終わりの始まり
第一節
何故だろう。寒気がする。まるで生きている実感がない。君に、逢いたい…。
いつも通りの朝。目覚まし時計を叩き、五分ごろついてから起きる。小学六年生、サッカークラブ所属の男子にして、朝食もとらずに足早に家を出る。このスニーカーは、校庭の開放で遊んだせいで靴紐が破けている。
今日は小学校最後の運動会。健全な男子小学生ならば、気になるあの子にいいところを…!なんて考えるものなのだろうけど、僕は生まれてから一度も女性を魅力的に感じたことがない。ただ、一人だけ、仲良くしている女の子がいた。名前はまひろ。彼女はいつも教室の端で静かにしているいわゆる陰キャラ女子だが
僕より足が速い。かなり速いのだ。
徒競走の時間がやってきた。僕の学校では女子が初めに走り、男子はその後のため、始まりの五分間、男子は応援にまわる。ふと目をやると、まひろがいた。第六レーン。ピストルの音。五十メートルをまひろは七秒ほどで走ってみせた。無論一位だ。ただ、まひろは何故か曇った表情を浮かべて選手席に戻った。ちなみに僕は六位中三位だった。どうも短距離走は苦手だ。
粗方種目が終わり、団体競技線の前に休憩が入った。特にすることもなかったから、まひろの一位を褒めにいくことにした。だが、まひろはどこにもいない。校舎裏にも、休憩所にも、どこを探してもいないのだ。休憩時間が残り五分を切ろうとする。いい加減諦めて、僕はトイレに向かった。何かの物音と人の声。声質的に女子だ。四つの声。一つだけ聞き覚えがあった。まひろが女子三人に囲まれていた。遠目で話を聞く僕。どうやら、徒競走でまひろに負けた三人が、まひろに言い寄っている。こんなこともあるだろうとスルーし、トイレにはいる僕。すると突如、鈍い音が耳を刺した。
バチッ
慌てて外に出ると、頬がミミズ腫れしたまひろが女子三人の前でうずくまっているのが見えた。体が自然に動いた。女子三人をどつき、まひろから遠ざけた。
小学校最後の運動会。小学校最初の女子への怒り。
次の日から僕は、まひろ以外の学年全員の女子から避けられるようになった。
女子ってこうゆう生き物なんだ。僕はトラウマを抱えてしまった。
第二節へ続く