリアマテスによって捕まってしまうと考えたのでしょう…」

「その通りだ」


 自分の命と自分の実の父親の命を失うと知っていてもツレアは頑として頷こうとはしなかった。

 日に日に、弱っていくツレア。その姿を一番傍で見ていたサレストは自分には何も出来ないのか、と自己嫌悪に陥っていた。










 そんなある日、ツレアがサレストを呼んだ。

 サレストはその時、執務室で執務をしている最中だった。


「どうした、ツレア?」

「貴方にお願いがあるのです」

「何だ?」


 サレストは出来る限り叶えてやるつもりだった。

 ツレアが死んでしまうことはほぼ確実。

 だからこそ、ツレアが願うことならばどんなに無謀な願いでも叶える、と。叶えてみせる、と。


「ダズルスには…あの子には二十になる前に全てお話してあげてください」

「……お前はそれで良いのか?」

「はい、お願いします」

「カレスティアには?」


 カレスティア。

 七歳になったばかりの二人の愛の結晶。

 カレスティアとダズルスは私が守るべき宝。そうサレストは考えていた。


「カレスティアに話すべきかそうではないかは貴方の判断に任せます」


 『ダズルスとカレスティアをお願いしますね』

 最後にそれだけ言って微笑んだ。

 その数日後、ツレアは静かに息を引き取った。

 穏やかな最後であった。










「これが王妃、ツレアの秘密。ローレンス国の隠された真実です」


 ダズルスはそう締めくくった。




サブタイトル微妙かな~と思いつつ。…だって、呪術とか死因とかにしたら内容推察容易いですし。。

アポロ食べながらポチポチ。時間があるって素晴らしい!



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