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09.5#実は甘えたがりな年頃

 僕はカレスティア・ラクティスヘレスト。この国の第二皇子にして、後継者。次期国王。

 本当は長男の兄さんが次期国王となるはずだったのに、兄さんはあっさりと僕にその地位を押しつけた。

 別に国王になんかなりたくはなかった。意地汚い人間の上に立つなんて、僕はごめんだと常々言っていた。それなのに、だ。

 兄さんは何故、僕に押しつけた?兄さんの方が絶対に国王に向いているはず。

 けれども、兄さんが次期国王の地位を棄てた理由は誰も教えてくれなかった。現国王である父さんも。勿論、兄さんも。

 僕は心底この国などどうでもいいと思っている人間だった。

 王族である地位も権力も金も栄光も何一ついらなかった。

 僕はただ、自分の居場所が欲しかった。自分の心が休まる安穏とした場所が。


 母親は既にいなかった。僕が6歳の時に病で亡くなった。その時、涙は出てこなかったが、心にぽっかりと穴が開いたような気がした。

 あれから8年という月日がたって、いつの間にか僕は14歳になっていた。だけど未だ開いた穴は塞がろうとしなかった。

 周りにいた沢山の人間は、信用出来なかった。信用出来たのは昔から傍にいた侍女のルリシアーネットと父さんと兄さんだけ。


 でも、父さんと兄さんは僕をどう思っているのだろうか。

 何故僕が跡を継がなければならない?

 何故理由を教えてくれない?

 何故真実を隠そうとする?


 分からない分からない分からない。


 既に僕の心はボロボロだった。

 僕自身もそれに気付いていた。

 それでも、必死に周りに、自分に嘘を吐き続けていた。


*****


 いつものように、朝の散歩に出かけた。

 朝は空気が澄んでいて、居心地が良い。だから僕は良く朝は散歩に出かける。

 今日は清々しい蒼い空。

 何だか今日はいつもと違う。

 騎士や侍女達が何かソワソワしている気がする。

 何だろう。今日特別なことなんかあったっけ?


「可愛かったよなぁ…」

「うんうん!水色のワンピースめちゃ似合ってたし!」

「俺、挨拶されちゃった〜」

「はぁ?ずりー!」

「声もメチャクチャ可愛かったぜっ」

「俺も挨拶されて〜!」


 廊下の曲がり角、そんな騎士達の興奮した声が聞こえてきた。

 耳を澄ませて、聞いていると、話題の中心の『水色のワンピースの顔も声も可愛い』という人物は、昨日の夜からこの城に滞在しているある少女らしいことが分かった。

 その少女は、第一騎士団隊長と第一魔術団隊長が連れてきたらしく、少女が何者なのか憶測が飛びかっているらしい。


「……あのガルロスとリウナスが連れてきた?」


 その少女に興味が湧いた。

 朝早くから父さんと対面するらしい。なら、謁見の間だ。


 別に少女の正体がどっかの国の姫でも、位の高い貴族の娘でもどうでも良かった。

 ただ少し興味が湧いただけ。

 もし、プライドが高いだけの勘違い女や媚を売るしか脳のない馬鹿な女なら、即刻この城から追い出そう。

 そんな女はただ苛つく原因にしかならないから。


 僅かな期待と好奇心。


*****


 謁見の間に向かう途中(隠し通路を通って時間短縮)、水色のワンピースを着た少女と侍女のルリシアーネットにばったり出会った。

 沢山いる侍女の中でも古株で昔から僕の傍にいるルリシアーネットは僕を前にしても堂々と話す。それが何だか嬉しくて、良く離す間柄である。

 そんなルリシアーネットの隣にいる見たことがない少女。

 あの話の渦中の人物であることはすぐに分かった。

 黒い艶やかな髪と吸い込まれそうになる程深い黒瞳。首元と右手首には乳白色の宝石が嫌味なく存在感を放ち、彼女を彩っている。白い肌、淡い唇。男を誘っているのだろうか。

 大きな瞳に見つめられ、胸が高鳴った。

 そんなことは初めてでどうしていいか戸惑う。


 そんな僕とは対照的に落ち着きを見せる少女。

 少し驚いたように見えたが、直ぐに何故か呆れたようなそんな表情に変えた。

 声をかけてみても、僕の正体を知っても、媚びようとしない。それが新鮮だった。

 僕と同じくらいの年であろうその少女は、媚びようとするどころか、僕など視界に入っていないかのように、上の空。


 何だかイライラして、つい『僕のこと、好きに呼ばせてあげる』だなんて言ってしまった。

 ポカーンとしてキョロキョロする彼女は愛らしい。

 計算などされていないその素の表情が好ましい。

 確実に彼女に引かれはじめている自分がいた。


「セナっていくつ?」


 謁見の間へ行く途中で彼女に問う。


「……17」

「……それ、本気で言ってる?」

「嘘言ってどうすんの」


 セナが僕に対して敬語を使ったのは初めだけだった。僕が使わないでって言ったら、あっさり了承。なのに侍女のルリシアーネットには、敬語を使う。セナは変な奴だ、そう思った。

 さっき会ったばっかだけど、セナだったら、本気で結婚してもいいかな、なんて頭の片隅で考えた。


「なら、カレンって何歳?」


 ――カレン。

 彼女だけが使う僕の愛称。

 きっとこの先も僕のことを『カレン』と呼ぶのは彼女だけだろう。

 女の名前みたいで気に入らないけど、彼女の声に呼ばれるなら何だっていいなんて僕はどうしてしまったんだ。


「僕?今年で14になった」

「……それ、マジ?」

「マジって何?」

「……それ、本当?」

「うん、本当」


 別にたった3歳差なんて気にはしないけど、出来れば同い年が良かった。そんな考えが頭をよぎった。


「セナ、やっぱり僕と結婚してよ」

「馬鹿言わないの。皇子様が一般市民のあたしと結婚なんて出来るわけないでしょ」

「僕はセナがいい」

「まだ14なんでしょ。きっと数年たったら、もっといい人見つかるから、あたしなんかをからかわないの」

「……セナじゃなきゃヤダ」

「……」


 僕はセナの左手首を掴む。

 初めて自分から女に触れた。

 仲良しであるはずのルリシアーネットだって、触れ合いたいなどと思わなかった。

 でも、セナは…自分から触れないと、自分で繋ぎ止めておかないと、どこか遠くに行ってしまいそうで。


「……僕の手の届かないところに行かないで」

「カレン?」


 恥もなく、セナに縋りついていた。

 さっき会ったばっかの、どこの誰とも知らない女に縋りつくなんて、僕らしくない。

 僕は常に人の上にたち、やがてはこの国を支える柱となる人間なのに。


 彼女なら、セナなら、僕の心に開いた穴を埋めてくれるかもしれない。

 僕の孤独を理解して、僕を救ってくれるかもしれない。

 不思議と何の根拠もなしにそう思った。


 セナの腕に自分の腕を絡める。

 心が確かに暖かくなった。

 彼女が傍にいるなら、いてくれるなら、この国を支える柱となるくらいなんてことのないものような気がしてきた。


「セナ、父さんとの謁見が終わったら、僕の部屋に来なよ」


 まだ、話し足りないからさ。

 そう言ったら、セナは笑った。

 その笑顔が何だか眩しくて僕もつい笑ってしまった。

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