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11#皇子にこんなことさせてしまうとはさすが神様。

 この世界に飛ばされてから2日目の午後。


「うん、昼も豪勢だったなぁ」


 お昼はものすごく、やり過ぎだろと思う程大きい長テーブルが真ん中にどんと置いてある部屋に呼ばれた。

 その部屋でご飯を食べるらしい。

 その部屋には王様とカレン、そして群青色の髪と瞳をした青年がいた。


「ようこそ、セナ」

「気兼ねなく、たくさん食べてくれ」


 カレンと王様がそう言って、着席を促してくれている。

 あたし以外の3人は既に着席済み。


 群青色の髪と瞳をした青年が微笑んでいた。

 良く見ると、王様やカレンの面影がある。

 それとこの部屋に普通にいることで彼が第一皇子ではないかと思った。

 その予想は当たっていたことが直ぐ分かったのだけれど。


「はじまして、セナさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「お好きにどうぞ」

「ふふ、了解致しました。私はこの国の第一皇子、ダズルス・ラクティスヘレストと申します。まぁ、第一皇子も名ばかりですけどね」


 名ばかりという意味が理解できなくて、首を傾げる。

 すると、皇子もあれ?とした顔をした。


「もしかして、知りませんでした?私、この国の継承権放棄しているんですよ」

「え?」

「おや、本当にご存じなかったのですね。このローレンス国は弟のカレスティアが継ぐことに決まっているのです」

「……どうしてあなたが継がないんですか?」

「……父を救ってくださったセナさんになら教えても構いませんよ。夕食後、私の部屋へお越し下さい。其処でお教え致しましょう」


 コクンと頷くと、皇子はまた優しく微笑んだ。

 同じ、私&敬語キャラでもリウナスと違って裏がなさそうだと思った。










「そして現在に至る、と」


 一人、あたしの滞在用に用意された客室の一室で呟いた。

 因みに昨日案内された客室とは違う部屋である。昨日よりも豪勢というか…金のかけ過ぎというか…まぁそんな部屋である。

 ……出来れば昨日と同じ部屋が良かったなんて、ニコニコして案内してくれたルリシアさんには言えなかった。

 時間を見計らって、カレンにそれとなく王様に頼んで貰おうと思っていたりする。……だってカレンが一番言いやすいし。


「セナ、午後の予定はないのだろう?何をする」


 寝室の方から声が聞こえてきた。リーだ。

 リーは未だ寝室のベッドの上にねっころがっているらしい。相当、此処のベッドが気に入った様子。

 この部屋に案内されて直ぐ寝室に走っていってベッドに飛び込んでいたのは記憶に新しい。

 小さな白い竜がぱたぱたと走って、ぽすっとベッドにダイブ。可愛すぎる。


「う~ん…城下町が見たいかな」

「城下町か。この国を知るには適しているな」

「……リーも行く?」

「いや、我は此処で待っていよう。結界は離れていても構成可能だからな。……だが、何かあったら遠慮なく我の名を呼べ。直ぐに行く」


 呼べと言われても…。離れていていたら、聞こえないと思うけど。

 あたしの考えていることが伝わったのか、リーは自分の耳…正確には自分の耳に付いているピアスを指差して言った。


「これが我とセナを繋いでくれている」

「んー無線みたいなもん?」

「…無線、というのが良く分からんが、セナがそう言うなら、そうなのだろう」


 お前はあたし至上主義者か。

 あたしが、空は赤いと言ったら空は赤いのか、なんて馬鹿な事を考えていた。

 リーが普通じゃないなんて分かっていたことじゃないか。寧ろ、竜に普通を求めるなんてしちゃいけないだろう。


「あー…そうなんだ」


 としか言えないよ。


 結局、リーは行かないらしく、あたし1人で行くことになった。










「1人で城下町散策かあ。迷いはしないだろうけど、何があるかさっぱりだ。やっぱり城下町に詳しい人が一緒にいた方が何かと得だろうなーっと…あ、カレンだ」


 1人お城の出口を目指して歩いていたら、前方からカレンがやってきた。

 タイミングが良過ぎだ。誰か、仕組んだか?


「あれ、セナ。何処か行くの?」

「城下町へ行こうと思…」

「僕も行く!」


 ――あぁ、やっぱり。

 この子あたしの言葉を遮ってまで意思表示しちゃったよ…。

 確かに、案内役は欲しいと言ったけど、その案内役に皇子起用しちゃって良いんですか、神様。寧ろ、これが神様の意思なのですか。


「……うん、いいけ…」

「じゃあ、決まり!早く行こっ」


 ……またもや、あたしの言葉は皇子に遮られました。

 そんなに城下町行きたいんですか。

 というか皇子が軽々しく街に出ていいんですか。

 ついそう聞いたら、皇子はこう笑って答えた。

 『父さんが王族たるもの街の様子は知っておくべきだって。だから、僕はいつでも街に出れるんだ』って。それはそれは、満面の輝かしい笑顔で仰ってくださいました。

 ――王様!


「セナはこの国のこと良く知らないんでしょ?」

「あたし、言ったっけ?」

「ううん。でも、僕が後継ぎっていうのはこの国では周知の事実なのに、セナは知らなかったからさ。そう思っただけ」


 周知の事実だったんだ…。

 じゃあ、わざわざ第一皇子に理由聞かなくても、他の人に聞けば…


「僕は理由知らないからね」

「え?」

「兄さんが継がない理由、僕は知らないから。僕が後継者ってことが周知の事実なら、兄さんじゃなく、他の人に理由聞けばいいって考えたでしょ?でも無理だよ。理由を知っているのは父さんと兄さん、後は宰相のカートレズツ位だからね」


 あたし、そんな分かりやすかったかな?なんて考えていたあたしにはカレンが、悲しそうな顔で俯いていた事に気付きはしなかった。

 無意識にカレンの闇に触れてしまっていたことなど気付きはしなかった。











 場所は変わって、ただ今いる所は城下町の入り口。

 大きな噴水が微かに音を立て、居心地が良い。

 ベンチもいくつかあって、その全てに国民か旅人かそれともそのどちらでもないのか、それは良く分からないが、人々が腰掛け、足を休めていた。

 皆が皆、穏やかな、そして幸せそうな表情。

 この国は平和なのだと思った。

 ……朝あんなことがあったばかりだと言うのにそう思った。


「カレン、この国好き?」

「んーまあ、生まれ育ったところだからそれなりに愛着はあるよ」


 そう言うカレンの目はすごく優しかった。

 口では『それなり』なんて言ってるけど、本当はこの国を愛しているのだろう。


「カレ…」

「あっ、カレスティア様だぁっ!!」

「ほんとだー!かれすてぃあさまぁーっ」

「あらあら、本当ね。カレスティア様ったら、また街に降りていらっしゃってるわ」

「またわしの店に寄ってって欲しいもんじゃの」


 カレンと呼び掛けようとしたあたしの声にかぶさって聞こえてきた声は老若男女を問わない複数の声。

 小さな子供達はカレンに駆け寄り、必死に話し掛ける。

 お母さん世代はうちの子が皇子に何か粗相をしでかさないか、なんて考えている素振りもなく、ただ微笑ましい光景だと優しく見つめているだけ。そんな彼女達は、慈愛に満ちあふれていた。

 あたしに一切構うことなく…というかあたしなんか視界に入っていないのだろう子供達は、あたしの存在を無視してはしゃぐ。そんな子供達にあたしもいつしか笑っていた。

 カレンがすごく歳相応に見えて、何だか安心する。

 カレンは、同年代の子よりも重いものを抱えているように見えたから。けれど、子供達に囲まれ、困りながらも笑っているカレンは普通の子と寸分の変わりもなかった。


 しばらくすると、お母さん世代の方々の一部がふとあたしに気付いたように目線がこちらを向く。


「あら、あの子は何処の子かしら」

「この国では見たことない色だわ」

「とっても可愛い子じゃない!うちの息子の嫁にしたい位よ」


 いえ、貴方の息子さんの嫁は勘弁してください。

 ついつい口から出てしまいそうになって、慌てて口元を引き締める。

 そして、違うことに意識を向けた。

 …この黒髪はやっぱり目立つらしい。

 そんなことなら、茶色に染めとけば良かった。なんて思っても今更だけど。

 次からはフードか何か被って、髪と目を隠しといた方が良いかも。


 あたしが自分の持つ色についてどうするべきか考えている間、カレンがいらないことを堂々と公言していたことには気付きもしなかった。










 時は少し遡り、カレスティアが子供達に駆け寄られた頃。


「今日は広場で遊ぼーっ」

「かれすてぃあさま、きょうはわたしのおうちにあそびにきて!」

「早く遊びに行こーぜ!」

「はやく、はやく、カレスティアさまっ!!」


 小さな子供四人に囲まれ、身動きのとれなくなってしまったカレスティアは、心底困り果てていた。

 今日は、セナと一緒にいたいんだ、と。


「今日は誰とも遊べないんだ」

「「「「えぇーーー!?」」」」


 不満たらたらな子供達の声。

 カレスティアには少し罪悪感が芽生えたが、それでも尚、言葉を紡いだ。


「僕は其処にいる…」


 ――女の子と先に約束してるから。ごめんね。


 そう言葉を続けようとしたけど、出来なかった。言葉を発する前に、思考が別のことへと向いてしまったから。


「あら、あの子は何処の子かしら」

「この国では見たことない色だわ」


 カレスティアには、セナのことだ、と直ぐに分かった。

 セナの……彼女の色は確かに珍しい。カレスティアには大した問題でもなかったけれど、他の人から見たらどう思うか、カレスティアは密かに案じていた。だか、その心配は杞憂に終わりそうだ。カレスティアは心の中で、ほっと息を撫で下ろしていた。

 でもそれは直ぐにおさまることになる。…次の一言によって。


「とっても可愛い子じゃない!うちの息子の嫁にしたい位よ」


 何を言ってる!と叫びたくなった。

 ……というか、既に叫んでしまっていた。


「カレスティア様?」

「……セナは…彼女は僕のものなんだから、軽々しくそんなこと言わないでくれる?」

「……カレス、ティア、様?まさか…この方を…!?」


 今まで微笑んでいた大人達がザワザワと騒ぎ出す。

 子供達は状況を理解できなかった、というよりはカレスティアの言葉が理解できず、皆首を傾げていた。

 カレスティアはむくれ、セナは思考の海にどっぷりと浸かっているため、反応せず。

 辺りの空気が一瞬にして変わってしまった。


「カレスティア様、その方は後の王妃となるお方なのですか?」

「……そうだよ」

「まあ!それはもう決まったことですか!?なら、直ぐにでも婚約発表なさった方がいいです!国民一同、心よりお祝い致します!」

「わしの店に二人でおいでなされ。目一杯、歓迎しよう」

「後で家にいらっしゃって?カレスティア様達の為にケーキを用意するわ」

「そうね!そうと決まったら、直ぐ取り掛かりましょう!」


 好き勝手言っている人々。

 カレスティアは、ただただ圧倒されている。

 セナは人々に囲まれ、質問攻めにあいながらも、未だ思考の海から抜け出せていないようで、ただ下を向いていた。


 しばらくたって、やっと復活したカレスティア。

 セナは大丈夫かとセナの姿を探した。


「……あ、」


 セナは先程よりもたくさんの人々に囲まれていた。

 だが、セナ自身は寸分も変わらない姿で俯いている。

 思考の海に浸かっているとは知らないカレスティアは、その姿からセナが質問攻めにあって、困惑、もしくは迷惑しているのだと考えた。所謂勘違い、早とちりというやつである。


「……っ!セナが困ってるだろっ!今日はもう僕達に普通に、いつもと同じように接してくれ」


 カレスティアのその一言で、人々が落胆しながらもしぶしぶ散々に帰っていったのは、お分りだろう。


 これはセナが思考の海にどっぷりと浸かっていた時のお話。

 セナはこんなことがあったなどという記憶は片隅にも残ってはいないのだ。





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