08 ◇中卒の面接◇ ~ざまぁ伏線回~
今回、かなり不愉快な男が登場しますが、後できっちりざまぁされますので、お楽しみに!
その時、私が面接を受けていた冒険者事務所は、二十代後半ぐらいの、若い男の人が所長さんだった。
その所長さんは、
「うえっ!? 中卒!? 中卒で働こうとしてんの!?」
と言いながら、面白おかしそうに笑っていた。
私はなんだか、自分が悪いことをしているような気持ちになって、うつむきながら低い声になって、こう答えた。
「は、はい……ちょっと、経済的な事情で……」
「うわっ!? マジで!? この現代日本に、そんな人いるんだ!?」
「はい……」
「うわあ! レアじゃん! 超激レアじゃん! 絶滅危惧種だよね!? 俺、初めて見たよ、そんな人!」
「そ、そうですかね、けっこういると思いますけど、あはは……」
「えー、そんなことないよ~レアだよ~!
……あ、でも俺って、幼稚園の頃から私立のエリート校だから、これまでそういう人と縁がなかっただけかな?
いやー、だとすると、ここで出会えたのは、奇跡みたいなもんだね!
中卒なんて人が実在するなんて、夢にも思わなかったよ!
記念に一枚、写真撮っていい?」
「そ、それはちょっと……」
「アハハハハッ! 冗談だよ! 俺だって、中卒の写真なんか欲しくないからね!
だって、スマホに入ってる写真が目に入るたびに、嫌な気分になるじゃん!」
「……」
「それで、何? ウチで働きたいの?」
「は、はいっ!」
「プッ! ギャハハハハハハッ!」
その人……確か追田颯太さんとか言ったか……は、縮こまる私を、指差して笑っていた。
「聞いたか!? 聞いたかよオイ! この女、中卒の分際で、ウチで働きたいってよ!」
オイダさんがそう言うと、周囲にいた三人のスタッフたちも「ハハハ……」と乾いた声で笑った。
「ちゅ、中卒じゃ、ダメなんでしょうか……?」
「クスクス……ダメに決まってるじゃん。
二十代にしてS級冒険者の資格を取ったこの俺が、中卒なんか雇ってるって知られたら、俺、恥ずかしくて表を歩けなくなっちゃうよ。
引きこもりになっちゃうよ、プププ……」
「で、でも私には、ユニークスキルが!」
「あーよくいるんだよね。キミみたいな、勘違いした若い子」
「中卒だからって決めつけないでください! 履歴書にも書いたとおり、私は――」
「こんな手書きの履歴書、誰が読むかっつーの。持って帰ってよね。シュレッダーの電気だって、タダじゃないんだから」
「そ、そんな……」
「ほらよ」
オイダさんは、履歴書を私に向かって放り投げながら言った。履歴書が床に落ちる。私はそれを拾わされる。
そんな私を見下しながら、オイダさんは続けた。
「あのね。我がエグザイル冒険者事務所はね。規模は小さいけど優秀な冒険者が集まってるって評判なんだ。
それでいまね、とある大手事務所と合併して、法人化しようって話が来てるの。
法人化したらさー、その勢いに乗って、IPOまで行きたいと思ってんだよねー」
「あいぴー……?」
「IPO。株式上場のことだよ。あっ、そっか、中卒にはわかんないかー。そりゃそうだよな! 中卒だもんな!
いやゴメンね! 忘れてたよ! もう二度と忘れないから安心してね!」
「……」
「IPOさえやっちゃえばさー。俺が持ってる株式を売りに出して、大儲けできるんだよね。
数億円ぐらいだったら、簡単にドカーンと儲けられるんだよ。上場株式の売却益は、税金も安いしね!
俺たち実業家は、国から優遇されてるからさ! これも上級国民の特権ってやつかな! ギャハハハハハハ!
……ねえ、いまの話聞いて、キミはどう思った?」
「わ、私にとっては、縁遠い話だと思いました……まるで、雲の上にあるような」
「その通りっ! テメーみたいな中卒には、縁もゆかりもない話なんだわ! ギャハハハハハハ!」
「……」
「大丈夫! お前だけじゃないよ! 仲間は一杯いるよ!
なにせ、地べたを這いつくばるようにして、毎日セコセコ働いてる連中には、一生関係ない話だからな!
ギャハハハハハハ!」
「……」
「……で? そんなウチの事務所に、お前は貢献したいの?」
「は、はいっ! 私、何でもします!」
「んー、でもまあ、何もしてもらう必要は無いよ。もう、十分に貢献してくれてるから」
「は……?」
「今日の夜ね。俺のSNSの裏アカに、お前の話を書き込ませてもらうわ。
『今日、ウチの事務所のおこぼれを漁りに来た卑しいハイエナ(中卒w)を追い払いました。帰る時は涙目だったのが超ウケます。高校も行けねえクズが、働いて給料もらおうなんて虫が良すぎるんだよ。一生底辺で居続けろ。ざまぁ』
ってな。きっとみんな大ウケだよ。いやあ、どれぐらい拡散されるか、楽しみだなー。ほんとアリガトねー」
「わ、私はハイエナじゃありません! ちゃんと、お給料分の仕事をしてみせます!」
「あー、もう飽きてきたから、帰っていいよ……言っとくけど、ここで言われたことを、ネットに書き込んだりすんなよ?
もしそんなことしたら、こっちもテメエの本名を流出させてやるからな。
そうなったら、今度こそもう、二度と就職なんて出来なくなる。
わかったか、中卒ちゃん?」
「……」
「テメエみてえな中卒はな。とっくの昔に、社会から追放されてんだよ。
そのことを自覚しろっつーの……まあでも、大丈夫だよ、安心しろ。
十分楽しませてもらったから、金は出してやる。ほらよ」
そう言ってオイダさんは、財布から百円玉を取り出して、私に向かって投げつけてきた。
「こんな端金でも、お前みたいな中卒にとっては大金だろ?
おひねりってやつだ。あ、おひねりってわかるか? お笑い芸人とかがもらう金でさ――」
私はお金を拾わずに席を立って、事務所を出た。
涙目だったかもしれない。
でも、泣かなかった。
あんなやつに涙をみせたら、負けだと思ったから……。