表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/81

09 ◇一寸の中卒にも五分の魂がある。怒る時は怒る◇

「な、何よあなた……急に黙り込まないでよ」


 大家のオバサンにそう言われて、私の意識は現在に戻ってくる。


 いま思い出してみると……あのエグザイル冒険者事務所のオイダよりは、こっちの事務所のおっさんは、いくらかマシだったかもしれない。


 少なくともこっちのおっさんは、私を見て、指を差して笑いものにしたりはしなかった。


 ……まあ、大家のオバサンに私をけしかけたのだって、相当に悪質なのは否めないけど。


 それでも、とりつく島もないどころか、人間以下の珍獣みたいな扱いをしてきた、さっきの事務所よりはマシだ。


 ここで私が何かをすれば、もしかしたら、道が開けるかも知れない。


 そう思える程度には、さっきのおっさんの態度は、マシな方だった。


 だったら……私は与えられたチャンスに、片っ端から飛びついていくしかない。


 いまの私には、そうやって一つ一つ、目の前に現われた小さなチャンスに、しがみついていくことしかできないんだ。


 なのに。

 そんな、私の気も知らずに。


 他の事務所に行け、とか……。

 このオバサン……勝手なことばかり言って!


「……もう頭きた! 先にスキルを使ったのはそっちだから、これは正当防衛ですからね!」


 そう言って、私は手をかざして集中し……それ・・を具現化させる。


 その熱で、私の顔や服に残っていた水分は残らず蒸発して、私の皮膚は、慣れ親しんだ柔らかい光によって包まれていく。


「な……な……」


 私の頭上に、徐々に形を取って顕現してきたそれを目にして、オバサンの顔は見る見る強張っていき……


 やがて、それが獣の形を成して咆哮した時……ついに、オバサンは悲鳴を上げた。


「キャーーーーーーーーッ!」


 次いで「コテン」と、漫画みたいに仰向けに倒れてしまうオバサン。


 威嚇してみせるだけで驚いて逃げるだろうと思っていた私は、まあ大体予想通りの結果になって、大いに満足した。


「ふっ……」

 スキルを解除しながら、私は勝ち誇ってガッツポーズ。

「勝った!」


「おい! なんだ今の悲鳴は!?」


「あ、所長さん!」


 慌ててこっちに駆け寄ってくる所長さん……確か、ケンイチさんだっけ……に振り返って、私は笑顔で言う。


「やりましたよ! 私、ドアを死守しました!」


 はしゃぎ回る私。


「これで、実技試験合格ですよね! やった! 私の、社会人としての、初勝利です!」


 ……だが、しかし。


 ケンイチさんは、廊下に横たわるオバサンと、笑顔ではしゃぐ私とを見比べて。


 血相を変えて、こう叫んだのであった。


「何してくれちゃってんの、お前えええええええええええええええええええええっ!?」


 ………………あれえ?

実はこのオバサン、モブではありません。乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※この作品には時々、税金・法律などの話が出てきますが、実際の税務・法務等の参考には絶対にしないでください。作中の記述を参考にして損失をこうむった場合でも、作者は責任を取れません。税務・法務などの問題は、専門家に相談してください※
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ