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08#恥ずかしい失態を思い出して赤面。

「ん……っ、」


 目蓋をゆっくりと押し上げると、視界に入ってきたのは白い天井だった。

 周りを見渡して場所を確認。どうやら、ここはあたしに用意された客室の一室、寝室であるようだ。因みにあたしはベッドに寝かされていていたらしい。

 さすがはお城…。ベッドがフカフカすぎて落ち着かない…。

 あたしは、いつの間に寝ていたのだろう。

 部屋の窓の外を伺うと、まだ夜が更けていないことに気付く。いくら普段早起きなあたしでも、こんな空が白み始めてもいないような時間には普通起きない。いくら落ち着かないベッドで寝ていたとしても。

 あたしは何でこんな時間に起きている?いや寧ろ、何で寝た記憶がない?


 未だ重い目蓋をゆっくりと閉じ、一番最近の記憶を思い出そうとする。

 そして、未だ活動をしてくれなかった頭がようやく活動し始めてくれたのか、ぼんやりとした記憶が脳内を掠めた。

 ……人型リーの整った顔のドアップ。

 あぁ、そうだった。あたしは良く分からないうちに唇を奪われたんだっけ…。

 そして、息が苦しくなってきて……


「……キスで意識失ったのか、あたし…」


 恥ずかしすぎる。

 もっとマシな意識の失い方が良かった…、なんて訳の分からないことを考え始めるあたし。

 何だか一日で痛い子になりつつある。嫌だ。心底嫌だ。


 冷静になって考えたらあたし、あれがファーストキスだったことに気付いた。

 ファーストキスがこんな感じに奪われちゃっていいものなのか。

 寧ろ、あれはカウントするべきなのか。相手は人型だったとしても、本性は人外だぞ。愛するペットにキスされたようなものじゃないだろうか。

 ……舌まで入れるペットなんて聞いたことないけど。


「……セナ、起きたか」


 問い掛けるというよりは、ただ確認するようなそんな声が、ベッドの脇から聞こえてきた。あたしは、ベッドから起きるわけでもなく、ましてや布団から出るわけでもなく、そこを見下ろす。

 見下ろした先には予想通り、小さくなった竜がいて。


「起きたよ」

「……済まぬ。激しくしすぎた」

「……どうして?どうしてあんなことしたの?」


 答えは何となく分かっている。

 答えを聞くまでもなく、あたしの考えは当たっているだろう。

 それでも敢えて問い掛けたのは、少しくらい罪悪感というものを味わってもらうため。

 それで罪悪感を覚えるなんてことは、ないに等しいのかもしれないけれど。


「竜型では心に触れて魔力を貰っていた。心に触れるのは心を開いたお互いが少しでも触れ合う、それだけで良かった」

「……人型は…?」

「人型では…それが…心に触れることが出来ぬ。人型のまま心に触れると、存在が混じり合ってしまう危険があったのだ」


「存在が混じり合う…?」


 いったいどういうことだろう?

 言葉そのものでとれば良いのか、それとも、何かの比喩であるのか。判断がつかなくて、あたしはただ無意識に首を傾げるばかり。


「2つの精神が混濁するのだ。考え方、想い、記憶さえも混じり合い、どれが自分のものなのかも判別出来なくなる。そして最終的に性格など、個性というものは全て変化してしまうのだ。勿論、一度変化を遂げてしまったものは二度と元の形には戻りはせぬ」

「……」


 あたしは、言葉を発することが出来なかった。

 頭に浮かぶのは、ちんけな言葉のみで、口に出そうとも思わなかった。


 もっと詳しく聞きたいとは…思った。

 実行したことがない(したら精神混合して…きっと精神破壊するであろうから)リーが、何故そこまで詳しい内容を知っているのだろうか。実際経験した人がいたのだろうか…。


「……その危険を回避するには対象相手と深く繋がらねばならなかった」

「……先に言ってよ…」


 そう呟いたら、リーは『済まなかった』と小さな頭をぺこりと下げていた。

 その仕草が可愛くて、つい無条件で許してしまいそうになる。

 でもそれでは駄目だと自分をいさなめた。


「キスされた理由は分かった。納得はしてないけど、分かった。……でも本当に他のやり方なかったの?」

「……いや、あるにはある。だが使えぬ」

「……それにも危険が伴うとか?」

「そのようなものだ。あれが、一番安全で、かつ、手っ取り早かった。だから実行した」


 さっきまでの態度はなんだったのか、今度は飄々と言葉を紡ぐリー。

 何だか怒る気も失せて、眠気が襲ってきた。

 まだ外は暗い。夜が明けるまではまだ長そうだ。

 もう一眠りしよう。そう決めて、あたしはベッドの脇にいる小さな竜型のリーを抱き上げた。


「今日はもう寝よ」

「…うむ」

「おやすみ…」

「……良い夢を…」


 リーが小さく呟くのを聞いて、あたしは目を瞑って、夢の世界に旅立った。

 リーはあたしの腕の中にいて、何だか窮屈そうだった。

 明日はきっと王様との謁見だ。恥をかかない程度に頑張ろう。

 次第にリーの目蓋も落ちていく。

 あたし達二人が完全に眠りに落ちた時には既に夜が明け始めていた…。





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