18#過去~父親~
「私はな、ツレアが大切だったんだ。何よりも大切にしたかった」
サレストはダズルスにそう言って悲しそうに笑った。
ダズルスは知らなかった、いや知りたくないであろう真実が徐々に近づいてきていることに気が付く。それでも、黙って耳を傾けるしかなかった。
「ツレアがローレンス国に来たのは二十年前ってとこか。ツレアが来て私と出会い、それからすぐの事だった。――お前がツレアの腹の中にいることに気付いたのは」
「……」
「私とツレアは恋人ではなかったが、既に心を許しあっていた。私はツレアが一番大切だった。だから、お前を私の子として育てよう、そうツレアに言ったんだ」
誰も疑わなかった、そうサレストは続けた。
ダズルスにはまだ何もかも捨てて愛せる程の相手を見つけてはいない為、何となく、そう何となくしか分からなかった。それでも、父が母を本気で愛していた、否、今もずっと愛し続けていることは伝わった。
「私はツレアの子なら自分の子でないと分かっていても愛せる自信があった。しかし私は、自分の子ではないと確信しても、誰の子かなど知らなかった。だから、問い掛けたのだ。お前を産んで二年程たったある日」
「ツレア、そろそろ教えてくれ。ダズルスの父親は誰なんだ?」
「……っ、」
「教えてくれ。あの子の為にも」
サレストは、ツレアに真実を言えない理由があると分かっていた。それを知りつつも、聞き出すことはサレストには辛い。ツレアが言いたくないのなら、無理に聞き出すまいと思ってこの問題を先送りにしてきた。
しかし、そうも言えなくなってきた。サレストとダズルスの血が繋がっていないこと、それを敵国に知られてしまえばこの国を揺るがされかねない。否、確実に揺らぐ。
だからこそ、ダズルスの本当の父親に口封じをして漏らさないようにしなければいけないのだ。
ダズルスの本当の父親なら、サレストとダズルスの血が繋がっていないのではとうたがり出しても不思議ではない。
宰相のカートレズツと話し合った結果、そういう結論に達した。
ツレアが何を隠したいのかは知らない。知りたくもない。それでも、このローレンス国の王だから。上に立つ人間だから。
「……分かりました。いつかは貴方にも知れることでしょうし、お話致します」
「……ああ」
「私はこの国に逃げる途中、一度キリアマテスに捕まったのです。何故か大変怒っていて近衛兵達ですら止められないほどでした」
キリアマテスは、ツレアが自分の元から去ろうとしているのが気に食わなかったのか。ツレアが自分の傍を離れることなど考えたこともなかったのだから。
ツレアはキリアマテスから離れようと暴れる。
キリアマテスはツレアを押さえ付けて引き寄せる。
どちらの方に傾いたのか、それは誰にだって察することが出来るだろう。
女の非力な力で男に勝てるはずが無かった。
「はなっ、して!」
「何処へ行く?お前は俺のものだろう」
ツレアはキリアマテスに捕まっても尚、離れようと暴れていた。
それにより、キリアマテスは先程以上に苛々し、声色にもはっきりと表れる。
キリアマテスの冷たい怒りの声にビクッと一瞬反応したツレアだが、やはりおとなしくしようとはしなかった。
「お前はいつまで暴れるつもりだ?」
「…っ、貴方から逃れるまで、よ…っ」
「…そうか。おとなしくするつもりは毛頭ないわけだな」
「……あたり、前…!」
「ならば仕方がない。多少強引でも許されるだろう?」
冷笑を零すキリアマテス。
その冷たさは生まれた時からの付き合いであるツレアでさえ見たことがないものだった。
キリアマテスはふいにツレアを掴む力を強め、彼女を冷たい地面に押し付けた。否、それは押し付けたのではない。押し倒した、人はそう呼ぶ。
地面に仰向けになったツレア。その上にまたがるキリアマテス。
何年も何年も無意識にセーブしていた『ツレアを傷付ける』という行為。それは、今になって破られようとしていた。
男を知らないツレア。それでも、これから行われるであろう行為には覚えがある。
キリアマテスが夜な夜な美しい女達を招いてしていること。ツレアにはそれが汚らわしい行為にしか思えなかった。だから、ツレアはその行為を好むどんな男、それがキリアマテスであっても心の底から嫌悪していた。
「暴れても構わないぞ?それはそれでそそる」
その言葉通り、ツレアは泣き叫び、キリアマテスはただそれを笑って見ていた。
「……私はキリアマテスの手によって汚されました。その一回、たった一回の行為で…ダズルスは…」
涙を流し、辛そうに話すツレアはそれはそれで美しかった。不謹慎ではあったが、サレストはツレアの涙に目を奪われた。
「そうか…辛い話だったろう。済まなかった」
サレストは優しく、それでも力強くツレアを抱き締めた。ツレアをツレアの過去ごと受けとめるかのように。
「キリアマテスは母上を踏み躙った。それが私には許せなかったのです」
ダズルスはそう言って顔を伏せる。
母親譲りであろう群青色の瞳は、忙しなく動いているのが目にとれた。
あたしもゆっくりと視線を床に向ける。この後の展開は予想範囲内。それでも、出来れば聞きたくない。…いや違う。あたしはカレンには聞かせたくないのだ。
カレンにも聞く権利があることは百も承知。カレンが選ぶことであることも理解している。
……カレンは、聞きたいのだろうか。
――母親の最後を。
さて、何と言いましょうか…すみません!過去編もう一話続きそうです…orz
今回のお話、いえ今回のお話も、ぐだぐだ。良く分からんものとなりました。
つーか、襲っちゃっていいのか。え?年齢制限に引っ掛かる?これだけで?と悩みつつも変えないでそのまま投稿。大丈夫です。メテオはそっち方面に行くことはありません。…だって、作者が年齢制限に引っ掛かっちまう←